学校では通常、先生が「これについて調べてください」「この問題を解いてください」と課題を出します。
学生は与えられた課題に取り組み、レポートを書いたり発表したりします。
しかし、社会に出ると状況は大きく変わります。
誰かがいつも「次はこれをやってください」と課題を用意してくれるわけではありません。
自分で問題を見つけ、何をすべきかを考え、周囲の人を巻き込みながら行動することが求められる場面があります。
こうした力を育てる学びの一つが「マイプロジェクト」です。
前回取り上げたPBLとも深く関係していますが、大きな特徴は、自分自身の興味や問題意識を出発点にすることです。
今回は、マイプロジェクトとはどのような学びなのか、なぜ先生から課題を与えられなくても学生が学べるのかを考えてみます。
マイプロジェクトとは何か
マイプロジェクトとは、自分自身の興味や問題意識をもとにテーマを設定し、実際に行動しながら学んでいく取り組みです。
重要なのは「自分でテーマを決める」という点です。
たとえば先生から、
「地域の観光振興について考えてください」
と課題を与えられるのではありません。
地域で生活したり、人と話したり、自分の好きなことを考えたりする中から、
「地域のお祭りをもっと若い人に知ってもらいたい」
「使われていない空き家を活用できないだろうか」
「地元の農産物を若者向けの商品にできないだろうか」
といったテーマを自分で見つけます。
そこから調査し、計画を立て、実際に行動します。
つまり、課題を解決するところだけでなく、「自分は何に取り組みたいのか」を考えるところから学習が始まるのです。
自分の興味から始める
マイプロジェクトでは、自分自身の関心が重要になります。
たとえば料理が好きな学生が地域へ行ったとします。
地域の農家と話しているうちに、味はよいのに形が悪いという理由だけで販売しにくい野菜があることを知ったとします。
そこで、
「この野菜を使った料理を考えて販売できないだろうか」
というテーマが生まれるかもしれません。
写真が好きな学生なら、地域の魅力を写真で発信する活動につながるかもしれません。
スポーツが好きな学生なら、地域の子どもたちを対象としたスポーツイベントを企画するかもしれません。
同じ地域で暮らしていても、学生によって見えるものは違います。
自分の興味というフィルターを通すことで、それまで見過ごされていた地域の課題や可能性に気づくことがあります。
興味だけではプロジェクトにならない
ただし、「自分が好きだから」というだけではマイプロジェクトにはなりません。
重要なのは、興味を行動につなげることです。
たとえば、
「地域のカフェに興味があります」
だけでは、まだ個人的な関心です。
そこから、
なぜこの地域には若者が集まる場所が少ないのか
どんな場所なら若者が利用するのか
空き店舗を活用できないか
地域住民と若者が交流できる場所をつくれないか
と考えていくことで、プロジェクトになっていきます。
そして実際に地域の人へ話を聞きます。
利用者へのアンケートを行うかもしれません。
小さなイベントを開催することも考えられます。
頭の中で考えるだけではなく、実際に行動してみるところに大きな意味があります。
行動すると新しい問題が見えてくる
マイプロジェクトでは、最初に決めた計画どおりに進まないことも重要な学びになります。
たとえば学生が地域イベントを企画したとします。
自分では若者がたくさん参加すると考えていたのに、実際にはほとんど集まらなかったとします。
普通なら「失敗した」と考えるでしょう。
しかしマイプロジェクトでは、そこから学習が続きます。
なぜ参加者が集まらなかったのでしょうか。
告知方法が悪かったのかもしれません。
開催時間が合わなかった可能性もあります。
そもそも企画そのものに需要がなかったのかもしれません。
自分がよいと思ったものと、地域の人が求めているものが違っていた可能性もあります。
実際に行動することで、考えているだけでは見えなかった問題が見えてきます。
そして計画を修正し、もう一度試します。
この繰り返しが学びになります。
PBLとは何が違うのか
前回取り上げたPBLとマイプロジェクトはよく似ています。
どちらも、学生が主体的に課題へ取り組む学習だからです。
ただし、マイプロジェクトでは「自分自身の問題意識」がより強く意識されます。
PBLでは、授業として一定の課題が設定されることがあります。
たとえば、
「この商店街を活性化する方法を考える」
というテーマを先生や地域側が用意し、その中で学生が解決策を考える方法です。
一方、マイプロジェクトでは、
「自分は何に興味があるのか」
「自分は何を変えたいと思うのか」
というところからテーマを探します。
つまり、
与えられた課題に主体的に取り組む
だけでなく、
取り組む課題そのものを自分でつくる
ところまで学生に委ねられるのが大きな特徴です。
なぜ先生が課題を与えなくても学べるのか
従来の学校教育では、先生が学ぶ内容を決めることが一般的でした。
これは効率のよい方法です。
学生が何を学ぶべきか分からなくても、先生が必要な知識を順番に教えてくれるからです。
しかしマイプロジェクトでは、学習の順番が逆になります。
まず、やりたいことがあります。
そして実現しようとすると、分からないことが出てきます。
そこで必要な知識を調べます。
