EBPMとは何か 税制優遇を続けるかどうかをデータで判断する仕組み編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

政府が企業の設備投資を増やすため、1000億円規模の税制優遇を実施したとします。

制度を利用した企業が多ければ、一見すると成功した政策のように見えます。

しかし、本当に知りたいのは利用件数ではありません。

税制優遇があったから設備投資が増えたのか。

1000億円の税収減に見合う効果があったのか。

もっと少ない財政負担で同じ効果を得る方法はなかったのか。

こうしたことを客観的なデータや分析に基づいて判断しようとする考え方が「EBPM」です。

日本版DOGEで租税特別措置を本格的に見直すのであれば、制度を所管する省庁の説明だけではなく、政策効果をデータで検証することが重要になります。

EBPMとは何か

EBPMとは、Evidence Based Policy Makingの略です。

日本語では「証拠に基づく政策立案」などと呼ばれます。

簡単にいえば、

経験や勘だけで政策を決めるのではなく、客観的なデータや分析を使って政策を考える

という考え方です。

例えば企業の設備投資を増やしたいとします。

そこで、

企業を減税すれば投資が増えるはずだ

と考えるだけでは十分ではありません。

実際に制度を導入した後、

設備投資は増えたのか

減税が原因だったのか

どれくらい増えたのか

財政負担に見合う効果だったのか

をデータで確認します。

エビデンスとは何か

EBPMのEはEvidenceです。

エビデンスとは、政策判断の根拠となる客観的な証拠やデータを意味します。

税制優遇であれば、

制度を利用した企業数

適用額

税収減額

設備投資額

研究開発費

賃金

雇用

生産性

など、さまざまなデータが考えられます。

ただし数字があれば、それだけでエビデンスになるわけではありません。

その数字から政策と結果の関係をどこまで説明できるかが重要です。

利用件数だけではエビデンスとして不十分

例えば設備投資減税を1万社が利用したとします。

これは制度の利用状況を知るためには重要なデータです。

しかし、

1万社が利用したから政策は成功した

とは言えません。

1万社すべてが、減税がなくても同じ設備投資をしていた可能性があるからです。

制度の利用件数は、

どれだけ使われたか

を示します。

政策効果は、

制度によって何が変わったか

を示します。

EBPMでは、この二つを区別する必要があります。

政策目標を明確にする

政策効果を測るには、そもそも何を実現するための制度なのかを明確にしなければなりません。

例えば、

企業の設備投資を促進する

というだけでは少し曖昧です。

より具体的に、

対象企業の設備投資額を増やす

生産性を高める

省力化設備の導入を促す

といった形で目標を設定します。

目標が曖昧なままだと、後から政策が成功したのか失敗したのか判断できません。

どのような結果になっても、

一定の効果があった

と説明できてしまうからです。

成果指標とは何か

政策目標を設定したら、その達成度を測る指標が必要になります。

これが成果指標です。

例えば設備投資を促す税制なら、

対象企業の設備投資額

設備投資を実施した企業数

労働生産性

売上高

付加価値額

などが候補になります。

賃上げを促す税制なら、

給与総額

一人当たり賃金

継続的な基本給の上昇

などを見ることが考えられます。

重要なのは、制度を作った後に都合のよい数字を探すのではなく、制度を始める段階から何を成果として測るのかを考えておくことです。

政策の前後を比べるだけでは足りない

例えば税制優遇を導入した後、企業の設備投資が10パーセント増えたとします。

それだけを見ると政策が成功したように見えます。

しかし同じ時期に景気が大きく回復していたかもしれません。

人手不足によって自動化投資が急増していた可能性もあります。

金利低下によって企業が資金を借りやすくなっていたかもしれません。

つまり、

政策実施前より増えた

というだけでは、その増加が政策によるものなのか分かりません。

EBPMでは、こうした他の要因をできるだけ切り分けることが重要になります。

政策がなかった場合を考える

政策効果を測るときに重要なのが、

その政策がなかったらどうなっていたか

という考え方です。

例えば税制優遇を利用した企業の設備投資が1000億円増えたとします。

