子どもをもう1人持ちたいと思っても、将来の教育費を考えるとためらってしまう。
こうした家計の不安が、日本の少子化に大きな影響を与えていることが2025年の出生動向基本調査から分かります。
夫婦が理想の人数の子どもを持たない理由として最も多かったのは、子育てや教育にお金がかかりすぎるという回答でした。
その割合は52.9パーセントです。
半数を超える夫婦が費用を理由として挙げています。
政府は高校授業料などの無償化を進めています。それでも教育費への不安がなくなるとは限りません。
なぜなのでしょうか。
教育費は長期間続く
教育費の特徴は、長い期間にわたって発生することです。
子どもが生まれてすぐ大学の学費が必要になるわけではありません。
保育園や幼稚園から始まり、小学校、中学校、高校、大学へと続きます。
その間には学校へ支払う費用だけでなく、様々な支出が発生します。
子どもが大学を卒業するまで考えれば、20年前後にわたる家計負担になります。
住宅や自動車のように購入時点で総額が分かりやすい支出とは性質が違います。
将来どれだけ必要になるのか見通しにくいことが、教育費への不安を大きくします。
授業料だけが教育費ではない
教育費という言葉から、学校の授業料を思い浮かべる人は多いでしょう。
しかし、家庭が実際に負担する教育関連支出は授業料だけではありません。
教材や制服、学校行事、通学などにもお金がかかります。
さらに大きな存在となるのが学校外教育です。
塾、通信教育、習い事などがあります。
スポーツや音楽を習わせる家庭もあります。
大学受験を考えれば、受験料や模擬試験、受験のための交通費などが必要になる場合もあります。
大学進学を機に親元を離れれば、家賃や生活費の仕送りまで加わる可能性があります。
授業料を無償化したからといって、教育に関係する家計負担がゼロになるわけではありません。
教育投資には上限が見えにくい
教育費にはもう一つ特徴があります。
いくら使えば十分なのかが分かりにくいことです。
食費であれば、一定の範囲で必要額を想像できます。
ところが教育には、より良い教育を受けさせたいと考えれば追加できる選択肢が数多くあります。
塾へ通わせる。
英語を習わせる。
スポーツを経験させる。
受験対策をする。
私立学校を選ぶ。
こうした選択にはそれぞれ費用がかかります。
周囲の家庭が教育投資を増やせば、自分の家庭だけ減らすことに不安を感じることもあります。
教育費には事実上の上限を決めにくい面があります。
無償化で浮いたお金が別の教育費に回ることもある
政府が授業料を無償化すれば、対象となる家庭の負担は軽くなります。
これは大きな支援です。
しかし、家計で浮いたお金がすべて貯蓄や生活費に回るとは限りません。
授業料の負担が減った分、塾や習い事など別の教育へお金を使う家庭も考えられます。
周囲が教育投資を増やせば、他の家庭も同じような教育を受けさせようとする可能性があります。
結果として、公的な教育費負担が軽くなっても、家庭全体の教育支出が同じだけ減るとは限りません。
教育費問題を授業料だけで考えられない理由です。
子どもの人数を考えると負担はさらに大きくなる
教育費の問題は、子どもの人数とも直結します。
子ども1人であれば負担できる教育費でも、2人、3人になれば家計への影響は大きくなります。
特に大学進学時期が重なれば、短期間に大きな支出が集中する可能性があります。
夫婦が子どもの人数を考えるときには、現在の乳幼児期の費用だけではなく、十数年後の教育費まで意識します。
子どもをもう1人持つという判断は、将来の教育費をもう1人分負担する判断でもあります。
この心理が第2子や第3子をためらう要因になる可能性があります。
理想と予定の人数に差がある
2025年の出生動向基本調査では、夫婦が理想とする子どもの数は平均2.18人でした。
一方、実際に予定している子どもの数は1.95人でした。
理想では2人以上でも、現実には2人を下回っています。
その差を生む最大の理由として挙げられているのが、子育てや教育にお金がかかりすぎることです。
ここには少子化対策を考えるうえで重要なヒントがあります。
子どもを持ちたくない家庭だけが増えているわけではありません。
理想ではもう少し子どもが欲しいものの、家計を考えて人数を抑えている家庭もあるということです。
教育費は将来の所得不安とも結びつく
教育費の負担感は、支出額だけで決まるわけではありません。
将来どの程度の所得を得られるかによっても変わります。
今後20年間、安定して収入が増えると考えられる家庭と、雇用や所得に不安を抱える家庭では、同じ教育費でも受け止め方が違います。
住宅ローンを返済しながら教育費を準備し、自分たちの老後資金も形成しなければなりません。
将来の所得を予測しにくければ、安全を考えて子どもの人数を少なくする家庭も出てきます。
教育費問題は、若い世代の所得や雇用の問題ともつながっています。
教育費を予測できることも重要
少子化対策として教育費を考える場合、単純に無料にするかどうかだけではなく、家計が将来の負担を予測できることも重要です。
子どもが高校や大学へ進学したときに、どの程度の負担になるのか。
どのような公的支援を受けられるのか。
所得が変化した場合に支援はどうなるのか。
こうしたことが長期的に見通せれば、若い夫婦は子どもの人数を考えやすくなります。
子育ては20年以上続く可能性のある長期計画です。
政策についても長期的な予測可能性が求められます。
結論
2025年の出生動向基本調査では、理想の人数の子どもを持たない理由として、子育てや教育にお金がかかりすぎるという回答が52.9パーセントで最多となりました。
教育費問題が難しいのは、授業料だけの問題ではないからです。
塾、習い事、受験、通学、大学進学後の生活費など、家庭が負担する費用は幅広くあります。
さらに教育には、どこまでお金をかければ十分なのかという上限が見えにくい特徴があります。
授業料無償化は家計を支える重要な政策ですが、それだけで教育費への不安がすべて解消するわけではありません。
若い夫婦が安心して子どもの人数を考えるためには、教育に必要な負担を長期的に見通せることも重要です。
少子化対策としての教育支援には、目の前の授業料を軽くするだけでなく、子どもが成長する20年先まで家計が安心して人生設計できる仕組みが求められているのだと思います。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 一生結婚しない2割超
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 生活不安で結婚ためらう 家庭築く準備、支援薄く