経理業務で生成AIを使うようになると、大量の仕訳データをそのまま生成AIに読み込ませて、「前月から大きく増えた勘定科目を調べてください」「増減理由を分析してください」と依頼したくなるかもしれません。
しかし、大量のデータを扱う仕事では、すべてを生成AIに任せることが必ずしも効率的とは限りません。
そこで役に立つのがPower Queryです。
Power Queryで大量のデータを整理し、分析に必要な部分だけを生成AIに渡すことで、それぞれの得意分野を生かすことができます。
参考記事でも、過去の膨大な仕訳データを使った増減分析について、Power Queryで事前にデータを加工して処理量を減らし、整形された差額データだけを生成AIに渡す方法が紹介されています。
生成AIとPower Queryは競争するものではなく、役割の異なる道具なのです。
Power Queryとは何か
Power Queryは、Excelなどでデータを取り込み、整理し、加工するために利用できる機能です。
経理では、会計システムから大量の仕訳データをExcelやCSV形式で出力して分析することがあります。
しかし、システムから取り出したデータが、そのまま分析に適しているとは限りません。
不要な列が含まれていることがあります。
日付や金額の形式を整える必要があることもあります。
複数のデータを一つにまとめなければならない場合もあります。
こうしたデータの整理を一定のルールに従って行うのがPower Queryです。
一度処理手順を作っておけば、翌月以降も新しいデータに対して同じ加工を繰り返しやすくなります。
つまりPower Queryは、大量のデータを決められたルールで整理する仕事を得意としています。
生成AIとPower Queryでは役割が違う
Power Queryと生成AIの大きな違いは、何をさせたいのかという点にあります。
Power Queryでは、基本的に人間がデータ加工のルールを決めます。
この列を削除する。
この条件に該当するデータだけを抽出する。
勘定科目ごとに集計する。
前月と当月の金額を比較する。
このように処理方法を決め、その手順を繰り返します。
一方、生成AIは、整理された情報をもとに、その意味を考えたり説明したりする仕事に向いています。
たとえば広告宣伝費が前月より大幅に増加していることが分かったとします。
Power Queryは、広告宣伝費がいくら増えたのかを抽出することには向いています。
しかし、その増加が何によって生じたのかを考えるところでは、生成AIを活用できる余地があります。
数字を作るところと、数字の意味を考えるところで役割を分けるわけです。
大量の仕訳データをそのままAIに渡さない
会社によっては、一カ月だけでも膨大な数の仕訳が発生します。
さらに前月比較や前年同期比較をしようとすれば、複数期間の仕訳データを扱うことになります。
こうしたデータをすべて生成AIへ渡し、最初から最後まで処理させようとする方法は効率的とは限りません。
参考記事でも、前期や前々期からの増減分析について、過去の膨大な仕訳データではデータ量が多すぎて生成AIで処理できない場合があるとされています。
そこで提案されているのが、Power Queryによる事前加工です。
あらかじめデータ量を減らしてから生成AIに渡します。
これは、人間の仕事に置き換えて考えると分かりやすいでしょう。
数万件の仕訳を担当者に渡して「何か変わったところを探してください」と頼むより、重要な変動があった科目や取引だけを抽出して渡した方が分析しやすくなります。
生成AIでも同じ考え方が使えるのです。
Power Queryで大量データを前処理する
生成AIに渡す前にデータを整理する作業を、前処理と考えることができます。
参考記事では、Power Queryを使って科目別の前月差額や当月差額、広告宣伝費など特定科目の明細差額リストを自動抽出し、軽いデータへ整形する方法が紹介されています。
たとえば前月と当月の仕訳データがあるとします。
Power Queryで勘定科目別に集計します。
前月と当月の金額を並べます。
その差額を計算します。
さらに差額の大きな科目だけを抽出します。
これによって、数万件の仕訳データから、実際に分析する必要がある部分を絞り込むことができます。
毎月同じ形式のデータを処理するのであれば、一度作ったPower Queryの処理を翌月も利用できます。
人間が毎月Excel上で同じ加工を繰り返す必要も少なくなります。
