非認知能力とは何か テストの点数では測れない力が大学教育でも重視される理由編

人生100年時代
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学校では、学力をテストの点数で測ることが一般的です。

数学の問題をどれだけ解けるか。

文章をどれだけ正確に読めるか。

英単語をどれだけ覚えているか。

こうした能力は点数として表しやすく、入学試験などでも重要な役割を果たしてきました。

しかし、社会に出て活躍するために必要なのは、テストで測れる能力だけではありません。

最後まで粘り強く取り組む。

相手の話を聞く。

異なる考え方の人と協力する。

失敗しても方法を変えてもう一度挑戦する。

自分の感情をコントロールする。

こうした能力も、仕事や生活では重要です。

ところが、これらは数学や英語のように簡単に点数で測ることができません。

そこで注目されるのが「非認知能力」です。

今回のシリーズで取り上げてきた旅する大学やPBL、マイプロジェクト、越境学習などにも、非認知能力を育てるという共通点があります。

今回は、非認知能力とは何か、認知能力とは何が違うのか、そしてなぜ大学教育でも重視されるようになっているのかを考えてみます。

非認知能力とは何か

非認知能力とは、一般に学力試験や知能検査などでは直接測りにくい、人の行動や考え方に関係するさまざまな能力や特性を指します。

たとえば、

粘り強さ

自己管理

協調性

自制心

主体性

責任感

好奇心

コミュニケーション能力

などです。

ただし、非認知能力という一つの能力が存在するわけではありません。

テストで測りやすい認知能力とは異なる幅広い能力や特性をまとめて表す言葉として使われています。

人間の能力を、テストの点数だけでは捉えきれないという考え方が背景にあります。

認知能力とは何が違うのか

認知能力とは、知識を理解したり、記憶したり、計算したり、論理的に考えたりする能力です。

学校教育で従来重視されてきた学力の多くはこちらに含まれます。

たとえば数学の計算問題なら、正解と不正解を比較的明確に判定できます。

一方、協調性を100点満点で正確に測ることは簡単ではありません。

粘り強さについても同じです。

ある場面で最後まで頑張った人が、別の場面でも必ず粘り強いとは限りません。

そのため非認知能力は、本人への質問や行動の観察などを通じて把握されることがあります。

認知能力と非認知能力の大きな違いは、単純に「頭の良さ」と「性格」の違いというわけではありません。

実際の生活では両者が組み合わさって行動として表れます。

学力が高いだけでは仕事はできない

たとえば、非常に豊富な専門知識を持っている人がいるとします。

しかし、自分の考えを相手へ説明できなければ、その知識を仕事で十分に生かせないことがあります。

自分とは違う意見を受け入れられなければ、チームで仕事をすることが難しくなるかもしれません。

失敗したときにすぐ諦めてしまえば、難しい仕事を最後までやり遂げることも難しくなります。

反対に、コミュニケーション能力だけあって専門知識がまったく必要ないわけでもありません。

仕事では、

専門知識

考える力

人と協力する力

自分を管理する力

などを組み合わせて成果を出します。

つまり認知能力か非認知能力かという二者択一ではありません。

両方が必要なのです。

協調性とは単に人に合わせることではない

非認知能力の一つとしてよく挙げられるのが協調性です。

協調性というと、

周囲の人に合わせる

反対意見を言わない

仲良くする

という意味に捉えられることがあります。

しかし社会で必要になる協調性は、単なる同調とは少し違います。

自分とは違う意見を持つ人の話を聞く。

自分の考えも説明する。

意見が違う理由を理解する。

必要なら役割を分担する。

共通の目的に向かって協力する。

こうした力です。

むしろ本当の協働では、意見が違うことを前提に、一緒に答えをつくる必要があります。

今回のシリーズで取り上げたPBLのようなグループ学習では、こうした経験をする機会があります。

粘り強さは失敗したときに表れる

非認知能力の中でも注目されるものの一つが粘り強さです。

簡単な問題を解いているときには、粘り強さはあまり必要ありません。

その能力が表れやすいのは、思ったようにいかないときです。

学生が地域でイベントを企画したとします。

しかし参加者が集まりませんでした。

そこで、

もうやめよう

と考えるのか、

なぜ集まらなかったのか調べてみよう

と考えるのかで、その後の行動は変わります。

告知方法を変える。

開催時間を変える。

対象者へ直接話を聞く。

企画そのものを見直す。

失敗を終わりにせず、次の行動へつなげる経験によって粘り強さを発揮する機会が生まれます。

自己管理する力も重要になる

学校では、時間割が決められています。

何時から授業が始まり、いつ試験があり、いつまでに課題を提出するのかが示されます。

しかし自由度が高い学習では、自分自身で行動を管理する必要があります。

たとえばマイプロジェクトなら、

何をするのか

いつまでにするのか

誰に連絡するのか

どのように進捗を確認するのか

を自分で考えます。

誰かに細かく指示されなくても、自分で計画を立てて行動する力が必要になります。

社会人になると、この自己管理能力はさらに重要になります。

自由度が高くなるほど、自分を管理する責任も大きくなるからです。

地域へ出ると予定どおりにいかない

教室での学習と地域での実践には大きな違いがあります。

現実の社会では、予定どおりに物事が進まないことです。

話を聞く予定だった人の都合が悪くなる。

イベント当日に雨が降る。

協力してくれると思っていた人に断られる。

住民から厳しい意見を言われる。

学生が考えた企画に需要がない。

こうしたことが起こります。

そのたびに計画を修正する必要があります。

