私たちの年金積立金を運用しているGPIFは、世界最大級の機関投資家です。
2026年6月末の運用資産額は約318兆円に達し、2001年度の運用開始以降の収益率は平均年率4.95%、累積収益額は221兆円に上ります。
これほど巨大な資金を運用しているGPIFですが、その基本的な考え方は意外なほどシンプルです。
世界に分散すること、長期で運用すること、低コストのインデックス運用を中心にすること、配当や利子を再投資すること、そして定期的に資産配分を元に戻すことです。
これらは個人の資産形成にも応用できます。
ただし、GPIFと個人では運用目的や運用期間が違います。そのため、GPIFの資産配分をそのまままねればよいわけではありません。
GPIFは4つの資産に分散している
GPIFの基本資産配分は、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券をそれぞれ25%ずつ保有する形になっています。
つまり、
国内株式25%
国内債券25%
外国株式25%
外国債券25%
という構成です。
株式だけではありません。
国内だけでもありません。
値動きの異なる資産を組み合わせることで、一定の収益を目指しながらリスクを抑えています。
資産運用では、どの商品を買うかに目が向きがちです。
しかし長期運用では、どの商品を選ぶか以上に、株式や債券をどの割合で保有するかという資産配分が重要になります。
世界に分散して長期投資する
GPIFから個人が最初に学べるのが、世界に分散して長期投資するという考え方です。
日本株だけを持っていれば、日本経済や日本企業の業績に資産全体が左右されます。
一方、外国株式を組み合わせれば、米国や欧州など世界経済の成長も取り込めます。
さらに債券を組み合わせることで、株式市場が大きく下落した場合の値動きを一定程度抑えることができます。
重要なのは、短期間の値上がりを狙うのではなく、異なる資産を長期間保有することです。
GPIFが2001年度以降、平均年率4.95%の収益率を積み上げてきたことも、長期投資の意味を考える材料になります。
インデックス運用を中心にしている
もう一つ注目したいのが、GPIFがインデックス運用を中心としていることです。
インデックス運用とは、日経平均株価やTOPIXなどの指数に連動する運用を目指す方法です。
GPIFでは、国内株式の9割強、外国株式の8割強が指数連動型の運用となっています。
一方、運用担当者が銘柄を選び、市場平均を上回ることを目指す方法がアクティブ運用です。
一見すると、専門家に銘柄を選んでもらった方が高い収益を得られそうに思えます。
ところが、市場平均を長期間にわたって上回り続けることは簡単ではありません。
GPIFの2025年度までの10年間のアクティブ運用でも、対象指数に対して国内株式は年率マイナス0.09%、外国株式はマイナス1.14%でした。
しかも、これは運用経費を差し引く前の数字です。
膨大な情報と専門家を抱えるGPIFでも、市場平均を継続的に上回ることは難しいのです。
個人投資家が低コストのインデックス投資を資産形成の中心に据える合理性も、ここから見えてきます。
配当や利子を再投資する
長期投資では、値上がり益だけを見てはいけません。
株式から受け取る配当や債券から受け取る利子も重要です。
GPIFの累積収益のうち、配当や利子などのインカムゲインは63兆円に上ります。
そしてGPIFでは、こうした収益を再び運用に回します。
ここで働くのが複利です。
100万円を年5%で運用した場合、単純に毎年5万円を受け取って使ってしまえば元本は100万円のままです。
しかし収益を再投資すれば、翌年は105万円に対して収益が発生します。
その次はさらに増えた金額に対して収益が発生します。
運用期間が長くなるほど、この違いは大きくなります。
若い時期の資産形成では、分配金を受け取ることより、運用収益を再投資して資産を成長させる考え方が重要になります。
リバランスで増えすぎた資産を調整する
GPIFが実践している重要な仕組みがリバランスです。
例えば、最初に株式50%、債券50%で運用を始めたとします。
その後、株価が大幅に上昇して、
株式70%
債券30%
になったとします。
資産全体は増えていますから、一見すると喜ばしい状態です。
しかし、当初より株式の割合が高くなっているため、株価が急落したときの損失も大きくなっています。
そこで株式の一部を売却して債券などを購入し、当初の50%ずつに戻します。
これがリバランスです。
資産が値上がりすると、もっと上がるのではないかと考えて保有を続けたくなります。
しかしリバランスでは、値上がりして比率が高くなった資産を機械的に減らします。
感情に左右されずリスクを管理する仕組みともいえます。
GPIFの25%ずつをそのまままねる必要はない
ここが非常に重要です。
