鉱山というと、人が地下深くまで入り、巨大な重機を操作しながら岩石を掘る仕事を思い浮かべるかもしれません。
しかし鉱山の姿は少しずつ変わっています。
ドローン、自動運転、遠隔操作、センサー、AIなどを組み合わせ、人が危険な場所へ入らなくても採掘できる鉱山を目指す動きが進んでいます。
鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山では、住友金属鉱山が2025年9月から坑内でドローンを活用しています。
人が目視できない場所を機械が確認する取り組みです。
その先にあるのが、人が地下で直接作業する範囲をできるだけ減らす鉱山です。
鉱山はもともと危険の多い職場
地下鉱山には地上とは異なるリスクがあります。
落石。
岩盤の崩落。
狭い坑道。
粉じん。
高温。
重機との接触。
こうした危険があるため、安全対策には大きなコストと時間が必要です。
特に発破した直後など、岩盤の状態が十分に確認できない場所へ人が入ることにはリスクがあります。
そこで「人をどう守るか」だけではなく、「そもそも人が危険な場所へ入らなくてもよい仕組みにできないか」という発想が重要になります。
ロボット化や遠隔操作は、安全対策そのものを変える可能性があります。
ドローンが人の目の代わりになる
菱刈鉱山で始まっている坑内ドローンの利用は、その分かりやすい例です。
発破後など人が簡単に近づけない場所へドローンを飛ばし、岩盤や鉱脈の状態を確認します。
これまで作業員が直接確認していた場所を、まず機械に見てもらうわけです。
ドローンが撮影した映像や測量データを地上や安全な場所で確認できれば、人が危険区域へ入る回数を減らせます。
これは「人の仕事を機械に置き換える」というだけではありません。
人間の目が届かなかった場所まで観察できるようになるという意味があります。
重機を遠隔操作できれば人は地下から離れられる
次の段階として考えられるのが重機の遠隔操作です。
鉱山では掘削、積み込み、運搬などに大型機械を使います。
従来は作業員がその機械に乗り込んで操作していました。
しかし通信技術やセンサーが発達すれば、安全な場所から機械を操作できるようになります。
操作者は地下の危険な場所にいる必要がありません。
さらに複数の機械を遠隔監視できれば、少ない人数で鉱山を運営できる可能性もあります。
危険な場所に人を配置しないことが、鉱山自動化の大きな目的の一つです。
自動運転で運搬作業も変わる
鉱山では、掘った鉱石を運ぶ作業にも多くの時間と人員が必要です。
そこで自動運転技術の活用が考えられます。
鉱山は一般道路とは環境が異なります。
走行する場所が限定され、決められたルートを繰り返し走る作業も多いため、自動化との相性がよい部分があります。
鉱石を積む。
決められた場所まで運ぶ。
鉱石を降ろす。
再び採掘場所へ戻る。
こうした反復作業を自動化できれば、作業員は機械を直接運転する仕事から、複数の機械を監視する仕事へ移る可能性があります。
AIは大量の地下データを分析する
AIが力を発揮するのは、機械を動かす部分だけではありません。
鉱山では膨大なデータが発生します。
地質調査。
ボーリング調査。
鉱石の品位。
坑道の形状。
岩盤の状態。
採掘実績。
ドローン映像。
設備の稼働状況。
こうした情報を組み合わせれば、地下の状態をより詳しく把握できます。
AIを活用することで、人間だけでは見つけにくいデータのパターンを分析し、鉱脈がどちらへ続いている可能性が高いのか、どこを優先して調査すべきなのかといった判断を支援できる可能性があります。
AIが金を見つけるわけではない
ただし、AIを導入すれば自動的に金鉱脈が発見できるわけではありません。
AIが分析するためには質の高いデータが必要です。
ボーリング調査や地質調査などによって地下の情報を集め、そのデータを基に分析します。
つまり、
地質学の専門知識
現場での調査
デジタルデータ
AIによる解析
を組み合わせることが重要です。
