自分が亡くなった後、残した財産はどうなるのでしょうか。
配偶者や子どもなどの相続人がいれば、通常は相続によって財産が引き継がれます。
しかし、少子高齢化や単身世帯の増加によって、財産を引き継ぐ家族がいない人も増えています。
そこで選択肢の一つとして注目されているのが公益信託です。
公益信託を利用すると、自分の財産を教育、福祉、地域振興、環境保全など、社会のために役立てる仕組みをつくることができます。
公益信託とは何か
信託とは、自分の財産を信頼できる人や組織に託し、あらかじめ決めた目的に沿って管理や活用をしてもらう仕組みです。
財産を託す人を委託者、財産を託されて管理する人や組織を受託者といいます。
このうち、社会全体の利益につながる公益目的のために財産を活用するものが公益信託です。
例えば、自分が生まれ育った地域の子どもたちを支援したいと考えたとします。
財産を単純に相続させるのではなく、地域の子どもたちへの奨学金などに継続的に使う仕組みをつくることが考えられます。
つまり公益信託は、財産そのものを残すだけではなく、自分の意思とともに財産を社会へ引き継ぐ仕組みと考えることができます。
相続人がいないと財産はどうなるのか
相続人がいない人が亡くなった場合、財産が自動的に地域や社会のために使われるわけではありません。
相続財産の清算など法律上の手続きを経て、最終的に残った財産が国庫に帰属する場合があります。
本人が生前に、
地域のために使ってほしい
子どもの教育に役立ててほしい
自然環境を守るために使ってほしい
と考えていたとしても、その意思を実現する仕組みを準備していなければ、その通りになるとは限りません。
だからこそ、生前に自分の財産をどのように残すのかを考えておくことが重要になります。
現金以外の財産をどうするのか
財産というと預貯金や株式を思い浮かべるかもしれません。
しかし、高齢者が保有している財産には自宅、土地、山林などの不動産もあります。
こうした財産を、
生まれ育った地域のために残したい
自然を守るために使ってほしい
地域活動の拠点として活用してほしい
と考える人もいます。
ところが、不動産は現金より扱いが難しい財産です。
建物には修繕費や固定資産税などがかかる場合があります。山林であれば境界や管理の問題もあります。
そのため、寄付を受ける側が不動産そのものでは受け取らず、売却して現金にしてから寄付してほしいと求める場合があります。
財産を渡せば終わりではなく、その後誰が管理し、どのように活用するのかまで考える必要があるのです。
公益信託の制度は大きく変わった
公益信託を巡る制度は2026年4月から大きく変わりました。
新しい制度では、金銭だけでなく、不動産など幅広い財産を公益信託の信託財産として活用することが可能になっています。
さらに受託者になれる主体の範囲も広がりました。
これによって、
土地を地域活動に役立てる
建物を公益活動の拠点として活用する
山林を環境保全につなげる
といった様々な設計が考えやすくなります。
公益信託は、資産を持つ個人と、その資産を必要とする社会を結びつける仕組みとして活用の余地が広がったといえます。
制度があっても簡単には利用できない
もっとも、公益信託という制度が整備されたからといって、財産を簡単に公益目的へ移せるわけではありません。
特に不動産を含む場合には、多くの問題を確認する必要があります。
例えば、不動産の権利関係や状態を確認しなければなりません。
相続人になる可能性のある人がいれば、その関係も整理する必要があります。
さらに税務上の取り扱いや信託の設計、誰を受託者にするのかといった問題もあります。
法律、税務、不動産、金融、公益活動など複数分野の知識が必要になるのです。
一つの専門家だけですべてを解決することが難しいケースもあります。
相談する場所によって答えが変わる問題
もう一つの課題が相談窓口です。
金融機関へ相談すれば金融や資産管理を中心とした提案になりやすく、弁護士などの専門家へ相談すれば法律上の手続きが中心になるでしょう。
NPOや地域財団へ相談すれば、財産をどのような活動へ生かすのかという話が中心になるかもしれません。
それぞれ専門性が異なるためです。
しかし、財産を残す本人からすれば、
どこへ相談すればよいのか
という段階から分からないことがあります。
本来は相談する窓口によって選択肢が決まるのではなく、本人の希望から最適な方法を考えることが望ましいでしょう。
そのためには、金融機関、弁護士や税理士などの専門家、NPO、地域財団などが連携する仕組みが重要になります。
なぜ早めに相談した方がよいのか
公益信託や遺贈寄付について考えるのは、亡くなる直前でよいと思う人もいるかもしれません。
しかし、財産の活用方法を考えるには時間がかかります。
特に不動産がある場合、
誰に託すのか
どのような目的に使うのか
管理費用をどうするのか
税務上どのような問題があるのか
といった点を一つずつ整理しなければなりません。
さらに重要なのが、自分自身の判断能力です。
高齢になって認知機能が低下すると、自分の希望に沿った財産処分や契約を行うことが難しくなる可能性があります。
元気で判断力が十分にあるうちから、
自分の財産を誰に残したいのか
社会のために使うなら何に使ってほしいのか
ということを考え、専門家へ相談しておくことが重要です。
財産を残すことは意思を残すことでもある
これまで相続というと、家族へ財産を引き継ぐことが中心でした。
しかし、家族構成が変化すれば財産の残し方も変わります。
相続人がいない場合でも、自分の財産を社会へ残す方法があります。
公益信託はその選択肢の一つです。
自宅、土地、山林、預貯金などを単なる財産として終わらせるのではなく、自分が大切だと思う地域や活動へつなげることができます。
財産の承継を考えることは、自分のお金を誰に渡すのかを決めるだけではありません。
自分が人生で大切にしてきた価値観を、次の世代へどのように残すのかを考えることでもあるのです。
結論
公益信託とは、自分の財産を公益目的のために信託し、社会や地域のために活用してもらう仕組みです。
相続人がいない人であっても、自分の財産を教育、福祉、地域振興、環境保全などへ役立てる道があります。
2026年4月からの新しい制度では、不動産など幅広い財産を活用できる可能性が広がりました。
一方、不動産の管理、税務、法律関係、信託設計、受託者の選定など検討すべきことは少なくありません。
だからこそ重要なのは、財産をどうするかを人生の最後になってから考えるのではなく、判断力と時間に余裕があるうちから考え始めることです。
自分の財産をどこへ残すのか。
そして、その財産によって何を残したいのか。
公益信託は、相続という枠を超えて、自分の意思を社会へ引き継ぐための仕組みの一つといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月9日朝刊 公益信託、早めに相談