非上場株式の相続税評価を巡り、国税庁が新しい評価方法を検討しています。
簿価純資産と残余利益を組み合わせ、会社が持つ資産だけではなく収益力も評価する仕組みです。
国税庁は2026年9月16日の有識者会議で具体的な計算式を示しました。
ただし、現時点で新ルールが確定したわけではありません。
今後さらに制度の詳細を詰め、2027年度税制改正に反映することを目指しています。
非上場企業の経営者や後継者にとって重要なのは、新ルールの方向性だけでなく、いつ、どのような形で適用されるのかを確認することです。
まだ決定した制度ではありません
今回示されたのは国税庁が検討している新しい評価方法の案です。
有識者会議では、納税者が自ら計算できることや実務上の合理性などの観点から議論されています。
国税庁によると、これまでの会議では新しい評価方法の方向性についておおむね賛同が得られているとされています。
しかし計算式を構成する重要な数字や、特定の会社をどのように評価するのかなど、引き続き検討すべき事項があります。
したがって、現在示されている計算方法を確定した制度として扱うことはできません。
基本は簿価純資産と残余利益です
新ルール案の基本的な考え方は明確になってきました。
会社の簿価純資産に残余利益を加え、さらに斟酌率を掛けて評価する仕組みです。
簿価純資産は、税法上の帳簿価額を基礎に会社の資産から負債を差し引いて計算します。
残余利益は会社の収益力を評価する部分です。
過去5年間の平均的な利益などをもとに計算し、株主が求める収益率に相当する還元率も使用します。
資産と収益力という2つの側面から企業価値を評価する考え方です。
還元率が重要なポイントになります
今後確認すべき数字の1つが還元率です。
国税庁の試算では8パーセントを前提として計算しています。
還元率は残余利益の評価に影響するため、この数字がどの水準になるかによって自社株評価額も変わります。
試算に8パーセントが使われたからといって、最終制度でも必ず8パーセントになるとは限りません。
どのような考え方で還元率を設定するのか。
市場環境の変化に応じて見直すのか。
今後の制度設計で確認したいポイントです。
斟酌率によって結果が大きく変わります
もう1つ重要なのが斟酌率です。
国税庁は1.0から0.7まで複数の水準を使って試算しています。
例えば斟酌率を1.0とした場合、小会社ではおよそ半数で現在より評価額が低下しました。
一方、0.7とした場合には、小会社の78.4パーセントで評価額が低下しました。
つまり基本的な計算式が同じでも、斟酌率をどこに設定するかによって企業への影響は大きく変わります。
新ルールの影響を判断するには、計算式だけでなく最終的な斟酌率を確認する必要があります。
会社規模による影響も確認が必要です
国税庁は2020年から2023年の申告事例1378件を使って試算しました。
内訳は大会社128社、中会社820社、小会社430社です。
試算では会社規模によって結果に違いが出ています。
斟酌率1.0の場合、大会社で評価額が下がった割合は16.4パーセントでした。
一方、小会社ではおよそ半数が低下しています。
斟酌率0.7では、小会社の78.4パーセントで評価額が低下しましたが、大会社で低下した割合は28.1パーセントでした。
新ルールはすべての企業へ同じ方向の影響を与えるわけではありません。
資産管理会社の扱いはこれからです
今後の議論で特に重要なのが資産管理会社です。
不動産や有価証券などを多く保有する会社では、一般の事業会社と同じ計算方法を使うと実態に合わない可能性があります。
新ルール案では簿価純資産を利用するため、昔取得した不動産に大きな含み益がある会社では、その含み益が現在ほど評価へ反映されない可能性があります。
資産を保有すること自体が会社の中心的な機能である場合、簿価だけでは現在の企業価値を適切に表せないという問題があります。
国税庁の有識者会議では、資産管理会社など特定の企業に適用する計算式について今後議論する予定です。
従業員持ち株会の扱いにも注目です
従業員持ち株会についても新しい考え方が示されています。
一定の条件を満たし、退職時などに株式を買い取る仕組みがある場合には、固定価格による評価を認める方向です。