GPIFから運用の原則を学ぶことはできますが、GPIFと同じ資産配分にする必要はありません。
GPIFは公的年金という巨大な資金を安定的に運用することが目的です。
個人の場合は、年齢、収入、保有資産、家族構成、住宅ローン、退職時期、年金収入などによって適切な資産配分が変わります。
若い人であれば、運用期間を30年、40年と確保できる可能性があります。
一時的に株価が大きく下落しても、回復を待つ時間があります。
一方、退職後に生活費として資産を取り崩す人の場合、同じようには考えられません。
株価が大幅に下落したときに生活費のため株式を売却しなければならなくなる可能性があるからです。
株式比率は年齢だけでは決められない
昔から知られている考え方に、
100から年齢を引いた数字を株式比率にする
というものがあります。
例えば60歳なら、
100マイナス60イコール40
となり、株式40%、それ以外60%という考え方です。
最近では長寿化やインフレを背景に、
110から年齢を引く
120から年齢を引く
という考え方もあります。
しかし、これも絶対的なルールではありません。
大切なのは、自分がどこまでの下落に耐えられるかです。
株式比率を高めれば期待できる収益率は上がりますが、その分だけ価格変動も大きくなります。
高い期待リターンには大きな下落が伴う
GPIFが示す長期的な期待リターンでは、成長型経済移行ケースの場合、国内株式が年7.0%、外国株式が年7.6%などとなっています。
国内株式と外国株式を50%ずつ保有すれば、期待リターンは年7.3%になります。
非常に魅力的に見える数字です。
しかし、期待リターンだけを見てはいけません。
株式100%で運用すれば、金融危機のような局面では資産が大幅に減少する可能性があります。
2007年10月から2009年2月までの金融危機時には、株式100%の場合、6割弱下落しました。
1000万円が一時的に400万円台になる可能性があるということです。
その状況でも売却せずに持ち続けられるか。
資産配分を考えるときには、この視点が欠かせません。
自分の最大許容損失から逆算する
資産配分を考えるとき、
何%の収益が欲しいか
だけから考える方法には問題があります。
むしろ、
自分は最大どのくらいの損失なら耐えられるか
から逆算する方が現実的です。
例えば1000万円を運用するとします。
一時的に300万円減って700万円になっても保有を続けられる人と、100万円減っただけでも不安になって売却してしまう人では、適切な株式比率は違います。
投資で本当に怖いのは、一時的な値下がりそのものだけではありません。
大きく値下がりしたところで怖くなり、運用をやめてしまうことです。
だからこそ、自分が耐えられる範囲にリスクを抑える必要があります。
個人がGPIFから学ぶべきなのは商品ではなく仕組み
GPIFの運用から個人が学ぶべきなのは、国内株式25%、国内債券25%、外国株式25%、外国債券25%という数字そのものではありません。
重要なのは、その背後にある仕組みです。
世界に分散する。
長期で保有する。
低コストのインデックス運用を中心にする。
配当や利子を再投資する。
資産配分が崩れればリバランスする。
そして、自分が耐えられるリスクの範囲で資産配分を決める。
この原則は、NISAなどを利用して資産形成をする個人にも十分応用できます。
投資では、将来最も値上がりする商品を当てようとすると難しくなります。
一方、自分でコントロールできるものがあります。
分散すること、コストを抑えること、長期間続けること、リスクを取りすぎないことです。
GPIFの運用は、資産運用では未来を当てることよりも、長く続けられる仕組みを作ることが重要だと教えてくれます。
結論
GPIFは2026年6月末時点で約318兆円を運用し、2001年度以降の平均収益率は年4.95%、累積収益額は221兆円に達しています。
その運用の基本は決して複雑ではありません。
世界への分散投資、長期運用、インデックス運用、配当や利子の再投資、リバランスという基本を徹底しています。
個人投資家も、この原則から多くを学ぶことができます。
ただし、GPIFの資産配分をそのままコピーする必要はありません。
GPIFと個人では、運用目的も運用期間も異なるからです。
若い人、退職直前の人、年金生活に入った人では、取れるリスクは違います。
したがって重要なのは、GPIFと同じ商品を持つことではなく、GPIFのように運用のルールを持つことです。
どのくらい増やしたいかだけではなく、どのくらい減っても運用を続けられるか。
そこから自分に合った株式と安全資産の割合を考えることが、長期の資産形成では重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 GPIFにみる投資の原則 株式比率、年代で変える