経営者による内部統制の無効化とは何か 社長がルールを破ると不正を防ぎにくくなる理由編

会計
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企業は会計不正や横領を防ぐために、さまざまな社内ルールを設けています。

一定額以上の支払いには上司の承認が必要、取引を承認する人と送金する人を分ける、決算処理を複数の担当者で確認する。

こうした仕組みが内部統制です。

しかし、どれほど立派な内部統制を整備していても、それを会社のトップ自身が意図的に破れば、不正を防ぐことは難しくなります。

これが「経営者による内部統制の無効化」です。

会計監査で経営者による不正が特に警戒される理由もここにあります。

内部統制とは何か

内部統制とは、企業が業務を適切に行うために社内に設ける仕組みです。

会計不正の防止だけを目的とするものではありません。

業務を効率的に行うこと、財務報告の信頼性を確保すること、法令を守ること、会社の資産を保全することなど、さまざまな目的があります。

例えば経理担当者が会社のお金を自由に送金できないよう、一定額以上の振り込みには上司の承認を必要とする仕組みがあります。

一人の担当者に権限を集中させず、複数の人が関与することで不正や間違いを防ぎます。

経営者には大きな権限がある

ところが、経営者は一般社員とは立場が違います。

企業の最高責任者として大きな権限を持っています。

通常なら担当者が従わなければならないルールについて、経営者自身が例外的な処理を指示できる場合があります。

例えば決算直前に社長から経理部門へ「この売上は今期に入れてほしい」と強く指示されたとします。

経理担当者が本来は翌期に計上すべきだと考えていても、社長の指示に逆らいにくい企業文化であれば、不適切な処理が実行される可能性があります。

内部統制という仕組みが存在していても、経営者の権限によって実質的に機能しなくなることがあるのです。

内部統制の無効化とは何か

経営者による内部統制の無効化とは、経営者が本来守るべき内部統制を意図的に回避したり、部下に通常とは異なる処理を指示したりすることです。

英語ではマネジメントオーバーライドと呼ばれます。

例えば通常なら複数の承認が必要な取引について、経営者の指示で承認手続きを省略するケースがあります。

決算整理仕訳を通常の承認ルートを通さず入力することも考えられます。

また、会計上の見積もりについて、利益が大きくなるよう過度に楽観的な前提を使わせる可能性もあります。

形式的には内部統制が整備されていても、その運用が経営者によって曲げられれば不正防止機能は弱くなります。

決算時の仕訳操作が問題になりやすい

経営者による内部統制の無効化を考えるうえで、重要なものの一つが仕訳です。

日常の売上や仕入れは通常の業務システムを通じて記録されることが多く、複数の内部統制が働きます。

一方、決算時には減損や引当金など、通常取引とは異なる決算整理仕訳が必要になります。

こうした仕訳は金額が大きく、利益に直接影響することがあります。

もし経営者が利益目標を達成するために不適切な仕訳を指示すれば、一つの仕訳で決算数字が大きく変わる可能性があります。

そのため監査では、通常とは異なる仕訳や決算期末に入力された仕訳などに注意を払います。

会計上の見積もりも操作される可能性がある

経営者による無効化は、仕訳を直接変更する方法だけではありません。

会計上の見積もりを利用する方法もあります。

例えば固定資産の減損では、将来の事業計画やキャッシュフローなどが判断に影響します。

経営者が実現可能性の低い楽観的な事業計画を使えば、減損損失の計上を回避できる可能性があります。

貸倒引当金などでも、前提となる見積もりを変更すれば利益に影響することがあります。

会計基準に一定の判断の余地があるからこそ、経営者の判断が意図的に利益を良くする方向へ偏っていないかを見る必要があります。

なぜ部下は止められないのか

内部統制が機能するためには、ルールだけではなく企業文化も重要です。

経理担当者が不適切な処理だと気づいていても、社長や上司から強く指示されれば拒否することが難しい場合があります。

人事評価や昇進を上司が握っていれば、さらに逆らいにくくなります。

「目標達成が最優先」「結果を出せない人間は評価しない」といった企業文化が強すぎれば、社員が不適切な指示に従う環境を作ってしまう可能性があります。

形式的な内部統制だけでなく、経営トップがどのようなメッセージを組織へ発しているかが重要なのです。

監査役や取締役会の役割が重要になる

経営者自身が内部統制を無効化する可能性を考えると、経営者を監督する仕組みが必要になります。

そこで重要になるのが取締役会や監査役などです。

経営トップに権限が集中しすぎていないか、重要な会計判断が適切に行われているかを監督します。

内部通報制度も重要です。

社員が経営者や上司から不適切な会計処理を指示された場合、通常の指揮命令系統とは別のルートで通報できる仕組みが必要です。

内部統制は経理部だけで完成するものではありません。

経営者を含めた企業統治全体の仕組みとして考える必要があります。

監査人は経営者による不正を特に警戒する

監査人にとっても、経営者による内部統制の無効化は重要な不正リスクです。

経営者は内部統制を回避できる立場にあるためです。

監査人は仕訳や会計上の見積もりなどを検討し、経営者が利益を意図的に操作していないかを確認します。

また、経営者の説明をそのまま信頼するのではなく、監査証拠によって裏付ける必要があります。

日本公認会計士協会が進める不正に関する監査基準の改正でも、不正やその疑いを把握した場合の監査手続きが強化される方向です。

企業側が行った調査や是正措置についても、その適切性を監査人が評価することが想定されています。

結論

内部統制とは、企業が不正や間違いを防ぎ、適切に業務を行うための重要な仕組みです。

しかし、どれほど詳細なルールを作っても、経営者自身がそのルールを意図的に無効化すれば、不正を完全に防ぐことはできません。

経営者は会社内部で大きな権限を持っているからです。

決算時の仕訳、会計上の見積もり、例外的な取引などを通じて、利益を実態より良く見せる方向へ会計処理を動かす可能性があります。

だからこそ不正防止では、経理のチェック体制を整えるだけでは十分ではありません。

取締役会や監査役による経営者への監督、内部通報制度、異論を言える企業文化なども重要になります。

内部統制で最も難しい問題の一つは「ルールを守らせる立場の人がルールを破ったらどうするのか」です。

経営者による内部統制の無効化という考え方は、企業の不正リスクを理解するうえで欠かせない視点なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載

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