災害時の企業支援というと、飲料水や食品、衣類などの物資を被災地へ送る姿を思い浮かべることが多いでしょう。
しかし、企業が提供できるものは商品だけではありません。
例えば、ホテル会社が被災者に客室を無料で提供することがあります。企業が保有する社宅や研修所を一時的な避難場所として提供することも考えられます。
さらに、自社が通常行っているサービスを被災者へ無償で提供することもあります。
法人税における災害支援の取扱いでは、このような役務や施設の提供も重要になります。
自社製品等にはサービスも含まれる
法人税基本通達では、不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供について、一定の場合には寄附金に該当しない取扱いが示されています。
ここでいう自社製品等は、企業が製造した商品だけを意味するものではありません。
企業が通常行っている業務に関連するサービス、つまり役務の提供も含まれると考えられています。
例えばホテル会社であれば、商品に相当するものは客室を利用してもらう宿泊サービスです。
被災者に客室を無料で提供することも、自社の事業を利用した災害支援になります。
ホテルの客室を無料提供するケース
例えば大規模な地震によって、多くの住宅が損壊した地域を考えてみます。
避難所だけでは十分な宿泊場所を確保できない状況で、その地域にホテルを持つ会社が空室を被災者に提供したとします。
通常であれば、宿泊者から宿泊料金を受け取ります。
1泊1万円の客室を10日間提供すれば、通常の料金で考えると10万円相当のサービスになります。
しかし、災害時に不特定または多数の被災者を救援するため緊急に客室を提供したのであれば、通常の顧客への無償サービスとは性格が異なります。
災害救援という目的を持った自社サービスの提供として税務上の取扱いを検討することになります。
社宅や研修所を避難場所として提供する場合もある
災害支援に利用できる施設はホテルだけではありません。
企業が保有する社宅や研修所、宿泊施設などを被災者へ提供することも考えられます。
普段は従業員向けに利用している施設であっても、災害発生時には一時的な避難場所として活用できます。
特に住宅が損壊した場合には、被災者が長期間にわたって生活場所を確保できないことがあります。
企業が持つ施設を緊急避難的に提供できれば、物資の提供とは異なる形で被災者を支援できます。
法人税の災害時の取扱いでも、こうした施設の提供が想定されています。
無料サービスなら何でも対象になるわけではない
ただし、災害時に無料でサービスを提供すれば、すべて同じ取扱いになるわけではありません。
重要なのは、不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行われる提供であることです。
例えば自治体からの要請を受け、被災者向けにホテルの一定数の客室を開放するケースであれば、災害救援との関係は明確です。
一方、特定の取引先の役員だけに高額なサービスを無償提供した場合には、同じように考えられるとは限りません。
災害支援なのか、特定の相手への利益供与なのかを区別する必要があります。
本業をそのまま災害支援に利用できる
サービス業の企業にとって重要なのは、自社が普段行っている事業そのものを災害支援に利用できるという点です。
ホテル会社なら宿泊サービスがあります。
運送会社なら物資の輸送があります。
通信関連企業なら通信サービスがあります。
企業ごとに保有している設備やノウハウは異なります。
災害時には、自社が日常的に提供しているサービスを活用することで、その企業だからこそできる支援が可能になります。
単に現金を寄附する方法とは違った企業支援の形です。
支援によって生じる経済的効果にも着目する
自社製品等を被災者へ提供する取扱いでは、その経済的効果にも着目しています。
多数の被災者に自社の商品やサービスを提供すれば、結果として企業やサービスの認知につながることがあります。
ホテルが被災者へ客室を提供すれば、その企業の名称やサービスを多くの人が知ることになる可能性があります。
そのため、自社製品等の提供には広告宣伝費に準じる経済的効果があると考えられています。
もちろん、災害支援そのものを広告活動として行う必要があるという意味ではありません。
被災者救援を目的として行った支援であっても、経済的な側面から見れば広告宣伝に準じた効果も生じ得るという考え方です。
実際に発生した費用も把握しておく
ホテルの客室を無料で提供した場合には、宿泊料金を受け取らなかったという事実だけを見るのではありません。
客室を提供すれば、清掃費、水道光熱費、リネン費、従業員の人件費などさまざまな費用が発生します。
社宅や研修所を提供する場合にも、水道光熱費や管理費などが発生することがあります。
災害支援に伴ってどのような費用が発生したのかを整理しておくことが重要です。
通常営業に伴う費用と災害支援に伴う費用を区分できるようにしておけば、後から税務処理を確認しやすくなります。
自治体などからの要請書も保存する
災害時の施設提供についても、支援の経緯を記録しておくことが重要です。
自治体や支援団体から客室や施設の提供を求められたのであれば、要請書やメールなどを保存します。
提供した期間、客室数、施設、利用人数なども記録しておくとよいでしょう。
企業が自主的に施設を開放した場合には、社内で支援を決定した資料などを残しておくことも考えられます。
後から見ても、通常の無料サービスではなく災害救援を目的とした提供だったことが分かる状態にしておくことが重要です。
企業の施設も防災資源になる
災害時の企業の役割を考えると、商品だけに目を向ける必要はありません。
ホテルの客室、社宅、研修所など、企業が保有する施設も社会全体から見れば重要な防災資源になります。
普段は事業や従業員のために使用している施設でも、災害発生時には避難場所や一時的な生活拠点として利用できる可能性があります。
どの施設をどの程度提供できるのかを平時から検討しておけば、災害発生後に迅速な対応ができます。
税務上の取扱いをあらかじめ理解しておくことも、こうした企業の災害対応を後押しします。
結論
災害時の自社製品等の提供は、物品だけに限定されません。
企業が通常行っている業務に関するサービスの提供や、社宅、研修所などを緊急避難的に被災者へ提供することも含まれると考えられています。
ホテル会社が不特定または多数の被災者を救援するため、緊急に客室を無料提供するケースはその代表例です。
一定の場合には、自社製品等の提供として寄附金や交際費等に該当しない取扱いがあります。
重要なのは、単に料金を取らなかったという事実ではありません。
誰に、どのような目的で、どのような状況のもとでサービスや施設を提供したのかという実態です。
災害時には商品だけでなく、企業が持つサービス、設備、施設、ノウハウも重要な支援資源になります。
自社の本業を災害支援に生かすという視点を持つことが、企業の災害対応を考えるうえでも重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 特集 災害発生 そのとき法人税務はどうなる? 災害に伴う支援と損失処理
法人税基本通達 9-4-6の4
租税特別措置法関係通達 61の4⑴-10の4
北田泰隆編著 法人税基本通達逐条解説 十二訂版 税務研究会出版局 2026年