たとえば地域の商品を販売したいと思えば、価格設定について学ぶ必要が出てきます。
宣伝するならマーケティングの知識が必要になります。
収支を管理するなら会計について知らなければなりません。
人を集めるなら広報やコミュニケーションについて考える必要があります。
つまり、
知識を学んでから使い道を探す
のではなく、
やりたいことを実現するために必要な知識を学ぶ
という順番になります。
学ぶ目的がはっきりしているため、知識と実践が結びつきやすくなるのです。
自分で決めるから責任も生まれる
先生から与えられた課題なら、うまくいかなかったときに「課題が面白くなかった」と考えることもできます。
しかし、自分で決めたテーマではそうはいきません。
なぜこのテーマに取り組むのか。
何を目指すのか。
誰に協力してもらうのか。
どこまで実行するのか。
自分で考える必要があります。
自由度が高いということは、それだけ責任も大きいということです。
この経験は、主体性を育てることにつながります。
主体性とは、単に「好きなことを自由にする」という意味ではありません。
自分で選び、その結果を引き受け、必要なら修正しながら前へ進む力でもあります。
地域で行うとテーマが見つかりやすい
前々回取り上げた旅する大学では、地域で生活することそのものが学習になります。
マイプロジェクトは、この地域での学びと非常に相性があります。
地域には教科書に整理されていない現実の課題がたくさんあります。
商店街の空き店舗。
農業の担い手不足。
高齢者の移動手段。
子どもの居場所。
観光客への情報発信。
地域行事の後継者不足。
実際に暮らして人と話していると、こうした課題が具体的な人の顔とともに見えてきます。
すると「地域活性化」という抽象的なテーマではなく、
「いつも話をしているこの人が困っている問題を何とかできないだろうか」
という身近な問題になります。
人との関係から問題意識が生まれることも、地域でマイプロジェクトを行う大きな特徴です。
地域のためだけに活動するわけではない
マイプロジェクトというと、社会貢献活動のように見えることがあります。
もちろん地域に役立つ活動もあります。
しかし教育として重要なのは、地域の問題を学生が解決してあげることではありません。
学生自身がその経験を通じて学ぶことです。
そもそも数カ月や1年程度滞在する学生が、長年続いてきた地域課題を簡単に解決できるとは限りません。
「自分が地域を変えてあげる」という姿勢では、地域との関係もうまくいかないでしょう。
地域の人から学び、一緒に考え、小さく試してみる。
そして自分自身も変わっていく。
こうした双方向の関係が重要になります。
振り返ることで経験が学びになる
マイプロジェクトでは、活動するだけでは十分ではありません。
重要なのが振り返りです。
何をしようとしたのか。
実際には何が起きたのか。
なぜうまくいったのか。
なぜ失敗したのか。
自分は何を感じたのか。
次は何を変えるのか。
こうしたことを言葉にします。
同じ経験をしても、そこから何を学ぶかは人によって違います。
経験しただけで終わらせず、振り返って意味づけすることで、自分の考え方や行動の特徴にも気づくことができます。
マイプロジェクトでは、成果物だけではなく、この学習過程そのものが重要なのです。
AI時代には自分でテーマを決める力が重要になる
生成AIを使えば、調べ物や文章作成、アイデア出しなど、多くの作業を支援してもらえるようになりました。
しかしAIが便利になるほど、
「何について調べたいのか」
「何を実現したいのか」
「自分は何に関心があるのか」
という出発点が重要になります。
テーマがなければ、AIに何を質問すればよいのかも決まりません。
AIが答えをつくる能力を高めていく時代には、人間側には問いや目的をつくる能力が求められます。
自分の興味から問いを見つけ、行動し、結果を振り返るマイプロジェクトは、こうした時代の学び方とも相性がよいと考えられます。
結論
マイプロジェクトとは、先生から与えられた課題に取り組むのではなく、自分自身の興味や問題意識からテーマを見つけ、実際に行動しながら学んでいく取り組みです。
大きな特徴は、問題を解くところだけでなく、「何に取り組むのか」を決めるところから学生自身が担うことにあります。
自分の興味から始め、地域の人と出会い、行動してみると、予想していなかった問題が見えてきます。
失敗すれば原因を考え、方法を変えてもう一度試します。
そして経験を振り返ることで、自分が何を学んだのかを言葉にします。
先生から課題を与えられないということは、何も教えてもらえないということではありません。
むしろ、自分で問いをつくり、その問いを追いかけるために必要な知識を学ぶという、学習の順番そのものが変わることを意味します。
AIが多くの答えを提示できるようになるほど、「自分は何を知りたいのか」「何をしたいのか」を決める力の価値は高まります。
マイプロジェクトは、自分の学びを自分でつくる練習でもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 「旅する大学」が養う発見力 移動しながら幅広い世代と交流
日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 地域の受け入れ継続へ 下調べと連携が不可欠