持分会社の論点に続き、本稿では譲渡制限付株式(RS)における死亡時の課税関係を整理します。
RSは近年広く導入されている報酬制度ですが、死亡時の課税関係については判断が分かれやすく、実務上の誤りも少なくありません。
本稿では、「どのような場合にどの課税が生じるのか」という分岐構造を明確にします。
RSの基本構造
譲渡制限付株式とは、
- 一定期間の譲渡制限が付され
- 条件を満たすことで制限が解除される
株式報酬制度です。
通常は、
- 譲渡制限が解除された時点で
- その時価相当額が所得として課税
されます。
このときの所得区分は、
- 給与所得
または - 退職所得
となるのが一般的です。
死亡時に問題となるポイント
RSにおいて死亡が関係するのは、
譲渡制限が解除される前に死亡した場合
です。
この場合、
- 課税されるのか
- 誰に課税されるのか
- 所得区分は何か
が問題となります。
ここでの判断は、「条件が確定しているかどうか」によって大きく分かれます。
ケース① 条件が確定している場合
死亡時点で、
- 譲渡制限が解除されることが確定している
- 無償取得(没収)されないことが確定している
場合には、
死亡時点で経済的利益が確定した
と判断されます。
この場合、
- 死亡した本人に帰属
- 所得区分は退職所得
となります。
つまり、
死亡=退職とみなして課税
される構造です。
このケースでは、源泉徴収の対象となる点に注意が必要です。
ケース② 条件が確定していない場合
一方、死亡時点で、
- 譲渡制限解除の条件が未確定
- 無償取得の可能性が残っている
場合には、状況は大きく変わります。
この場合、
死亡時点では経済的利益が確定していない
と判断されます。
したがって、
- 死亡した本人には課税されない
- その後の状況に応じて課税関係が決まる
ことになります。
具体的には、
- 相続税の対象となる場合
- 遺族の一時所得となる場合
などに分かれます。
判断の分岐点
実務上の最大のポイントは、次の一点です。
死亡時点で「無償取得されないこと」が確定しているか
この判断によって、
- 課税されるタイミング
- 課税される主体
- 所得区分
がすべて変わります。
したがって、契約内容の確認が不可欠です。
よくある誤解
実務で多い誤解として、次のようなものがあります。
- 死亡すればすべて相続税になる
- 株式だから譲渡所得になる
- 実際に売却していないので課税されない
いずれも誤りです。
RSは「役務提供の対価」であるため、基本的には給与・退職所得として扱われます。
実務上の確認ポイント
RSの死亡時課税を正しく判断するためには、次の点を確認します。
- 契約書の内容(解除条件・没収条件)
- 譲渡制限解除のタイミング
- 退職との関係
- 取締役会等の決議の有無
特に、
条件が確定しているかどうかは契約で決まる
ため、条文の読み込みが不可欠です。
税務調査の視点
税務調査では、次の点が確認されます。
- 死亡時点で条件は確定していたか
- 課税区分の判定は適切か
- 源泉徴収が必要なケースで実施されているか
RSは制度として比較的新しいため、処理の誤りは重点的にチェックされる傾向があります。
結論
譲渡制限付株式の死亡時課税は、次のように整理できます。
- 条件確定あり
→ 本人の退職所得 - 条件確定なし
→ 相続税または遺族の所得
この分岐を正しく理解するためには、
「いつ経済的利益が確定するか」
という視点が不可欠です。
この考え方は、これまで扱ってきた「権利確定主義」とも共通しており、税務全体に通じる重要な判断軸となります。
参考
東京税理士会 全国統一研修会配布資料(令和8年)「源泉所得税に関する近年の裁決事例と相談事例」