何が起きるか完全には予測できない環境で行動する経験は、柔軟性や粘り強さ、コミュニケーション能力などを使う機会になります。

旅する大学が地域での実践を重視する理由の一つも、ここにあります。

幅広い世代との交流にも意味がある

大学の中だけで生活していると、交流する相手が同年代に偏りやすくなります。

しかし地域へ出れば、

高校生

会社員

経営者

自治体職員

子育て中の人

高齢者

など、幅広い人と接します。

同年代の友人には簡単に伝わる言葉でも、高齢者には伝わりにくいことがあります。

企業経営者と高校生では、同じ問題についても見方が違うでしょう。

相手によって説明方法を変えたり、相手の立場を考えたりする必要があります。

異なる世代や立場の人との交流は、コミュニケーション能力を実際に使う場になるのです。

越境すると自分の弱点が見える

前回取り上げた越境学習も、非認知能力と深く関係しています。

慣れた環境では、自分の弱点に気づきにくいことがあります。

周囲の人が自分の性格や仕事の進め方を知っているからです。

しかし知らない環境へ行けば、これまで通用していた方法が通用しないことがあります。

自分から話しかけなければ関係をつくれない。

自分で仕事を探さなければ何も始まらない。

意見の違う人と調整しなければならない。

こうした経験をすると、

自分は初対面の人へ話しかけるのが苦手だ

人に助けを求めることが苦手だ

計画が崩れると対応できなくなる

といった自分の特徴に気づくことがあります。

自分を知ることも成長の出発点になります。

非認知能力は教えれば身につくとは限らない

非認知能力が重要だからといって、

「今日の授業では粘り強さを覚えましょう」

と説明するだけで身につくものではありません。

実際に難しい課題へ取り組む。

失敗する。

人と意見が対立する。

計画を変更する。

助けを求める。

そして経験を振り返る。

こうした過程の中で、自分の行動の特徴に気づくことが重要です。

そのためPBL、マイプロジェクト、フィールドワーク、サービスラーニング、越境学習などの実践型教育と相性がよいと考えられます。

知識として学ぶのではなく、実際に使う場面をつくるわけです。

振り返りが成長につながる

ただ経験すれば非認知能力が自動的に伸びるわけでもありません。

重要なのが振り返りです。

たとえばグループ活動がうまくいかなかったとします。

そこで、

メンバーが悪かった

で終われば、次も同じことが起こるかもしれません。

一方、

自分は相手の意見を十分に聞いていただろうか

役割分担は適切だっただろうか

困ったときに相談できただろうか

と考えれば、自分の行動を見直すことができます。

経験を振り返り、次の行動を変えることで成長につなげます。

非認知能力を育てる教育では、この振り返りが重要になります。

点数で測りにくいから評価も難しい

非認知能力を教育で重視すると、難しい問題も出てきます。

それが評価です。

数学なら100点満点の試験を行えます。

しかし、

協調性80点

主体性75点

粘り強さ90点

と正確に測れるわけではありません。

教師の主観だけで評価すると、公平性の問題も生じます。

また、外向的でよく発言する学生が必ずコミュニケーション能力に優れているとも限りません。

静かに人の話を聞き、必要な場面で適切な意見を言う人もいます。

そのため非認知能力は、一つの数字だけで単純に評価することが難しいものです。

活動記録、自己評価、他者からの評価、振り返りなど複数の方法を組み合わせて成長を見ることが重要になります。

AI時代に非認知能力が注目される理由

生成AIは、知識を調べたり、文章を書いたり、データを分析したりする能力を急速に高めています。

これまで人間が時間をかけて行っていた認知的な作業の一部をAIが支援できるようになっています。

すると人間には、

何を目指すのか

誰と協力するのか

相手の気持ちをどう理解するのか

失敗したときにどう対応するのか

異なる意見をどう調整するのか

といった能力がより重要になる可能性があります。

もちろんAI時代でも専門知識や論理的思考は必要です。

しかし知識だけを持っていることの希少性は低下するかもしれません。

知識を人間社会の中でどのように使うのかという部分で、非認知能力の重要性が高まると考えられます。

結論

非認知能力とは、学力試験や知能検査だけでは直接測りにくい、粘り強さ、協調性、自己管理、主体性、好奇心などの幅広い能力や特性を表す言葉です。

社会で成果を出すためには、専門知識や論理的思考といった認知能力だけでは十分とは限りません。

異なる考えを持つ人と協力し、失敗しても方法を変え、自分で行動を管理する力も必要になります。

こうした能力は、教室で説明を聞くだけでは身につきにくいものです。

実際の課題へ取り組み、人と関わり、予定どおりにいかない経験をし、その経験を振り返ることが重要になります。

だからこそ、今回のシリーズで取り上げてきた旅する大学、PBL、マイプロジェクト、フィールドワーク、サービスラーニング、越境学習などが注目されています。

これらには共通して、学生を予定された正解だけが存在する環境から、正解の分からない現実社会へ連れ出すという特徴があります。

AIが多くの知的作業を支援するようになるほど、人間には知識を持っているだけでなく、その知識を人との関係の中で使う力が求められるでしょう。

テストでは測りにくい力だから重要ではないのではありません。

むしろ数字に表しにくい能力の中に、社会で生きるために重要な力が数多く含まれているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 「旅する大学」が養う発見力 移動しながら幅広い世代と交流

日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 地域の受け入れ継続へ 下調べと連携が不可欠

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