銀行同士の預金獲得競争が強まっています。
長い超低金利時代には、銀行にとって預金は必ずしも不足する資金ではありませんでした。
企業の借入需要が弱く、集めた預金を十分な収益が得られる融資に回すことが難しかったからです。
しかし金利のある世界になり、企業の設備投資やM&Aに伴う融資需要が増えると状況は変わります。
銀行にとって預金は、収益を生む融資を増やすための重要な資金になります。
銀行同士が預金を欲しがるようになれば、預金者に支払う金利にも上昇圧力がかかります。
銀行にとって預金は仕入れに近い
銀行の基本的なビジネスは、お金を調達して、そのお金を企業や個人へ貸すことです。
その代表的な資金調達方法が預金です。
銀行は預金者からお金を預かり、預金金利を支払います。
そして企業などへ融資し、貸出金利を受け取ります。
例えば預金などによる資金調達コストが0.5%で、企業へ2%で融資できれば、その差が収益の源泉になります。
実際にはさまざまな経費や信用コストなどがありますが、預金は銀行にとって融資ビジネスを支える重要な資金なのです。
超低金利時代は預金を集めても使い道が限られた
超低金利時代には事情が異なりました。
企業の資金需要が弱く、銀行が融資を増やしたくても十分な貸出先を見つけにくい状況が続きました。
貸出金利も非常に低く、融資を増やしても大きな利ざやを確保しにくい環境でした。
そのため銀行にとっては、預金を大量に集めれば必ず利益が増えるという状況ではありませんでした。
預金が増えれば、それを運用する必要があります。
十分な運用先がなければ、預金を積極的に増やす意味も小さくなります。
金利のある世界で預金の価値が高まる
金利が上昇すると銀行を取り巻く環境が変わります。
貸出金利が上昇すれば、企業融資から得られる利息収入も増える可能性があります。
さらに大型M&Aや設備投資が増えれば、銀行には新しい融資案件が持ち込まれます。
貸したい企業があり、融資から一定の収益も期待できるのであれば、その原資となる資金を確保する意味が大きくなります。
そこで預金の価値が高まります。
銀行が預金を欲しがるようになることで、預金獲得競争も強まりやすくなるのです。
預金者は金利を比較して銀行を選べる
預金金利がほぼゼロであれば、銀行ごとの差もほとんどありません。
例えば銀行Aの金利が0.001%、銀行Bが0.002%であっても、受け取る利息の差はわずかです。
そのため預金者が金利だけを理由に銀行を変更する動機は限定的でした。
しかし預金金利が上昇すると状況が変わります。
銀行によって金利差が広がれば、預金者がより高い金利を提示する銀行へ資金を移す可能性があります。
スマートフォンで口座を開設しやすくなったことも、資金移動を容易にしています。
預金も銀行を比較して選ぶ時代になります。
定期預金は預金獲得競争が表れやすい
銀行が預金を集めたい場合、定期預金の金利を引き上げる方法があります。
普通預金は預金者がいつでも引き出せます。
一方、定期預金は一定期間預けることを前提とします。
銀行から見ると、ある程度長期間利用できる資金を確保しやすくなります。
そのため預金獲得競争が激しくなると、期間限定の定期預金や優遇金利などが登場しやすくなります。
預金者に高い金利を提示してでも資金を確保したいという銀行の判断です。
預金金利を上げすぎると銀行の利益を圧迫する
銀行にとって預金金利の引き上げは無料ではありません。
預金者へ支払う利息が増えるからです。
例えば1兆円の預金について金利が0.1%上昇すると、単純計算では年間10億円の利息負担が増えます。
預金残高が数十兆円規模になれば、小さな金利差でも銀行全体では大きな金額になります。
そのため銀行は預金を集めたい一方で、できるだけ低いコストで集めたいと考えます。
預金獲得競争が激しくなるほど、このバランスが難しくなります。
融資金利とのバランスが重要になる
銀行にとって重要なのは、預金金利だけではありません。
貸出金利との差です。
例えば企業への貸出金利が2%で、預金などの調達コストが0.5%なら一定の利ざやがあります。
ところが預金獲得競争によって調達コストが1.5%まで上昇すれば、利ざやは縮小します。
貸出金利が上昇しても、それ以上の速さで預金金利が上昇すれば銀行収益が必ず改善するとは限りません。
金利上昇局面では貸出金利と預金金利の両方を見る必要があります。
地方銀行では預金流出への対応が重要になる
地方銀行にとって預金獲得競争は特に重要な問題です。
地方では人口減少が続いています。
さらに親世代が亡くなり、都市部に住む子どもや孫が預金を相続すると、資金が都市部へ移ることがあります。
預金が長期間減少すれば、地方銀行の安定した資金調達基盤が弱くなる可能性があります。
2026年8月の預貸率は、都市銀行が57.3%だったのに対し、第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%でした。
地方銀行ほど預金を地域内に残すことの重要性が高まっています。
預金争奪戦は金利だけでは決まらない
預金者が銀行を選ぶ理由は金利だけではありません。
スマートフォンアプリの使いやすさも重要です。
振込手数料やATM手数料も比較されます。
給与振込やクレジットカード、証券口座などとの連携もあります。
高齢者であれば店舗や相談窓口の存在を重視する場合もあります。
銀行は単純に預金金利を引き上げるだけではなく、さまざまなサービスを組み合わせて顧客を囲い込む必要があります。
個人預金は銀行にとって安定性が高い
銀行にとって個人預金が重要なのは、金額だけではありません。
多数の個人から少しずつ集めた預金は、比較的分散されています。
特定の大企業から巨額の資金を調達している場合、その企業が一度に資金を引き出すと大きな影響を受けます。
一方、多数の個人預金者から集めた資金は、すべてが同時に動くとは限りません。
安定した個人預金を持つことは、銀行の資金調達基盤を強くする意味があります。
そのため銀行は個人との長期的な取引関係を重視します。
預金争奪戦は銀行の収益構造を変える
金利上昇は銀行にとって追い風といわれることがあります。
確かに貸出金利が上昇すれば、融資収益が増える可能性があります。
しかし同時に預金獲得競争が激しくなれば、預金者へ支払う金利も上昇します。
銀行にとっては貸出金利をどこまで引き上げられるかと、預金金利をどこまで引き上げる必要があるかの競争になります。
金利のある世界とは、銀行が単純にもうかる世界ではありません。
貸出先だけでなく、預金者からも選ばれる必要がある世界なのです。
結論
預金争奪戦が激しくなると預金金利が上昇しやすくなるのは、銀行が融資の原資となる安定した資金を確保したいからです。
超低金利時代には企業の資金需要が弱く、預金を大量に集めても十分な収益を上げにくい状況がありました。
しかし金利のある世界になり、M&Aや設備投資による融資需要が増えれば、預金の価値は高まります。
銀行が預金を欲しがれば、より高い金利や便利なサービスを提示して顧客を獲得しようとします。
一方、預金金利を上げれば銀行の資金調達コストも増えます。
そのため銀行は貸出金利と預金金利の差を考えながら預金を集めなければなりません。
特に地方銀行では人口減少や相続による預金流出への対応が重要になります。
金利のある世界で起きる銀行間競争は、融資先の奪い合いだけではありません。
これからは個人が持つ預金をどの銀行が確保するのかという競争も、銀行経営を左右する重要なテーマになるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月23日朝刊 大手行、国内融資に回帰