また、後継者などが相続する株式の残余利益を計算する場合には、従業員持ち株会が保有する株式を除いて計算する考え方も示されています。
持ち株会を設けている非上場企業では、最終的な要件を確認する必要があります。
日本商工会議所は反対しています
新ルール案に対しては反対意見もあります。
日本商工会議所は、企業によっては自社株評価額が上昇し、事業承継時の負担が増える可能性があるとして反対しています。
会社が利益を上げて成長すれば、残余利益を通じて株価が高くなる可能性があります。
一方、非上場株式は市場で簡単に売却できません。
後継者が高額な株式を相続しても、納税に使える現金を同時に受け取るとは限りません。
企業価値を適切に評価することと円滑な事業承継をどう両立するかが、今後も重要な論点になります。
2027年度税制改正が大きな節目になります
国税庁は新しい評価方法を2027年度税制改正へ反映することを目指しています。
したがって、今後は有識者会議での議論に加えて、2027年度税制改正に向けた具体的な制度設計を確認する必要があります。
ただし、税制改正に盛り込まれることと実際の適用開始日は同じとは限りません。
いつからの相続や贈与に新しい評価方法を適用するのか。
経過措置が設けられるのか。
現在進めている事業承継に旧ルールと新ルールのどちらが適用されるのか。
実務上はこうした適用時期が非常に重要になります。
今の段階で自社株を試算する意味があります
制度が確定していないから何もしなくてよいとは限りません。
むしろ現在の評価方法と新ルール案の両方で自社株を試算しておくことには意味があります。
会社の簿価純資産はいくらなのか。
過去5年間の利益はどの程度なのか。
不動産に大きな含み益があるのか。
高い収益力を持つ会社なのか。
従業員持ち株会はあるのか。
資産管理会社に該当する可能性があるのか。
こうした情報を整理すれば、新ルールによって自社株評価が上がりやすい会社なのか、下がりやすい会社なのかを考える材料になります。
税制改正だけで承継時期を決めないことも重要です
新しい評価制度が検討されると、旧ルールのうちに株式を移した方がよいのか、新ルールを待った方がよいのかという問題が出てきます。
しかし事業承継は株価だけで決められるものではありません。
後継者が経営を引き継げる状態になっているか。
株式をどの程度集中させるのか。
他の相続人との財産分割をどうするのか。
納税資金をどのように準備するのか。
事業承継税制を利用するのか。
こうした問題を含めて判断する必要があります。
評価制度の変更だけを理由に、承継を急いだり遅らせたりすることには注意が必要です。
結論
非上場株式の新しい評価方法は、まだ確定した制度ではありません。
国税庁は簿価純資産と残余利益を組み合わせる基本的な計算方法を示し、2027年度税制改正への反映を目指しています。
しかし還元率や斟酌率、資産管理会社の扱い、従業員持ち株会の要件、適用開始時期など、確認すべき重要な事項が残っています。
特に重要なのは、新ルールによってすべての会社の自社株評価額が下がるわけではないことです。
不動産の含み益が大きい会社では評価額が下がる可能性がある一方、高い収益力を持つ会社では残余利益によって評価額が上がる可能性があります。
事業承継を予定している企業にとって必要なのは、新制度が決まってから初めて自社株を調べることではありません。
現在の自社株評価、簿価純資産、過去の利益、不動産の含み益、株主構成を今から把握し、新旧の評価方法でどの程度違いが生じる可能性があるのかを確認しておくことです。
2027年度税制改正は、非上場企業の事業承継を考えるうえで重要な節目になる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 非上場株の相続巡る新ルール案 中小の5割超、評価額減少
日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 企業収益力に応じ課税 計算簡単、評価額適正に
国税庁 2026年9月16日 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 第6回資料