金融商品会計はなぜ導入されたのか 取得原価だけでは企業の実態を表せなくなった理由編

会計
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企業が保有している資産は、工場や機械、商品だけではありません。

株式などの有価証券をはじめ、さまざまな金融商品を保有しています。

こうした金融商品の価値は、市場環境によって変動します。

取得したときの金額だけを貸借対照表に残し続ければ、現在の価値との間に大きな差が生じることがあります。

1990年代後半の会計ビッグバンでは、この金融商品をどのように会計処理するのかが重要なテーマになりました。

資料では、金融商品会計基準の検討が会計ビッグバンの中心的な改革の一つとして進められた経緯が振り返られています。

金融商品会計は会計ビッグバンの重要テーマだった

1990年代、日本では企業会計の大規模な改革が進められました。

資料によると、連結財務諸表制度の見直しに続くテーマとして、1996年10月の企業会計審議会総会で、金融商品会計、年金会計、研究開発費を並行して取り上げることになりました。

一つずつ順番に改革するのではありません。

企業会計の重要な問題を同時並行で見直そうとしたのです。

当時の企業財務課でも、これだけ多くの課題をどのように進めるのかという思いがあったことが資料には記されています。

金融商品会計は、それほど大規模な会計改革の一角を占めていました。

金融商品の価値は取得したときの金額のままとは限らない

金融商品会計を理解するうえで重要になるのが、取得原価と時価の違いです。

例えば、企業が株式を取得したとします。

取得したときの価格と、その後の市場価格が同じとは限りません。

株価が上昇することもあれば、下落することもあります。

取得原価だけを見ていると、現在その金融商品がどの程度の価値を持っているのかが財務諸表に十分に表れない場合があります。

そこで、金融商品について時価評価をどのように取り入れるのかが重要な会計上の問題になりました。

時価評価という考え方自体が突然現れたわけではない

金融商品会計の改革によって、初めて時価という考え方が日本の企業会計に登場したわけではありません。

資料では、当時の企業会計審議会会長だった森田哲彌氏が、有価証券の時価評価について、最初の企業会計原則では流動資産の有価証券が時価評価だったことから、時価評価そのものについては問題ないという考えを持っていたことが紹介されています。