生成AIには整形したデータを渡す
Power Queryによって分析対象を絞り込んだら、そこで生成AIの出番になります。
参考記事では、整形された差額データだけを生成AIに渡して、「なぜこの科目が増加しているのか、要因を教えて」とピンポイントで質問する方法が示されています。
ここが重要です。
生成AIに大量の仕訳を渡して自由に分析させるのではありません。
人間が何を調べたいのかを決め、その目的に必要なデータだけを渡します。
たとえば広告宣伝費が前月より1000万円増えていたとします。
Power Queryによって広告宣伝費の明細を前月と当月で比較し、差額の大きな取引だけを抽出します。
そのデータを生成AIへ渡して、どの取引が増加の主因になっているのかを整理させます。
こうすれば、生成AIが確認する情報量を大幅に減らすことができます。
Power Queryは数字を整理し生成AIは理由を探す
両者の役割を簡単に整理すると、Power Queryは数字を整理する道具、生成AIは整理された数字から意味を読み取る道具と考えることができます。
もちろん生成AIにも集計やデータ加工をさせることはできます。
しかし、毎月大量のデータに対して同じ処理を正確に繰り返したいのであれば、従来のデータ処理ツールを利用する方が適している場合があります。
参考記事でも、生成AIの出力は毎回微妙に違うことがあり、毎回同じExcelを使い回すような定型処理については、関数やプログラム、VBAやPower Queryの方が向いていると説明されています。
毎月の仕訳を勘定科目別に集計するところまでをPower Queryに任せる。
その結果を読んで増減理由の候補を整理するところを生成AIに任せる。
この分担によって、両方の特徴を生かすことができます。
生成AIにPower Queryの使い方を聞くこともできる
Power Queryが便利だと分かっていても、経理担当者全員がPower Queryを使いこなせるとは限りません。
ここでも生成AIを利用できます。
参考記事では、Power Queryの使い方が分からなければ生成AIに聞けばよいという考え方も示されています。
つまり生成AIは、Power Queryの代わりとして利用するだけではありません。
Power Queryを使うための支援役にもなります。
どのようなデータを作りたいのか。
どの列を残したいのか。
どの条件で抽出したいのか。
こうした目的を生成AIに伝え、Power Queryでどのように処理すればよいのかを教えてもらうことができます。
生成AIの登場によって、これまで専門知識が必要だったデータ加工ツールを経理担当者が利用しやすくなる可能性もあります。
従来ツールとAIを組み合わせる意味
生成AIが登場すると、従来のExcel機能やPower Queryなどが不要になるように感じるかもしれません。
実際には逆です。
生成AIが普及するほど、従来ツールとの役割分担が重要になります。
大量データを正確に処理する部分はPower Query。
データの意味を分析する部分は生成AI。
最後に、その分析結果が本当に正しいのかを確認するのは人間です。
参考記事でも、生成AIと従来のソフトを組み合わせることが、上手な業務の進め方だとされています。
生成AIですべてを処理することがAI活用ではありません。
最も適した道具をそれぞれの工程に配置し、業務全体を効率化することが本当の目的です。
結論
生成AIとPower Queryは、同じ経理業務で利用できても役割が異なります。
Power Queryは、大量のデータを決められたルールに従って整理し、加工することに向いています。
生成AIは、整理されたデータを読み取り、その数字が動いた理由を分析したり、人間に分かりやすく説明したりすることに向いています。
大量の仕訳データをそのまま生成AIへ渡すのではなく、まずPower Queryで必要な情報を抽出する。
そのうえで、生成AIに増減理由などを分析させる。
そして最後は人間が分析結果を確認する。
このように役割を分ければ、Power Queryと生成AIの両方の強みを生かすことができます。
生成AI時代の経理で重要になるのは、従来のツールを捨てることではありません。
従来ツールで正確に処理する部分と、生成AIに考えさせる部分を組み合わせ、経理業務全体を効率化していくことなのです。
参考
企業実務 2026年9月号 経理の生成AI活用お悩み相談 現場の実情に答えます