しかし減税がなくても景気回復などによって800億円増えていたと推計できるなら、税制優遇による追加的な効果は200億円だった可能性があります。

この200億円を生み出すために政府が500億円の税収を失っていたとすれば、

その政策は効率的だったのか

という新しい問題が出てきます。

EBPMでは、政策を実施した後の数字を見るだけではなく、政策がなかった場合との比較を重視します。

政策効果と費用を比べる

効果が確認できた政策だからといって、必ず続けるべきとは限りません。

例えば1000億円の税収減によって設備投資が増えたとします。

政策効果がゼロではありません。

しかし同じ設備投資増加を、500億円の補助金で実現できる方法があったとしたらどうでしょうか。

あるいは別の税制に変更すれば、300億円の税収減で同程度の効果を得られるかもしれません。

政策評価では、

効果があるか

だけではなく、

その効果をどれだけの費用で生み出したか

を見る必要があります。

限られた財源を効率的に使うためです。

EBPMは政策を廃止するためだけではない

EBPMというと、

効果のない政策を見つけて削る仕組み

と思われるかもしれません。

しかし本来の目的は、それだけではありません。

データによって高い政策効果が確認できれば、

この制度は継続する価値がある

という根拠にもなります。

さらに、

対象企業を絞った方が効果が高い

税額控除率を変更した方が効率的だ

といった制度改善にも使えます。

EBPMは政策を減らすための考え方ではなく、政策をより効果的にするための考え方です。

税制優遇でEBPMが重要な理由

税制優遇では政府から企業へ直接お金を支払わないため、財政負担が見えにくい面があります。

補助金1000億円なら、予算上1000億円の支出が見えます。

一方、税制優遇によって1000億円の税収を失っていても、

政府が1000億円を使った

という感覚は弱くなりやすくなります。

しかし財政への影響があることに変わりはありません。

だからこそ、

どれだけ税収を失ったのか

その結果、何が変わったのか

をデータで確認する必要があります。

日本版DOGEとEBPMの関係

参考記事では、日本版DOGEによって政策効果の乏しい減税策や補助金を見直す方針が示されています。

この「政策効果の乏しい」という判断をするためには、何らかの客観的な基準が必要です。

利用件数が少ないから廃止するだけでは不十分です。

利用件数が多い制度でも政策効果が小さい可能性があります。

反対に利用件数が少なくても、重要な政策効果を生んでいる制度があるかもしれません。

そこで必要になるのがEBPMです。

制度ごとに政策目標と成果指標を設定し、税収減と実際の効果を比較することで、継続すべき制度と見直すべき制度を判断します。

大型租特ほどEBPMが重要になる

参考記事では、法人税関係の租税特別措置による減収額は2024年度に約3.2兆円とされています。

大きな財源を確保しようとすれば、この中にある利用規模の大きな制度についても検証する必要があります。

しかし大型租特は多くの企業が利用しているため、単純に廃止することはできません。

そこで、

税制優遇によって企業の行動は本当に変わったのか

税収減に見合う経済効果があるのか

制度を縮小しても同じ効果を得られないか

といった検証が必要になります。

大きな制度ほど、印象ではなくエビデンスに基づいて判断する重要性が高まります。

結論

EBPMとは、経験や慣例だけではなく、客観的なデータや分析に基づいて政策を立案し、評価する考え方です。

税制優遇を評価するときには、

何社が利用したか

いくら減税したか

だけでは十分ではありません。

重要なのは、その税制優遇によって企業の設備投資や研究開発、賃上げなどがどれだけ追加的に増えたのかです。

さらに、その効果を生み出すためにどれだけの税収を失ったのかを比較する必要があります。

日本版DOGEが本格的な租特改革につながるかどうかは、各省庁に自主点検を求めるだけでなく、共通の成果指標とデータを使って政策効果を検証できるかにかかっています。

制度を続けてきたから続けるのではなく、効果が確認できるから続ける。

効果が低ければ廃止するだけでなく、より効果的な制度へ作り直す。

EBPMは、日本版DOGEを単なる歳出削減ではなく、政策の質を高める改革にするための重要な考え方なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」

タイトルとURLをコピーしました