原子力発電所がある自治体には、一般の自治体にはない特徴的な税収があります。
その代表が「核燃料税」です。
原発事業者などに対して自治体が独自に課す税で、原発立地地域にとって重要な財源になっています。
日本経済新聞によると、核燃料税などの課税総額は2026年度予算ベースで634億円となる見込みで、2016年度と比べて約6割増えています。
さらに興味深いのは、原発が実際に発電しているかどうかだけで税収が決まるわけではないことです。
原発が停止していても課税できる仕組みが広がっています。
なぜ、そのようなことが可能なのでしょうか。
核燃料税とは何か
核燃料税とは、原発事業者などに対して自治体が独自に課税する税です。
国が全国一律に定めている一般的な税ではありません。
自治体が条例を制定し、総務相の同意を得ることで導入する「法定外税」の一種です。
日本で最初に導入したのは福井県で、1976年のことでした。
その後、愛媛県、佐賀県、島根県などの原発立地県へ広がりました。
県だけではありません。
鹿児島県薩摩川内市や新潟県柏崎市など、市町村が独自に課税するケースもあります。
つまり、
原発が存在することで自治体に発生する行政需要に対し、原発事業者にも一定の税負担を求める
という仕組みです。
なぜ自治体によって仕組みが違うのか
核燃料税には、全国共通の税率や課税方法があるわけではありません。
法定外税ですから、それぞれの自治体が地域事情に応じて制度を設計できます。
代表的なのが、原子炉に挿入した核燃料を基準として課税する方法です。
一方、原子炉の熱出力を基準に課税する方法もあります。
さらに使用済み核燃料の保管そのものを課税対象にする自治体も出てきました。
青森県ではさらに対象が広く、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理に伴って生じるガラス固化体の管理なども含め、複数の原子力関連活動を課税対象としています。
同じ「核燃料税」と呼ばれるものでも、その中身は自治体によってかなり違うのです。
原発が止まると税収もなくなるのか
ここが核燃料税を理解する重要なポイントです。
以前は、原子炉へ入れた核燃料などを基準に課税する仕組みが中心でした。
ところが、2011年の東日本大震災後、多くの原発が停止しました。
原発の運転を前提とする課税方式だけでは、原発が停止すると自治体の税収も大きく減ってしまいます。
そこで広がったのが「出力割」です。
原子炉の熱出力などを基準に税額を計算することで、実際の発電量や運転状況だけに左右されにくい税制にします。
これによって、原発が停止している期間でも一定の税収を確保できるようになります。
自治体から見れば、財政収入を安定させる仕組みといえます。
使用済み核燃料にも税金がかかる
最近さらに注目されているのが、使用済み核燃料への課税です。
原発で使用した核燃料は、使用後すぐに原発の外へ運び出されるとは限りません。
使用済み核燃料を再処理する施設などへ搬出する必要がありますが、核燃料サイクルの整備が計画通り進んでいないため、原発敷地内で長期間保管されるケースがあります。
そこで、
長期間保管されている使用済み核燃料そのものに課税する
という仕組みが登場しています。
宮城県女川町は2026年6月、東北電力女川原子力発電所に保管されている使用済み核燃料を対象とする課税を始めました。
使用済みとなってから5年を経過した核燃料が対象で、年間3億円弱の税収を見込んでいます。
なぜ使用済み核燃料に課税するのか
この課税には二つの意味があります。
一つは財源確保です。
使用済み核燃料が地域内に存在する以上、自治体には防災や安全対策などの行政需要が発生します。
その費用の一部を原発事業者に負担してもらう考え方です。
もう一つは、使用済み核燃料の搬出を促すことです。
保管期間が長くなるほど税負担が発生する仕組みにすれば、事業者には早期搬出を進める経済的な動機が生まれます。
つまり、
税収を確保する
使用済み核燃料の搬出を促す
という二つの目的を同時に持つ税制になっています。
福井県では税収が約192億円へ
核燃料税の存在感が特に大きいのが福井県です。
福井県では、原子炉に入れた核燃料、原子炉の熱出力、長期間保管されている使用済み燃料などを課税対象としています。
2026年11月には税率を引き上げる予定です。
増税後の税収は約192億円と、従来より約25%増える見込みです。
税収は避難道路などの安全対策だけではなく、子育て支援策への活用も想定されています。
原発関連税収が、原子力政策だけではなく一般的な行政サービスを支える財源になっている点が重要です。
核燃料税は使い道が自由な場合が多い
税金には大きく分けて「普通税」と「目的税」があります。
目的税は、あらかじめ使い道が決められている税です。
これに対して普通税は、基本的に使途が限定されません。
核燃料税は、多くの自治体で普通税として導入されています。
佐賀県玄海町のように使途を限定する目的税としているケースもありますが、多くの自治体では一般財源として利用できます。
そのため、防災対策だけでなく、
子育て支援
高齢者福祉
物価高対策
道路などのインフラ整備
といった幅広い行政サービスに使うことが可能です。
人口減少によって税収確保が難しくなる自治体にとって、この自由度は非常に大きな意味を持ちます。
原発立地自治体ほど依存度が高くなる可能性
核燃料税が増えれば、自治体財政は安定します。
一方で別の問題も生まれます。
原発関連税収への依存です。
例えば青森県では、2026年度予算で原子力関連の税収が267億円に達し、県税収入の約16%を占めます。
法人関係税に迫る規模です。
これほど大きな財源になると、自治体にとって原子力関連施設は単なる産業施設ではなく、財政そのものを支える存在になります。
人口が減少し、通常の住民税や地域企業からの税収を増やすことが難しい自治体ほど、その傾向は強くなる可能性があります。
核燃料サイクルの遅れが税収を増やすという矛盾
ここには難しい構造があります。
本来、使用済み核燃料は適切に搬出され、再処理などが進むことが望まれます。
ところが、搬出が遅れれば原発敷地内に使用済み核燃料が残ります。
使用済み核燃料への課税制度があれば、その間、自治体には税収が入ります。
つまり、
使用済み核燃料は早く搬出してほしい
しかし残っていれば税収になる
という二つの方向が同時に存在します。
税金には単なる財源調達だけではなく、人や企業の行動を変える機能があります。
核燃料税は、そのことが非常によく分かる税金でもあります。
結論
核燃料税とは、原発事業者などに対して原発立地自治体が独自に課す法定外税です。
かつては原子炉へ投入する核燃料などへの課税が中心でしたが、現在は原子炉の出力や長期間保管される使用済み核燃料などへ課税対象が広がっています。
その結果、原発が停止していても一定の税収を確保できる仕組みが整ってきました。
人口減少が進む地方自治体にとって、数十億円、場合によっては100億円を超える税収は非常に大きな存在です。
しかも普通税であれば、防災だけでなく子育てや福祉などにも使えます。
一方で、核燃料税が増えるほど自治体財政が原発事業者へ依存するという側面もあります。
さらに使用済み核燃料への課税では、早期搬出を促したい一方、保管が続けば税収が入るという複雑な関係も生まれます。
核燃料税を見るときは、単に「原発にかかる税金」と考えるだけでは十分ではありません。
原発立地地域の安全対策、地方財政、人口減少、そして核燃料サイクルまでがつながった税制として見る必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日 朝刊 原発の自治体税収6割増 核燃料税導入・引き上げ
日本経済新聞 2026年9月5日 朝刊 核燃料税 自治体独自の法定外税