人口減少が進む日本では、自治体にとって住民の確保がこれまで以上に重要になっています。
人が住む場所を選ぶときには、住宅価格だけでなく、子育て、教育、交通、治安、行政サービスなどさまざまな条件を比較します。
自治体から見れば、住民に選んでもらうために地域の魅力を高める必要があるということです。
大阪府寝屋川市が空き家税だけでなく、教育や子育てなど独自の政策を進めている背景にも、こうした人口減少時代の自治体間競争があります。
人口増加時代と人口減少時代では条件が違う
人口が増えていた時代には、住宅を整備すれば新しい住民が入ってくる地域が数多くありました。
寝屋川市もその一つです。
人口は1960年の約5万人から1975年には約25万人まで増加しました。
大阪都市圏のベッドタウンとして急速に発展したのです。
ところが現在は、日本全体が人口減少局面に入っています。
全国の自治体が人口増加を前提に行政運営をすることは難しくなりました。
転入と転出の差が重要になる
自治体の人口は、出生と死亡だけで決まるわけではありません。
別の地域から転入する人と、別の地域へ転出する人の動きも影響します。
人口減少時代には、この転入と転出の差が地域の将来を左右する重要な要素になります。
特に若い世代や子育て世帯がどこに住むかは、その後の人口構成にも影響します。
自治体にとっては、転入してもらうだけでなく、現在の住民に住み続けてもらうことも重要です。
住民は行政サービスも比較する
住宅を購入したり借りたりするとき、多くの人は住宅そのものだけで判断するわけではありません。
通勤や通学に便利なのか。
子育て支援は充実しているのか。
学校の教育環境はどうなのか。
安心して暮らせるのか。
日常生活に必要な施設がそろっているのか。
こうした条件を総合的に考えて居住地を選びます。
行政サービスも街を選ぶ判断材料の一つになっています。
子育て政策は人口政策でもある
自治体が子育て支援を充実させることには、現在暮らしている家庭を支援するという本来の役割があります。
同時に、これから住む場所を選ぶ子育て世帯にとっても重要な情報になります。
寝屋川市では、寝屋川市駅前に子どもの遊び場など子育て支援機能を備えたこども図書館を整備しました。
利用者は開設から3カ月で10万人を超えたとされています。
こうした施設は住民サービスであると同時に、子育て世帯から選ばれる街をつくる政策にもなります。
教育にも自治体の特色が表れる
寝屋川市では教育分野でも独自の取り組みを進めています。
公立小中学校で、ディベートやスピーチなどを取り入れた教育を進めています。
さらにいじめ対策では、市長部局に監察課を設ける仕組みを導入しました。
教育内容や子どもの安全への取り組みは、子育て世帯が居住地を選ぶ際に関心を持つ分野です。
全国どこでも同じ行政サービスを提供するだけではなく、自治体ごとの特色を打ち出す動きにつながっています。
住宅政策も自治体間競争の一部になる
そして重要になるのが住宅です。
どれほど子育てや教育環境が充実していても、若い世代が購入したり借りたりできる住宅がなければ転入は難しくなります。
寝屋川市には約1万6,000戸の空き家があり、そのうち約6,000戸が売却にも賃貸にも出されていません。
新しい住宅地を大規模に開発できる土地もほとんど残っていません。
そこで既存の空き家を市場へ戻し、若い世代が利用できる住宅を増やすという発想が出てきます。
空き家税は住宅政策であると同時に、人口政策の一部でもあるのです。
周辺自治体との違いをつくる
住民にとって行政区域の境界は、必ずしも大きな壁ではありません。
例えば通勤時間がそれほど変わらなければ、隣接する複数の自治体を住宅探しの候補にすることがあります。
そのとき住宅価格や駅までの距離だけでなく、子育て支援や教育、生活環境などの違いが選択に影響します。
自治体側から見れば、近隣自治体とまったく同じ政策だけでは特色を示しにくくなります。
地域の事情に合わせた独自政策を考える必要が出てきます。
人口を奪い合うだけでは解決しない
ただし自治体間競争には注意点もあります。
ある自治体への転入が増えても、隣の自治体から住民が移動しただけなら、日本全体の人口が増えるわけではありません。
全国の自治体が同じような給付金や補助金だけで住民を奪い合えば、政策コストが膨らむ可能性もあります。
重要なのは単純な人口獲得競争ではありません。
それぞれの地域が抱える課題を解決し、住民が暮らし続けたいと思える環境をつくることです。
住民に選ばれ続けることが重要になる
移住者を一度呼び込めば終わりではありません。
転入した人が数年後に再び転出すれば、人口の定着にはつながりません。
住宅を確保する。
子どもを育てやすくする。
教育環境を整える。
安心して生活できる街をつくる。
こうした政策を組み合わせ、長期間住み続けてもらうことが重要です。
自治体間競争は転入者の数だけでなく、住民の定着まで考える必要があります。
結論
人口減少時代の自治体は、住民から選ばれる存在になることをこれまで以上に求められます。
住宅、子育て、教育、交通、生活環境などを総合的に整え、それぞれの地域に合った特色をつくる必要があります。
寝屋川市が進める空き家税も、単なる空き家対策として見るだけでは全体像を捉えられません。
市場に出ていない住宅を動かして若い世代の住宅選択肢を増やし、教育や子育てなどの政策と組み合わせることで、転入と定住につなげようとする考え方があります。
人口が自然に増えることを前提にできない時代には、自治体自身が地域の課題を見つけ、独自の解決策をつくることが重要になります。
自治体間競争とは単純な住民の奪い合いではなく、住民から長く選ばれる街をどうつくるのかを競う時代になったことを意味しているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 直言 眠る空き家、若者に回せ