一人暮らしの高齢者をセンサーや家電製品で見守るサービスでは、普段と違う生活行動を検知して家族などへ知らせることができます。
例えば、いつも使っている電球が長時間点灯しない。人感センサーが反応しない。毎朝使う電気ポットが使われない。
こうした変化は、室内で高齢者が倒れていることを知らせる重要な手掛かりになる可能性があります。
しかし、いつもと違うからといって、本当に異変が起きているとは限りません。
高齢者が旅行へ出掛けているだけなのに異常と判断することもあります。
高齢者見守りでは、異変を見逃さないことと同時に、こうした誤報をどこまで減らせるかが重要になります。
異常検知とは何か
センサーによる見守りでは、高齢者の普段の生活行動を手掛かりに異変を探します。
例えば毎朝6時から8時の間に台所へ行く人がいるとします。
通常であれば人感センサーがその時間帯に反応します。
ところがある日、午前10時になっても一度も反応しなかったとします。
いつもの生活パターンとは違うため、システムは異変の可能性があると判断できます。
電球でも同じです。
毎日利用するトイレの照明が長時間点灯しなければ、何か起きている可能性があります。
このように、普段の状態から大きく外れた変化を見つけることが異常検知の基本的な考え方です。
異常と異変は同じではない
ここで重要なのは、機械が見つけた「異常」と、人間に実際に起きている「異変」は必ずしも同じではないことです。
センサーが分かるのは、基本的に人が動いたか、ドアが開いたか、家電が使われたかといった情報です。
なぜそうなったのかまでは分かりません。
いつも朝7時に起きる人が10時まで動かなかったとしても、体調を崩しているとは限りません。
前日に夜更かしをして寝坊しただけかもしれません。
つまりセンサーが検知できるのは「いつもと違う」という事実です。
その原因まで自動的に判断できるわけではありません。
外泊や旅行でも異常になる
誤報が起きる分かりやすい例が外泊です。
高齢者が旅行へ出掛ければ、自宅の人感センサーは長時間反応しません。
トイレの電球も点灯しません。
電気ポットも使われません。
センサーだけから見れば、普段の生活行動が突然すべて止まったことになります。
これは室内で倒れている場合と似たデータになる可能性があります。
家族の家に泊まりに行った場合も同じです。
本人にとっては楽しい旅行や外泊でも、見守りシステムから見ると大きな生活変化です。
外出予定などを事前に登録できる仕組みがあれば誤報を減らせますが、高齢者本人に毎回操作を求めれば使い勝手が悪くなります。
見守りサービスには、この難しさがあります。
普段の生活にも変化がある
人間の生活は毎日同じではありません。
朝早く起きる日もあれば、遅く起きる日もあります。
外食する日もあります。
体調は悪くなくても、一日中自宅で本を読んで過ごすこともあるでしょう。
いつも使っている電気ポットを使わず、別の飲み物を飲む日もあります。
そのため生活パターンを細かく決めすぎると、少し違った行動をするだけで異常として検知される可能性があります。
反対に、基準を緩くしすぎれば本当の異変を見逃す可能性があります。
どの程度の変化を異常と判断するのかが重要になります。
誤報が多すぎると何が起きるのか
安全を最優先するなら、少しでも異変の可能性があれば通知すればよいように思えます。
しかし通知が多すぎると別の問題が起きます。
例えば離れて暮らす家族に毎日のように警告が届くとします。
確認してみると、毎回単なる寝坊や外出だった。
これが続けば、家族は次第に通知を重要だと思わなくなる可能性があります。
そして本当に重大な異変が起きたときにも、「また誤報だろう」と考えてしまうかもしれません。
警報は多ければ多いほど安全というわけではありません。
本当に確認する必要がある警報を、適切に知らせることが重要です。
複数の情報を組み合わせる
誤報を減らす方法の一つが、複数の情報を組み合わせることです。
例えば電気ポットが使われていないだけなら、単にお茶を飲まなかった可能性があります。
しかし電気ポットが使われていない。
人感センサーも長時間反応していない。
トイレの照明も使われていない。
玄関ドアも開いていない。
こうした複数の変化が同時に起きていれば、一つだけの場合より異変の可能性が高いと考えられます。
生活の一つの行動だけを見るのではなく、複数の生活データから判断することによって、見守りの精度を高められる可能性があります。
本人ごとの生活パターンを見る
誤報を減らすためには、その人自身の生活パターンを考えることも重要です。
例えば毎朝5時に起きる人と、毎朝9時に起きる人では、同じ基準を使うことはできません。
毎日外出する人と、週に一度しか外出しない人も違います。
全員について「朝8時までに動かなければ異常」と決めれば、生活習慣の違いだけで大量の誤報が発生します。
そこで、その人が普段どのように生活しているのかを基準にして、そこから大きく外れた場合に注意するという方法が考えられます。
高齢者見守りでは、画一的な基準より一人ひとりの生活に合わせた判断が重要になります。
最後は人による確認が必要
どれだけセンサーの性能が向上しても、機械だけですべてを判断することは難しいでしょう。
だからこそ、人による確認が必要になります。
例えば異変を検知したら、まず本人へ電話をかけます。
電話に出て「今日は寝坊しただけです」と分かれば、それ以上の対応は必要ありません。
電話に出ない場合には、家族などへ連絡します。
それでも安否が確認できなければ、必要に応じて現地へ駆け付けます。
つまりセンサーは、人に代わって最終判断をするものではありません。
多くの高齢者のなかから「この人は今、確認した方がよいかもしれない」と知らせる役割を担います。
誤報をゼロにすることが目的ではない
見守りサービスでは、誤報を完全になくすことだけを目標にすると、本当の異変まで見逃す危険があります。
例えば警報が出る基準を極端に厳しくすれば、誤報は減るかもしれません。
しかし室内で倒れていても、警報がなかなか出ない可能性があります。
反対に敏感に設定すれば、異変を早く発見できる一方で誤報が増えます。
重要なのは、このバランスです。
多少の誤報を許容しながら、本当に危険な状態をできるだけ早く発見する。
そして機械が出した警報を、人が確認して判断する。
見守りサービスは、こうした多段階の仕組みとして考える必要があります。
結論
高齢者見守りで誤報が起きるのは、センサーが故障しているからとは限りません。
人間の生活そのものが毎日変化するからです。
寝坊、外出、旅行、外泊、家電を使わない日など、本人にとっては普通の生活の変化でも、システムから見ると「いつもと違う行動」になります。
だからこそ、見守りサービスでは一つのセンサーだけで判断せず、複数の情報を組み合わせたり、その人自身の生活パターンと比較したりすることが重要になります。
そして最後の確認は人が行います。
ICTが異変の可能性を見つけ、人が確認し、必要なら現地へ向かう。
単身高齢者が増える社会では、機械に人を完全に置き換えさせるのではなく、人が本当に対応すべき場面をICTに見つけてもらうという考え方が重要になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 単身高齢者見守るICT 手ごろな機器でサービス続々
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 高齢者見守りサービスとは