2026年度税制改正で創設された研究開発税制の「戦略技術領域型」では、一定の研究開発について40%という高い税額控除率が設けられています。
さらに注目したいのが、認定研究開発機関との共同研究や委託研究です。
資料では、一定の認定研究開発機関と共同研究または委託研究を行う場合、対象となる試験研究費について50%の税額控除率が示されています。
企業が研究開発をすべて自社内部で行うのではなく、外部の研究機関と連携することを強く後押しする仕組みです。
戦略技術領域型には40%と50%がある
戦略技術領域型では、税額控除率を一つの数字だけで理解しないことが重要です。
資料では、認定された研究開発について40%の税額控除率が示されています。
これに対して、認定研究開発機関との共同研究または委託研究については50%です。
例えば、対象となる試験研究費が1億円だった場合を単純化して考えると、40%なら4,000万円、50%なら5,000万円です。
同じ1億円の研究開発費でも、研究の進め方によって計算上1,000万円の差が生じます。
もちろん、実際に控除できる税額には別途控除上限などがあります。
それでも、50%という控除率が外部機関との研究連携を重視した水準であることは分かります。
共同研究と委託研究の両方が示されている
資料では「共同研究」だけではなく「委託研究」も示されています。
共同研究では、企業と研究機関などが連携して研究開発を進めます。
一方、委託研究では、自社だけでは対応しにくい研究などを外部の研究機関へ委託することが考えられます。
研究開発には高度な専門知識や設備が必要になる場合があります。
すべてを自社で保有しようとすれば、多額の投資が必要になることもあります。
そこで外部の研究能力を活用すれば、自社にない技術や知見を研究開発に取り込むことができます。
戦略技術領域型では、こうした連携型の研究開発を税制面でも手厚く支援する仕組みになっています。
相手が誰でも50%になるわけではない
ここで注意したいのが、外部企業や研究機関と共同研究をすれば、すべて50%になるわけではないという点です。
資料では「認定研究開発機関」との共同研究または委託研究について50%とされています。
つまり、単に取引先や大学などと共同研究を行っているという事実だけで判断することはできません。
戦略技術領域型そのものについても、改正産業技術力強化法に基づく研究開発計画の認定が関係します。
誰と、どのような研究を、どのような認定のもとで行うのかを確認する必要があります。
50%という数字だけを先に見て研究費の半分が必ず税金から戻ると考えないことが重要です。
研究開発費の50%が現金で戻る制度ではない
50%という数字については、もう一つ注意点があります。
これは研究開発費の50%を国から補助金として受け取るという意味ではありません。
研究開発税制は税額控除です。
対象となる試験研究費を基礎として計算した一定額を、法人税額から控除する仕組みです。
例えば、対象となる試験研究費が1億円で控除率が50%なら、計算上の税額控除額は5,000万円となります。
しかし、法人税額そのものがいくらなのか、税額控除の上限がいくらなのかによって、実際にその年度に控除できる金額は変わります。
「研究費の半分が返ってくる制度」と理解してしまうと、制度の効果を過大に見積もる可能性があります。
別枠で法人税額の10%という上限がある
戦略技術領域型について、資料では法人税額の10%という別枠の控除上限が示されています。
したがって、50%の控除率によって算出された金額と、実際にその事業年度で控除できる金額は必ずしも一致しません。
試験研究費に対する「控除率」と、法人税額に対する「控除上限」を分けて考える必要があります。
例えば、非常に大規模な共同研究を行えば、50%を掛けた税額控除額も大きくなります。
しかし、その企業の法人税額との関係では、その年度だけでは控除しきれない場合があります。
そこで重要になるのが、戦略技術領域型に設けられている繰越控除です。
控除しきれない金額は3年間繰り越せる
資料では、戦略技術領域型の控除限度超過額について3年間の繰越控除が示されています。
研究開発は、支出と利益が同じ時期に発生するとは限りません。
研究段階では多額の費用が発生して利益が小さくなり、その研究成果が商品化された後に利益が増えるということも考えられます。
そのため、研究開発を行った年度だけで税額控除を完結させると、十分な法人税額がない企業では制度の効果を生かしにくくなります。
3年間の繰越控除は、研究開発と利益獲得の時期がずれる可能性にも対応する仕組みとして見ることができます。
共同研究では費用管理も重要になる
共同研究や委託研究では、税率や控除率だけではなく、対象となる試験研究費を正確に把握することも重要です。
誰と共同研究をしているのか。
どの研究開発計画に基づく支出なのか。
どの費用がその研究に対応しているのか。
外部へ支払った費用は何の研究に対するものなのか。
こうした情報を整理しておく必要があります。
特に複数の共同研究を同時に行っている企業では、契約書や研究計画、請求書、成果物などを研究プロジェクトごとに結び付けて管理することが重要になります。
研究開発税制は、研究を実施した後に経理部門が支払額を集計するだけの制度ではないことが分かります。
研究相手の選択が税制にも関係する
戦略技術領域型で興味深いのは、研究開発の「金額」だけではなく「相手」が税制上重要になる点です。
企業が1億円を研究開発に使うとしても、すべてを自社で行う場合と、認定研究開発機関と連携する場合では、資料に示された控除率が異なります。
これは、税務部門が研究開発の終了後に制度を選ぶだけでは十分ではないことを意味します。
研究テーマを決める段階。
共同研究先を選ぶ段階。
研究開発計画を作る段階。
契約を締結する段階。
こうした早い段階から税制との関係を確認する意味があります。
研究開発税制が企業の研究戦略そのものと結び付き始めていると考えることができます。
オープンイノベーションを税制でも後押しする
企業内部だけで研究を完結させるのではなく、外部の研究機関などの知識を取り込むことは、イノベーションを生み出す一つの方法です。
従来の研究開発税制にもオープンイノベーション型があり、外部との共同研究や委託研究に対する優遇が設けられています。
戦略技術領域型では、国として重要な技術分野について、認定研究開発機関との共同研究や委託研究に50%という高い控除率を設けることで、さらに連携を促す仕組みになっています。
研究開発税制を見るときには、「いくら研究費を使ったか」だけではなく、「どの技術を研究し、誰と研究するのか」という視点も重要になっているのです。
結論
2026年度税制改正で創設された戦略技術領域型では、一定の認定研究開発について40%の税額控除率が示されています。
さらに、認定研究開発機関との共同研究または委託研究については50%という、より高い控除率が設定されています。
ただし、外部との共同研究であればすべて50%になるわけではありません。
対象となる研究開発計画や研究相手など、制度上の要件を確認する必要があります。
また、50%は研究費の半分が現金で戻ってくるという意味ではなく、あくまで法人税額から差し引く税額控除の計算に使う割合です。
別枠で法人税額の10%という控除上限があり、控除限度超過額については3年間の繰越控除が設けられています。
研究開発税制を最大限に活用するためには、研究費を使った後に税務処理を考えるのではなく、研究テーマ、共同研究先、認定、契約、費用管理まで含めて研究開発の初期段階から検討することが重要になります。
参考
第33回青山学院大学同窓祭公開講座 2026年9月23日 R&D税制とイノベーションボックス税制 会計プロフェッショナルによるイノベーション・コンサルテーション