2026年度税制改正で創設された研究開発税制の戦略技術領域型では、すべての研究開発を一律に優遇するのではなく、国として特に重要と考える技術分野を重点的に支援する仕組みが導入されています。
資料で示されている対象分野は、AIと先端ロボット、量子、半導体と通信、バイオとヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙の6分野です。
一定の認定を受けた研究開発には40%、認定研究開発機関との共同研究や委託研究には50%という高い税額控除率が設定されています。
なぜ、これらの技術が税制によって重点的に支援されるのでしょうか。
背景には、研究開発税制を単なる企業支援ではなく、国の科学技術やイノベーション政策と結び付けていく考え方があります。
6つの戦略技術領域が示されている
資料では、戦略技術領域型の対象として6つの分野が示されています。
AIと先端ロボット。
量子。
半導体と通信。
バイオとヘルスケア。
フュージョンエネルギー。
宇宙です。
研究開発税制では従来から企業の幅広い試験研究を支援していますが、戦略技術領域型では、その中でも特定の技術分野に高い税額控除率を設けています。
つまり、研究開発投資全体を増やす政策に加えて、国として重要な分野へ研究資金を誘導する役割も税制に持たせていると考えることができます。
AIと先端ロボットが対象になる
最初に挙げられているのが、AIと先端ロボットです。
AIは単独の産業だけで利用される技術ではありません。
製造、サービス、研究開発など、さまざまな分野で利用される可能性があります。
また、AIとロボット技術を組み合わせる研究も考えられます。
資料では、こうしたAIと先端ロボットを戦略技術領域の一つとして位置付けています。
重要なのは、AIという言葉が付いている研究であれば自動的に高い税額控除を受けられるという意味ではないことです。
戦略技術領域型では、改正産業技術力強化法に基づく研究開発計画の認定が前提になります。
量子も重点支援の対象になる
量子も戦略技術領域として示されています。
量子技術についても、国が重点的に研究開発を支援する分野の一つとして位置付けられていることが分かります。
研究開発には、多額の資金や長い期間が必要になる場合があります。
しかも、研究段階では将来どの程度の収益につながるのかを確実に予測することはできません。
企業だけに研究開発のリスクを負わせるのではなく、重要な技術について税制面から投資を後押しすることが、戦略技術領域型の特徴です。
半導体と通信も一つの領域になる
半導体と通信も対象分野として挙げられています。
資料では「半導体・通信」という形で一つの戦略技術領域として整理されています。
半導体そのものの研究だけを見るのではなく、通信まで含めた技術領域として支援対象が設定されている点が特徴です。
企業がこの分野で研究開発を行う場合には、通常の研究開発税制だけを見るのではなく、その研究が戦略技術領域型の対象となる認定研究開発に該当する可能性があるのかを確認する意味があります。
研究内容によって利用できる税制が変わる時代になってきたということです。
バイオとヘルスケアも対象になる
バイオとヘルスケアも戦略技術領域に含まれています。
この分野でも、研究から実用化まで長い期間が必要になる場合があります。
研究開発税制は、利益が生まれた後だけを支援する制度ではありません。
研究開発という投資段階で税額控除を行うことによって、企業の研究投資を後押しします。
さらに後ほど取り上げるイノベーションボックス税制では、一定の知的財産から利益を得る段階にも税制優遇が設けられています。
研究段階と研究成果の収益化段階を、それぞれ異なる税制によって支援する仕組みが整えられていることが分かります。
フュージョンエネルギーも対象になる
資料では、フュージョンエネルギーも戦略技術領域として挙げられています。
戦略技術領域型を見ると、すでに大きな市場が存在する技術だけを支援しているわけではないことが分かります。
研究開発の段階から重点分野を定め、その研究投資を税制によって後押しする考え方です。
研究成果が事業として収益を生み出すまで時間がかかる技術であっても、国として重要な研究領域であれば支援するという方向性が表れています。
宇宙も重点技術に位置付けられている
6つ目が宇宙です。
宇宙分野も戦略技術領域として示されています。
ここでも重要なのは、企業の研究開発と国の科学技術政策が結び付いていることです。
従来の研究開発税制を「研究費を使えば税金が安くなる制度」とだけ理解すると、戦略技術領域型の意味を十分に捉えることができません。
どの技術分野の研究開発を重点的に促進するのかという政策判断が、税額控除率にも反映される仕組みになっています。
第7期科学技術・イノベーション基本計画とも関係する
資料では、研究開発税制を説明する前提として、科学技術・イノベーション政策についても取り上げています。
特に、第7期科学技術・イノベーション基本計画における戦略技術などについて説明されています。
つまり、戦略技術領域型だけを単独の税制として見るのではなく、国が科学技術やイノベーションをどのように進めようとしているのかという大きな政策の中で理解する必要があります。
研究開発税制は、法人税の計算方法であると同時に、企業の研究開発投資を政策的に促す手段でもあるわけです。
重要分野では40%という高い控除率になる
戦略技術領域型では、一定の認定研究開発について40%という税額控除率が示されています。
通常の一般型では、資料上、控除率は0%から14%です。
これと比較すると、40%という水準が非常に高いことが分かります。
さらに、認定研究開発機関との共同研究や委託研究では50%です。
単に研究開発を行うだけではなく、国が重点化する技術分野で研究し、外部の研究機関とも連携することを強く促す制度設計になっています。
税制が企業の研究テーマにも関係してくる
これまで税務部門は、研究開発が終わった後に試験研究費を集計し、税額控除額を計算するという役割になりがちでした。
しかし、戦略技術領域型では、それだけでは十分ではありません。
どの技術を研究するのか。
どのような研究開発計画を作るのか。
誰と共同研究するのか。
必要な認定をいつ受けるのか。
こうした研究開発の上流段階の判断が、利用できる税制に関係してきます。
税務と研究開発戦略との距離が、これまで以上に近くなっていると考えることができます。
結論
2026年度税制改正で創設された戦略技術領域型では、AIと先端ロボット、量子、半導体と通信、バイオとヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙という6つの技術分野が示されています。
これらの分野に係る一定の認定研究開発については40%、認定研究開発機関との共同研究や委託研究については50%という高い税額控除率が設定されています。
背景には、企業の研究開発投資全体を支援するだけではなく、国として重要な技術分野へ研究開発投資を促すという考え方があります。
そのため、これからの研究開発税制では「研究費をいくら使ったか」だけを見るのでは十分ではありません。
どの分野で研究するのか、どのような研究計画を立てるのか、誰と研究するのかまで含めて税制との関係を考えることが重要になります。
研究開発税制は、決算後の税金計算だけではなく、企業の将来の技術開発戦略にも関係する制度へと広がっているのです。
参考
第33回青山学院大学同窓祭公開講座 2026年9月23日 R&D税制とイノベーションボックス税制 会計プロフェッショナルによるイノベーション・コンサルテーション