RAGを利用すると、生成AIに社内文書や業務マニュアルなどを検索させ、その内容をもとに回答を作らせることができます。
社員が膨大な資料を自分で探さなくても、AIに質問するだけで必要な情報を得られるため、非常に便利な仕組みです。
しかし、RAGを導入するときには大きな注意点があります。
それがアクセス権限です。
たとえば、人事部だけが閲覧できる面談記録をRAGの検索対象にしたとします。
一般社員は元の面談記録を直接開くことができなくても、生成AIがその資料を参照できる状態になっていれば、AIへの質問を通じて内容を知ることができてしまう可能性があります。
参考記事では、このような問題をRAG利用時の重要なリスクとして取り上げています。
生成AI時代には、
「元のファイルを誰が見られるか」
だけでなく、
「AIがその情報を誰に答えることができるか」
まで考える必要があるのです。
アクセス権限とは何か
アクセス権限とは、簡単にいえば、
「誰がどの情報を見ることができるのか」
を決める仕組みです。
会社にはさまざまな情報があります。
全社員が閲覧できる業務マニュアルもあれば、特定の部署だけが閲覧できる資料もあります。
人事情報であれば、人事部門や一部の管理職しか閲覧できないものもあるでしょう。
経営に関する重要な資料であれば、役員など限られた人だけが閲覧できる場合もあります。
従来は、ファイルやフォルダ、業務システムなどにアクセス権限を設定することで、情報を閲覧できる人を制限してきました。
ところがRAGを導入すると、このアクセス権限をAIについても考える必要が出てきます。
元データの閲覧権限
たとえば、人事部が社員との面談記録を保存しているとします。
そのフォルダにはアクセス制限が設定されており、人事担当者しか閲覧できません。
一般社員がそのフォルダを開こうとしても、権限がないため閲覧できません。
従来であれば、これによって一定の情報管理ができました。
しかし、その人事面談記録をRAGの参照対象にすると状況が変わる可能性があります。
RAGでは、生成AIが社内資料を検索して、その内容をもとに回答します。
つまり、社員本人には資料を見る権限がなくても、生成AI側がその資料を参照できる状態になる可能性があるのです。
そこで問題になるのが、
「AIが参照できる情報と、AIを利用する社員が閲覧できる情報をどう一致させるか」
という点です。
AIの回答を通じた情報取得
参考記事では、RAGのアクセス権限に関する具体例として、人事部門が管理する面談記録を取り上げています。
面談記録のなかに、社員について機密性の高い情報が含まれていたとします。
その資料をRAGの検索対象にしたにもかかわらず、適切なアクセス制御が行われていなければ、本来その情報を見ることのできない社員がAIへ質問する可能性があります。
たとえば、
「〇〇さんの状態について教えてください」
と質問したとします。
生成AIが人事面談記録を検索し、その内容を要約して回答してしまえば、質問した社員は元の資料を直接開くことなく、内容を知ることができてしまいます。
ファイルそのものへのアクセス権限は守られていても、AIが情報を取り出して回答してしまえば、結果的に権限外の情報が伝わることになります。
これがRAGを導入するときに考える必要がある新しい情報管理の問題です。
元資料を見せなければ安全とは限らない
従来の情報管理では、
「このファイルは一般社員には公開していないから大丈夫」
と考えることができました。
しかし、生成AIがそのファイルを検索できるようになれば、それだけでは十分とは限りません。
生成AIは質問された内容に応じて、元資料の一部分を取り出したり、複数の資料をまとめたりして回答できます。
つまり、社員が元資料そのものを見なくても、その内容を知ることができる可能性があります。
RAGを利用する場合には、
元資料への直接アクセス
AIを経由した間接アクセス
の両方を考える必要があります。
AIという新しい情報への入口ができるからです。
AIにも権限管理が必要な理由
参考記事では、この問題への対策として、RAGで利用するデータソースに対する厳格なアクセス権限の設定を挙げています。
重要なのは、AIが参照できる情報を一律に考えないことです。
たとえば、一般社員が社内AIへ質問した場合には、全社員向けの資料だけを検索できるようにすることが考えられます。
人事担当者が利用した場合には、人事担当者に閲覧権限がある資料まで検索できるようにするという考え方もあります。
