非上場株式の評価が60余年ぶりに変わるのか 相続税と事業承継を左右する大改正の論点

税理士
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国税庁で、取引相場のない株式、いわゆる非上場株式の評価方法について大きな見直しの議論が進んでいます。

中小企業のオーナーにとって、自社株の評価額は単なる会社の株価ではありません。

相続税や贈与税だけでなく、誰に、いつ、どのように会社を引き継ぐのかという事業承継そのものに直結する問題です。

今回の議論で特に注目すべきなのは、60年以上続いてきた評価体系が抜本的に変わる可能性があることです。

そもそも非上場株式はどう評価するのか

上場会社の株式には、証券取引所で日々形成される株価があります。

ところが、中小企業などの非上場会社には市場価格がありません。

そこで相続税や贈与税を計算するときには、財産評価基本通達に定められた方法によって株式の価額を算定します。

代表的な方法の一つが類似業種比準方式です。

これは、上場している類似業種の会社と比較しながら、配当、利益、純資産などを使って非上場会社の株価を評価する仕組みです。

この評価体系は長い歴史を持っています。

平成12年には配当、利益、純資産の比重が一対三対一とされ、利益を重視する仕組みに変更されました。

その後、平成29年には一対一対一へ戻されています。

このように修正は行われてきましたが、現在議論されているのは、さらに根本的な評価体系の見直しです。

見直しのきっかけとなった会計検査院の指摘

今回の議論の背景には、令和6年11月に公表された会計検査院の令和5年度決算検査報告があります。

これを受け、国税庁では取引相場のない株式の評価に関する有識者会議が設置され、令和8年4月から議論が進められています。

そして8月20日の第5回会議では、評価方法の見直し案となるたたき台が提示されました。

ここで重要なのは、評価方法が変われば、同じ会社でも相続税評価額が大きく変わる可能性があることです。

株価が上昇すれば、それだけ相続や贈与の際の課税価格も大きくなります。

したがって、これは単なる評価技術の変更として片付けられる問題ではありません。

残余利益方式とは何か

今回の議論で重要なキーワードになっているのが残余利益方式です。

企業が保有する純資産に対して通常期待される利益を上回って、どれだけ利益を生み出しているのかという収益力を企業価値に反映させようとする考え方です。

会社の利益を評価へより直接的に反映できる一方、収益力の高い会社では株式評価額が大きく上昇する可能性があります。

さらに利益を内部留保すれば純資産も増えていきます。

長年にわたり利益を蓄積してきた優良な中小企業ほど、自社株評価が高くなる可能性があるわけです。

日本商工会議所が一定の仮定のもとで行った試算について、高橋達也税理士は、残余利益方式では現行方式の二倍から五倍近くになるケースも示されていると指摘しています。

もっとも、これは一定の前提に基づく試算であり、実際の評価額が一律に二倍から五倍になるという意味ではありません。

最終的な評価水準は、今後決められる具体的な計算方法や還元率などによって大きく左右されます。

なぜ還元率が重要なのか

企業価値を収益から計算するときに大きな意味を持つのが還元率です。

将来得られる利益を現在の企業価値へ置き換える際に使われる重要な数字です。

還元率の設定次第で評価額は大きく変わります。

ところが、第5回有識者会議で示されたたたき台では、評価額を左右する還元率などの具体的な数値が示されていないとされています。

評価方式だけを見ても、最終的に株価がいくらになるのかは判断できません。

中小企業や税理士にとって本当に重要なのは、新しい方式によって自社株が現在の何倍になるのか、あるいは逆に下がるのかという具体的な影響です。

そのため、今後は評価方法だけでなく、具体的な評価水準を見る必要があります。

通達を変えるだけで税負担が変わる

今回もう一つ重要なのが、財産評価基本通達という存在です。

相続税法では、相続などによって取得した財産について原則として取得時の時価によって評価するとされています。

しかし、非上場株式について具体的にどう時価を計算するのか、その詳細な方法の多くは財産評価基本通達によって定められています。

通達は法律そのものではありません。

国税庁内部の取扱いを示す行政上の指針です。

したがって、法律改正とは異なり、通常は国会で法案を審議して議決するという手続きを必要としません。

ところが評価方法が変われば、同じ株式でも課税上の評価額が大きく変わることがあります。

その結果として相続税や贈与税の負担が増える可能性があります。

この点について高橋氏は、国民の税負担を大幅に変える可能性がある評価方法を通達改正だけで抜本的に変更することについて、租税法律主義や民主的統制の観点から慎重な検討が必要だと問題提起しています。

