介護人材が足りないと聞くと、最初に思い浮かぶ対策は「介護職員を増やすこと」ではないでしょうか。
もちろん、新しい人材の採用は必要です。
しかし、働き手となる人口が減っていくなかで、必要な人数をすべて新規採用だけで確保することには限界があります。
そこで重要になるのが「タスクシフト」という考え方です。
タスクシフトとは、ある職種が担当している仕事の一部を、別の職種や人材へ移すことです。
介護福祉士などの専門職が清掃や配膳、備品整理などまで幅広く担当しているのであれば、その一部を介護助手やスポットワーカーなどへ移します。
専門職を増やすだけでなく、専門職の時間の使い方を変えることで人手不足に対応する考え方です。
今回は、介護現場のタスクシフトとは何かを整理します。
タスクシフトとは何か
タスクシフトの「タスク」は仕事や業務、「シフト」は移すという意味です。
つまり、ある人が担当していた仕事を別の人へ移すことです。
例えば、介護福祉士が利用者への介護に加えて、施設内の清掃や食事の配膳、備品補充なども担当していたとします。
このうち、介護福祉士でなくても担当できる業務を介護助手などへ移します。
すると介護福祉士は、その時間を利用者への直接的なケアに使えるようになります。
介護福祉士の人数は増えていません。
それでも、専門職が専門業務へ使える時間は増えます。
これがタスクシフトの基本的な考え方です。
業務切り分けとの違いは何か
前回取り上げた業務切り分けとタスクシフトは密接に関係しています。
業務切り分けは、介護現場にある仕事を細かく分けて整理することです。
一方、タスクシフトは、整理した仕事を実際に別の人へ移すことです。
例えば、
清掃
配膳
備品補充
利用者への直接的な介護
記録
などに業務を分けます。
ここまでが業務切り分けです。
そのうえで、清掃や配膳を介護助手へ移す。
備品補充をスポットワーカーへ移す。
こうして担当者を変えるのがタスクシフトです。
つまり、
仕事を分ける
仕事を移す
という二つの段階があります。
専門職に残す仕事とは何か
タスクシフトを進めるからといって、介護福祉士の仕事をできるだけ減らせばよいわけではありません。
重要なのは、専門職が担うべき仕事を明確にすることです。
介護では、利用者一人ひとりの身体状況や生活状況を踏まえた判断が必要になります。
同じように見える介助でも、利用者によって注意する点は違います。
その日の体調によっても対応は変わります。
利用者との継続的な関係が重要になる場面もあります。
こうした専門性や継続性を必要とする仕事は、介護職員などが中心となって担う必要があります。
タスクシフトの目的は専門職の役割を小さくすることではありません。
むしろ、専門職が専門性を発揮できる仕事へ集中させることです。
他の人へ移せる仕事を探す
介護施設には、専門職以外でも担当できる可能性のある仕事があります。
例えば、
施設内の清掃
食事の配膳や下膳
洗濯物の整理
備品の補充
物品の運搬
ベッド周辺の整理
などです。
もちろん、施設や利用者の状況によって仕事内容は異なります。
そのため、「この仕事なら必ず誰でもできる」と一律に決めることはできません。
それでも、現在介護福祉士が行っている業務を一つずつ確認すれば、「これは別の人でも担当できるのではないか」という仕事が見つかる可能性があります。
その仕事を介護助手などへ移すことで、専門職の時間を生み出します。
スポットワーカーへのタスクシフトも考えられる
参考記事では、介護分野でスポットワークの利用が広がっていることが紹介されています。
ただし、介護では初めて来た人へ何でも任せることはできません。
利用者ごとの身体状況を理解する必要がある仕事や、継続的な信頼関係が重要な仕事があるからです。
そこでタスクシフトの考え方が役立ちます。
例えば、
夕食時の配膳
決められた場所の清掃
備品の整理
など、比較的標準化しやすい仕事をスポットワーカーへ移します。
その間、常勤の介護職員は利用者への専門的なケアに集中します。
スポットワーカーを介護職員の代わりとして使うのではなく、介護職員の時間を生み出す人材として使うわけです。
人手不足を人数ではなく時間で考える
タスクシフトの重要な点は、人手不足を見る単位が変わることです。
例えば、ある施設で「介護職員が2人足りない」と考えていたとします。