つまり、
「AIが何を知っているか」
だけではなく、
「質問している人の権限では、どの情報まで回答してよいか」
を判断できる仕組みが必要になります。
参考記事では、AIがユーザー本人のアクセス権限を超えた情報を回答しないよう、システム上のガードレールを設けることも重要だとしています。
機密情報を最初からRAGに入れない方法もある
アクセス権限を細かく設定するだけが対策ではありません。
参考記事では、そもそも機密性の高い情報を含むデータソースをRAGの対象から除外することも対策として示しています。
たとえば、社内AIの目的が、
就業規則について回答する
経費精算の方法を説明する
社内システムの操作方法を案内する
といったものであれば、人事面談記録まで検索対象にする必要はないでしょう。
RAGを導入するときには、
「社内にあるデータをできるだけ多くAIに検索させる」
ことを目標にするのではなく、
「AIの目的を達成するために必要なデータだけを検索対象にする」
という考え方が重要になります。
データソースごとに考える
会社の資料には、それぞれ異なる機密性があります。
全社員向けの業務マニュアルと、人事部門の面談記録を同じように扱うことはできません。
そのためRAGでは、データソースごとにアクセス権限を考える必要があります。
たとえば、
全社員向け資料
特定部署向け資料
管理職向け資料
人事部門限定資料
などでは、閲覧できる人が違います。
参考記事では、RAGを利用するときにはデータソースのガバナンスが重要だとしています。
どの資料をAIへ参照させるのか。
誰がその情報を取得できるのか。
機密性の高い資料を除外する必要はないか。
こうしたことをRAGの構築段階から考える必要があります。
AIは情報管理の抜け道になってはいけない
会社がファイルやシステムに厳格なアクセス権限を設定していても、生成AIから同じ情報を簡単に取得できるのであれば、従来のアクセス制御が意味を失ってしまいます。
社員からすると、
「元のファイルにはアクセスできないが、AIに聞けば教えてくれる」
という状態になるからです。
生成AIを導入することで、これまで会社が作ってきた情報管理の仕組みに抜け道を作ってしまってはいけません。
RAGを利用する場合には、
「この社員は元資料を見る権限があるのか」
という考え方を、
「この社員はAIからこの情報を受け取る権限があるのか」
というところまで広げる必要があります。
最悪のケースから考える
参考記事では、生成AIを利用するときに最悪のケースを考えることの重要性も指摘しています。
RAGであれば、
「この資料をAIが検索できるようにした場合、最悪の場合には誰にどの情報が表示される可能性があるのか」
と考えることができます。
たとえば、人事面談記録を登録するのであれば、本来見ることのできない社員へ内容が表示された場合を考えます。
その結果として問題が大きいのであれば、
RAGの対象から外す
アクセス権限を厳しくする
AIの回答を制限する
といった対策を検討する必要があります。
便利さを優先してすべての資料をAIに与えてから問題が起きるのを待つのではなく、問題が起きた場合を想定して設計することが重要なのです。
結論
RAGのアクセス権限とは、生成AIが社内資料を参照するときに、誰がどの情報をAI経由で取得できるのかを管理する仕組みです。
従来は、元のファイルやフォルダを閲覧できる人を制限することで情報を管理してきました。
しかしRAGでは、元資料を直接見る権限がない社員でも、AIがその資料を参照して回答すれば、内容を知ることができてしまう可能性があります。
そのため、RAGでは元資料へのアクセス権限だけでなく、AIを経由した情報取得についても権限管理が必要です。
機密性の高い資料をRAGの対象から除外する。
データソースごとにアクセス権限を設定する。
AIが利用者本人の権限を超えた情報を回答しないようにする。
こうした対策が重要になります。
生成AIを社内情報の新しい入口として利用するのであれば、その入口にも従来と同じように鍵をかける必要があります。
RAGでは、
「AIがその資料を読めるか」
だけではなく、
「その回答を受け取る人に、その資料を読む権限があるか」
まで考えることが重要なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 生成AI時代の個人情報の取扱い