これは今回のインタビューにおける高橋氏の見解であり、今後の制度設計を考えるうえでの一つの重要な論点です。

事業承継税制だけで解決できるのか

非上場株式の評価額が上昇した場合、当然問題になるのが事業承継です。

会社の業績が良くても、経営者個人が株式評価額に相当する現金を持っているとは限りません。

例えば自社株の評価額が大きく上昇すると、後継者へ株式を相続または贈与するときの税負担も大きくなる可能性があります。

そこで事業承継税制との関係が重要になります。

一定の要件を満たす事業承継について、非上場株式に係る相続税や贈与税の納税を猶予する制度があります。

しかし、評価方法そのものが広範囲に変更される場合、事業承継税制だけですべての企業への影響を吸収できるとは限りません。

評価制度と事業承継税制を別々に見るのではなく、両方を合わせて中小企業への影響を確認する必要があります。

租税回避対策とすべての中小企業への影響は分けて考える

今回の評価見直しには、現行制度を利用した租税回避への対応という側面もあります。

制度の想定を外れた方法によって株式評価額を不当に低くするような行為への対応は必要です。

一方で、租税回避対策として必要な範囲と、通常の事業活動を続けている中小企業への影響は分けて考える必要があります。

高橋氏は、一部の租税回避事例への対応を理由として非上場会社全体の評価体系を変更することについて、目的と手段の均衡という観点から疑問を示しています。

今後の議論を見る際には、租税回避防止のために必要な改正なのか、それとも非上場株式全体の時価評価のあり方を変える改正なのかを区別して考えることが重要です。

財産評価基本通達6項も重要になる

非上場株式評価を理解するうえで、財産評価基本通達6項も重要です。

財産評価基本通達による評価をそのまま適用することが著しく不適当と認められる財産について、国税庁長官の指示を受けて評価する仕組みです。

令和4年の最高裁判決でも大きな注目を集めました。

今回、評価方法そのものを見直すことで予見可能性を高めるという考え方が示されている一方、高橋氏は、租税回避へ対応するためには6項のような規定は今後も必要になるとの見方を示しています。

評価体系を精緻にしても、あらゆる取引を事前に想定することは困難だからです。

最大の問題は予見可能性

中小企業の事業承継は、数カ月で完結するとは限りません。

数年から十年以上かけて株式を移転するケースもあります。

持株会社を設立したり、後継者へ段階的に株式を贈与したり、事業承継税制の利用を検討したりすることもあります。

これらはすべて現在の評価制度を前提として計画されています。

その途中で評価方法が大きく変われば、計画そのものを再検討しなければならなくなる可能性があります。

特に重要なのが経過措置です。

新制度がいつから適用されるのか。

すでに実行中の事業承継についてどのように扱うのか。

どの程度の周知期間が設けられるのか。

こうした点は、評価方法そのものと同じくらい重要です。

令和10年1月1日が一つの注目時期になる

高橋氏は、今回の見直し後の評価方法について、国税庁が令和10年1月1日の施行を想定しているのではないかとの見方を示しています。

これはインタビュー時点での高橋氏の見解であり、正式決定された施行日として見るべきものではありません。

しかし、仮にこの時期に大幅な評価制度変更が行われるのであれば、事業承継を予定している企業にとって残された時間は決して長くありません。

だからといって、改正前に慌てて株式を移転すればよいという話でもありません。

評価制度だけでなく、贈与税、相続税、事業承継税制、経営権、遺産分割などを総合的に検討する必要があります。

今必要なのは、結論が出ていない段階で拙速に動くことではなく、制度改正の進捗と自社株評価への影響を把握できる状態にしておくことだと思います。

税理士だけの問題ではない

今回の見直しは、一見すると非常に専門的な税務の話に見えます。

しかし、本質的には中小企業の経営問題です。

自社株評価が変われば、相続税や贈与税が変わります。

税負担が変われば、株式をいつ後継者へ渡すのかという判断が変わります。

それによって事業承継の時期や方法も変わる可能性があります。

さらに、後継者が会社を引き継げるかどうかという問題にもつながります。

したがって、経営者自身が今後の議論を確認しておく必要があります。

結論

非上場株式の評価見直しは、単なる株価計算式の変更ではありません。

60年以上続いてきた評価体系が大きく変われば、相続税、贈与税、事業承継、自社株対策など広い範囲に影響が及びます。

特に今後確認したいのは、残余利益方式などの具体的な計算方法、還元率などの数値、現行方式と比較した評価額の増減、事業承継税制との調整、経過措置、そして施行時期です。

さらに、これほど大きな影響を持つ評価制度をどのような手続きで決定するのかという問題もあります。

評価方法が変われば税負担が変わり、税負担が変われば事業承継の判断も変わります。

非上場株式を持つ中小企業オーナーにとって、今後の税制改正の中でも特に注意して追いかける必要のあるテーマになりそうです。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く

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