しかし実際の業務を調べると、介護職員が勤務時間の一部を清掃や配膳などに使っているかもしれません。
その業務を介護助手などへ移せば、介護職員を2人採用しなくても、必要な介護時間の一部を確保できる可能性があります。
つまり、
何人足りないのか
だけではなく、
何時間分の専門業務が不足しているのか
と考えるわけです。
人手不足を人数から時間へ置き換えると、採用以外の解決策が見えてきます。
タスクシフトは専門職の負担軽減にもなる
介護職員の離職を考えるうえでもタスクシフトは重要です。
介護の仕事では身体的な負担や勤務時間など、様々な理由が離職につながります。
さらに、専門職でありながら周辺業務に追われ、「利用者と向き合う時間がない」と感じることも仕事への不満につながる可能性があります。
介護助手などへ周辺業務を移し、介護職員が専門的な仕事へ集中できれば、仕事の負担だけでなく働きがいにも影響する可能性があります。
人手不足対策というと新しい人を採用する政策に目が向きますが、現在働いている人に辞めてもらわないことも同じくらい重要です。
タスクシフトは定着対策としての意味も持ちます。
タスクシフトには教育が必要になる
仕事を別の人へ移すだけでは、タスクシフトは成功しません。
新しく仕事を担当する人が、安全に業務を行えるようにする必要があります。
例えば配膳であっても、利用者によって食事内容や注意点が異なる場合があります。
清掃でも、感染対策について知識が必要になることがあります。
そのため、
業務手順を明確にする
必要な研修を行う
担当できる範囲を決める
分からないときの相談先を決める
といった仕組みが必要です。
「専門職から仕事を外したから、あとは任せる」というものではありません。
タスクシフトと教育はセットで考える必要があります。
情報共有も欠かせない
仕事を複数の職種へ分けると、情報も分かれます。
例えば、配膳を担当した介護助手が、ある利用者について「今日はほとんど食事をしていない」と気づいたとします。
その情報は介護職員にとって重要です。
しかし、役割を分けたことで情報まで分断されてしまえば、利用者の変化を見落とす可能性があります。
そのためタスクシフトでは、
誰が何を担当するのか
だけでなく、
そこで得た情報を誰へ伝えるのか
まで設計する必要があります。
仕事は分けても、利用者に関する情報はつなげることが重要です。
人材確保策を組み合わせる
介護人材不足をタスクシフトだけで解決することはできません。
新しい介護職員を育成する必要があります。
外国人介護人材の活用もあります。
潜在介護福祉士に復職してもらうことも重要です。
スポットワークや介護助手の活用も考えられます。
そして、現在いる専門職の仕事を整理して、他の人へ移せる業務をタスクシフトします。
つまり、
人を増やす
辞める人を減らす
離職した人に戻ってもらう
専門職の仕事を整理する
という複数の対策を組み合わせる必要があります。
タスクシフトは、その中の一つの重要な手段です。
結論
介護現場のタスクシフトとは、介護福祉士などの専門職が担当している仕事の一部を、介護助手やスポットワーカーなど別の人材へ移す考え方です。
重要なのは、単純に専門職の仕事を減らすことではありません。
清掃、配膳、備品整理など、他の人材へ移せる仕事を整理し、介護福祉士などが専門性を必要とするケアへ集中できるようにすることです。
これによって、専門職の人数そのものを増やさなくても、専門的な介護に使える時間を増やせる可能性があります。
一方で、仕事を移すには業務手順の標準化や教育、情報共有が必要です。
誰にでも何でも任せることがタスクシフトではありません。
誰が担当するのが最も適切なのかを考え、仕事を組み直すことが本質です。
介護人材不足を「あと何人必要か」という人数だけで考えるのではなく、「専門職の限られた時間を何に使うのか」という視点から考える。
タスクシフトは、人を増やすだけでは解決できない介護人材不足に対し、仕事そのものの設計を変えることで対応する考え方なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊 離職した介護人材の復職
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊 介護、スポットワーク拡大 人手不足補う