つまり、金融商品会計を単純に

取得原価主義から時価主義へ全面的に変更した

と理解するだけでは十分ではありません。

金融商品をどのように評価し、その評価の変動を財務諸表のどこに反映するのかという問題まで考える必要があります。

難しいのは評価損益をどう扱うか

金融商品を時価で評価すると、新しい問題が生まれます。

時価が取得原価より上がっていれば評価益が生じます。

反対に時価が下がっていれば評価損が生じます。

では、その評価損益を企業の利益にどのように反映すればよいのでしょうか。

資料では、有価証券の時価評価だけでなく、評価損益と純利益との関係についても議論があったことがうかがえます。

単純に時価を貸借対照表に載せれば問題が解決するわけではありません。

資産の評価と利益計算をどのように結び付けるのかという、会計の根本的な問題が出てきます。

新しい金融取引が増えて会計も複雑になった

資料では、金融商品部会について、新たな金融取引に関する検討事項が多く、公開草案にたどり着くまでに相当の時間と検討を要したことが記されています。

金融取引が高度化すれば、従来の会計処理だけでは対応しにくい問題が生じます。

どの段階で資産や負債を認識するのか。

どのように評価するのか。

金融資産を移転した場合に、どこまで自社の資産として残すのか。

こうした問題を整理する必要があります。

金融商品会計基準は、単に株式を時価評価するためだけの基準ではなく、新しい金融取引に対応するための幅広い改革だったことが分かります。

債権の流動化も新しい問題を生んだ

資料では、金融商品会計に関連して、債権の流動化についても振り返っています。

企業や金融機関が持っている債権を流動化する場合、どの段階でその債権を自社の資産から外すのかという問題があります。

資料では、こうした問題を背景として、リスク経済価値アプローチから財務構成要素アプローチへの転換についても触れています。

金融取引が複雑になるほど、

資産を持っているか、持っていないか

という単純な二者択一だけでは取引の実態を捉えにくくなります。

金融商品会計の改革には、こうした新しい金融取引への対応という側面もありました。

金融商品会計だけを変えても実施できない問題があった

金融商品会計基準を作れば、すぐに企業が新しい会計処理を始められるとは限りませんでした。

資料では、新しい金融商品会計基準を実施するためには、商法の改正が必要になるという問題があったことが紹介されています。

当時は、

商法改正まで実現するのは難しいのではないか

あるいは、

商法に関係しない連結財務諸表だけを対象にすることになるのではないか

という見方もあったとされています。

会計基準だけを変更しても、他の制度が対応しなければ実務へ導入できない問題があったのです。

商法との調整が進められた

そこで、金融商品会計基準の審議と並行して「商法と企業会計との調整に関する研究会」が設けられました。

資料によると、この研究会では時価評価や税効果会計の導入についても議論されました。

そして1998年6月16日、研究会報告が金融商品会計基準の公開草案とともに公表されました。

その後、1999年8月には商法改正が実現しています。

金融商品会計の改革は、会計基準設定主体だけで完結したのではありません。

会計と商法を調整しながら制度を変えていったのです。

会計基準の変更は会社全体に影響する

金融商品を取得原価で計上する場合と、時価を反映する場合では、貸借対照表に表れる金額が変わる可能性があります。

さらに評価損益をどのように扱うかによって、財務諸表の見え方も変わります。

そのため、金融商品会計は経理部だけの問題ではありません。

企業が保有している金融商品について、財務諸表上どのような情報を外部へ示すのかという問題です。

投資家など財務諸表を利用する側にとっても、企業がどのような金融商品を保有し、その価値がどのように変化しているのかは重要な情報になります。

国際的な会計基準の動きも背景にあった

日本の会計ビッグバンは、国内だけの事情で進んだものではありません。

資料では、1995年にIASCとIOSCOがIASのコア・スタンダード作成について合意したことが、一連の会計基準改革を進める重要な背景だったとされています。

企業活動や資本市場が国際化すれば、日本企業の財務諸表も国際的な視点から見られるようになります。

その中で、日本の会計基準をどのように整備していくのかが大きな課題となりました。

金融商品会計も、その大きな流れの中で検討された会計基準の一つです。

取得原価だけではなく経済的な実態を見る

金融商品会計の改革から見えてくるのは、財務諸表で企業の経済的な実態をどのように表現するのかという問題です。

金融商品の市場価値が大きく変化しているにもかかわらず、取得したときの金額だけを見ていてよいのか。

金融取引が複雑化するなかで、資産や負債をどの段階で認識すればよいのか。

時価の変動によって生じた評価損益を利益とどのように結び付ければよいのか。

金融商品会計は、こうした問題に対応するために整備されていきました。

会計基準の役割は、単に取引を帳簿へ記録することではありません。

企業の経済的な実態を財務諸表によってどのように伝えるかというところにあります。

結論

金融商品会計は、企業が保有する金融商品や複雑化する金融取引の実態を、財務諸表へより適切に反映するために整備されていきました。

1996年10月の企業会計審議会総会では、連結ベースの開示への転換に続くテーマとして、金融商品会計、年金会計、研究開発費を並行して取り上げることが決まりました。

金融商品については、取得したときの金額だけではなく、時価をどのように財務諸表へ反映するのかが重要な問題になります。

ただし、問題は単純な時価評価だけではありません。

評価損益と純利益との関係や、新しい金融取引における資産の認識など、多くの問題を検討する必要がありました。

さらに、新しい金融商品会計を実施するためには商法との調整も必要となり、1998年6月には金融商品会計基準の公開草案と商法との調整に関する研究会報告が公表され、1999年8月には商法改正が実現しました。

金融商品会計の改革は、取得原価だけを見る会計から単純に時価だけを見る会計へ変わったという話ではありません。

金融取引が複雑化するなかで、企業が保有する資産や負債、その価値の変動を財務諸表にどう表現するのかを見直した大きな会計改革だったのです。

参考

青山学院大学会計プロフェッション研究 2026年3月 プロジェクトX【会計基準等の改革】を振り返る

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