熟練技術者の知識が不要になるのではなく、その知識をデジタル技術によって補強していくイメージです。
故障する前に設備を修理する
AIやセンサーは採掘以外にも利用できます。
鉱山では大型設備が停止すると生産に大きな影響が出ます。
そこで設備にセンサーを取り付け、
振動
温度
電流
稼働時間
などを継続的に計測します。
通常とは違う変化を検知できれば、故障する前に点検や部品交換を行える可能性があります。
故障してから修理するのではなく、故障する前に整備する「予知保全」です。
設備停止時間を短くできれば、生産性向上にもつながります。
人手不足への対応にもなる
日本では今後、幅広い産業で人手不足が課題になります。
鉱山も例外ではありません。
特に地下作業には専門知識と経験が必要です。
ベテラン技術者が持つ知識を若い世代へ継承することも重要になります。
作業記録や判断過程をデータとして蓄積すれば、熟練者の経験を組織として共有しやすくなります。
さらに危険な作業や単純な反復作業を機械へ任せれば、人は地質判断や設備管理など、より高度な仕事に集中できます。
鉱山DXは単純な省人化だけではなく、限られた人材をどこへ配置するかという問題にも関係します。
自動化すると採算ラインも変わる
AIやロボットの導入は、安全性だけでなく鉱山の採算にも影響します。
例えば自動化によって、
無駄な掘削を減らす
設備の停止時間を短くする
少ない人数で操業する
鉱石を効率よく運ぶ
ことができれば、金1グラム当たりの生産コストを下げられる可能性があります。
これは非常に重要です。
金価格が同じでも生産コストが下がれば、これまで採算が取れなかった低品位の鉱石まで採掘対象になる可能性があります。
AIやロボットは、地下に存在する金の量を増やしません。
しかし経済的に採掘できる金の量を増やす可能性があります。
無人化には通信という大きな課題がある
一方、地下鉱山の完全自動化は簡単ではありません。
地下では地上と同じように通信できるとは限りません。
機械を遠隔操作するには、安定した通信環境が必要です。
位置情報を正確に把握する仕組みも必要になります。
粉じんや水分、振動など厳しい環境でもセンサーや機械が正常に動かなければなりません。
さらに自動化設備そのものの導入費用も必要です。
技術的に可能だからといって、すべての鉱山で直ちに導入できるわけではありません。
日本の鉱山が技術開発拠点になる
住友金属鉱山は、菱刈鉱山で蓄積した技術やノウハウを海外鉱山へ展開することも視野に入れています。
ここに国内鉱山を維持する重要な意味があります。
日本国内で採れる金の量だけを考えれば、世界全体の生産量に占める割合は大きくありません。
しかし実際の鉱山を持っていれば、新しい採掘技術を現場で試すことができます。
ドローン。
遠隔操作。
自動運転。
AI。
センサー。
こうした技術を国内鉱山で磨き、海外の鉱山へ展開できれば、日本の鉱山産業の価値は金の生産量だけでは測れなくなります。
結論
AIやロボットが鉱山を変える最大の意味は、人を地下から完全に追い出すことではありません。
人が危険な場所で行っていた仕事を機械へ移し、人間はより安全な場所から判断や管理を行うようにすることです。
ドローンが人の目の代わりになり、遠隔操作や自動運転が人の手足の代わりになり、AIが大量のデータ分析を支援する。
こうした技術を組み合わせれば、安全性と生産性を同時に高められる可能性があります。
さらに採掘コストを下げることができれば、これまで採算が取れなかった鉱石まで資源になる可能性があります。
金価格の上昇は、金鉱山の収入を増やします。
AIやロボットは、金を採るためのコストを下げる可能性があります。
「黄金の国ジパング」の再興を支えるのは、新しい金鉱脈だけではありません。
人が危険な地下へ入らなくても金を採れる技術をどこまで実現できるかも、日本の鉱山の将来を左右する重要なテーマなのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