日本では人口が減少する一方、全国の空き家は約900万戸に達しています。
これだけ住宅が余っているのであれば、新しい住宅は必要なくなり、住宅価格や家賃も下がっていくように思えます。
ところが実際には、住宅需要が強く、住宅価格が高い地域もあります。
人口が減っているのに空き家が増え、同時に住宅を必要とする人もいる。
一見すると矛盾しているようですが、その背景には住宅の場所や種類と、住みたい人の需要が一致しない住宅のミスマッチがあります。
人口減少と住宅需要は同じではない
まず重要なのは、人口が減ることと住宅需要が同じ割合で減ることは必ずしも同じではないという点です。
住宅需要を考えるときには、人口だけでなく世帯にも注目する必要があります。
例えば4人家族1世帯が住む場合、必要な住宅は基本的に1戸です。
その後、子どもが独立して別の住宅で暮らせば、家族全体の人数が大きく変わらなくても必要な住宅数は増えます。
単身世帯や少人数世帯が増えれば、人口が減少していても一定の住宅需要が残ることがあります。
住宅は余っている場所から動かせない
住宅には他の商品にはない大きな特徴があります。
場所を移動できないことです。
地方に空き家が100戸あったとしても、東京や大阪で住宅を探している人の住まいとして、その住宅を移動させることはできません。
住宅が余っている地域と、住宅を必要としている地域が違えば、全国では住宅が余っていても特定地域では住宅需要が強くなります。
全国の空き家数だけで住宅の過不足を判断できない理由です。
同じ自治体の中でもミスマッチは起きる
住宅のミスマッチは地方と都市部の間だけで起きるわけではありません。
同じ市内でも発生します。
駅に近い住宅を希望する人が多い。
子育て世帯は一定の広さを求めている。
高齢者は階段の少ない住宅を希望している。
単身者は小さな住宅を求めている。
住宅が空いていても、住宅を探している人の希望と合わなければ利用されません。
空き家の戸数と、実際に利用可能な住宅の戸数は同じではないのです。
市場に出ていない住宅は選ぶことができない
さらに大きな問題があります。
空き家が存在していても、売却や賃貸に出されていなければ、住宅を探している人はその物件を選べません。
大阪府寝屋川市には約1万6,000戸の空き家があります。
そのうち約6,000戸は売却にも賃貸にも出されていません。
住宅そのものは存在していますが、住宅市場から見れば供給されていないのと同じ状態です。
空き家が多いことと、購入したり借りたりできる住宅が多いことは別問題なのです。
古い住宅が現在の需要に合わないこともある
住宅の質のミスマッチもあります。
築年数が古い。
間取りが現在の生活に合わない。
断熱性能などに不安がある。
大規模な修繕が必要になる。
こうした住宅は空き家として存在していても、そのままでは現在の住宅需要に対応できない場合があります。
中古住宅を住宅供給として活用するためには、必要に応じて改修することも重要になります。
高齢者の住宅と若い世代の需要が一致しないこともある
人口構成の変化も住宅のミスマッチを生みます。
子どもが独立した後、高齢者が広い戸建て住宅に1人や2人で暮らしていることがあります。
一方、若い子育て世帯が広い住宅を探している場合があります。
住宅全体では十分な面積が存在していても、必要としている人へ住宅が移っていなければ需給のミスマッチは解消されません。
空き家対策と同時に、既存住宅を世代間でどのように循環させるかという視点も重要です。
新築と中古住宅は完全な代替関係ではない
空き家が増えているのだから、新築住宅はもう必要ないという単純な話でもありません。
新築住宅を希望する人もいます。
駅近のマンションを希望する人もいれば、郊外の戸建て住宅を希望する人もいます。
既存の空き家が希望する場所や条件を満たしていなければ、新築住宅への需要は残ります。
中古住宅と新築住宅は競合する部分がありますが、すべてが完全に置き換わるわけではありません。
空き家を市場に戻す意味がここにある
寝屋川市が空き家税を検討する理由も、この住宅のミスマッチと関係しています。
寝屋川市では新たに大規模な住宅開発をする土地がほとんど残っていません。
一方で、市内には売却にも賃貸にも出されていない空き家があります。
そこで眠っている住宅を市場へ戻し、若い世代などが利用できる住宅へ転換しようとしているのです。
新しい住宅地をつくるのではなく、既存住宅を循環させる考え方です。
これからは住宅の数より配置と利用が重要になる
人口が増えていた時代には、増える世帯に合わせて住宅を新しく建てることが重要でした。
人口減少時代には状況が変わります。
全国には大量の住宅ストックがあります。
問題は、その住宅が必要な場所にあり、必要な人が利用できる状態になっているかです。
空き家を売却や賃貸へ動かす。
古い住宅を改修する。
利用が難しい住宅を除却する。
こうした住宅ストックの組み替えが重要になります。
結論
人口が減少しているのに、住宅が足りない地域が存在することは矛盾ではありません。
住宅需要は人口だけでなく、世帯数、地域、住宅の種類、築年数、間取りなどさまざまな条件によって決まります。
さらに空き家が存在していても、売却や賃貸に出されていなければ住宅を探している人は利用できません。
全国で約900万戸の空き家があるという数字だけを見て、日本には住宅が十分余っていると判断することはできません。
これから重要になるのは、住宅をさらに増やすことだけではなく、すでに存在する住宅を必要としている人へどう移していくかです。
人口減少時代の住宅問題は、住宅の総量から住宅の配置と循環を考える時代へ移りつつあります。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 直言 眠る空き家、若者に回せ