正社員と聞くと、
1日8時間働く
週5日出勤する
必要があれば残業する
会社の都合に合わせて働く
という姿をイメージする人は多いでしょう。
長い間、日本企業ではこうしたフルタイム正社員が会社の中心的な働き手になってきました。
育児や介護などでフルタイム勤務が難しくなった場合に、例外として時短勤務を利用するという考え方も一般的でした。
しかし、人手不足が深刻になる中で、この前提そのものが変わり始めています。
1日6時間働く正社員。
週4日働く正社員。
朝早く出勤して夕方早く帰る正社員。
勤務地を限定して働く正社員。
さまざまな働き方を組み合わせなければ、必要な人材を確保することが難しくなっているからです。
これからの企業には、働く時間の長さではなく、限られた時間の中でどのような成果を生み出したのかを見る考え方が、これまで以上に求められます。
従来型正社員とは何か
従来の日本企業では、正社員には幅広い働き方への対応が求められてきました。
例えば、
フルタイム勤務
残業
転勤
配置転換
職務変更
などです。
会社に長期間所属し、その時々で会社が必要とする仕事を担当する働き方です。
その代わり、企業は長期雇用や昇給、昇進、教育などを通じて社員のキャリアを支えてきました。
この仕組みの中では、
正社員であること
と、
会社が求める時間にフルタイムで働けること
が強く結び付いていました。
1日8時間週5日勤務は一つの働き方にすぎない
1日8時間、週5日勤務は広く定着した働き方です。
しかし、すべての仕事が必ずこの形でなければ成立しないわけではありません。
例えば、
1日6時間で週5日
1日8時間で週4日
始業時間を早める
始業時間を遅らせる
といった働き方も考えられます。
仕事の内容によっては、複数の勤務形態を組み合わせることもできます。
重要なのは、
全員を同じ時間に働かせること
ではなく、
必要な仕事を必要な人員で処理できること
です。
人手不足が前提を変える
企業がフルタイム勤務できる人だけを採用すると、採用対象は限定されます。
例えば、
午後5時までなら働ける人
週4日なら働ける人
1日6時間なら働ける人
は、能力があっても採用対象から外れる可能性があります。
人材が豊富な時代なら、
会社の勤務条件に合わせられる人を採用する
という方法でも人を集められたかもしれません。
しかし、人手不足が深刻になれば状況は変わります。
企業側が働く条件を柔軟にしなければ、必要な人材を確保できなくなります。
働けない人ではなく条件が合わない人
フルタイム勤務が難しい人を、
働けない人
と考えるのは適切ではありません。
例えば、
1日6時間なら働ける
午後4時までなら働ける
週4日なら働ける
という人はいます。
問題は仕事をする能力ではなく、企業が提示する勤務条件と生活上の条件が合っていないことです。
そこで企業側が勤務条件を変えれば、これまで採用できなかった人が働けるようになります。
人材不足の時代には、
働ける人がいない
だけではなく、
会社の条件では働けない人がいる
という視点が重要になります。
育児中の人材を活用できる
育児中の社員は、保育園への送り迎えなどによって勤務できる時間が限られることがあります。
例えば午後5時に退社する必要がある人に、
午後6時まで勤務できること
を採用条件として求めれば応募できません。
しかし、参考記事で紹介された企業では、営業職の求人を午後5時までの勤務にすると応募が大きく増えるとされています。
つまり、
人材そのものがいない
のではなく、
勤務時間の条件を変えれば応募できる人がいる
ということです。
介護する人も増えていく
働き方の制約は育児だけではありません。
年齢を重ねれば、親の介護を担う社員も増えていきます。
これまで会社で中心的な役割を担ってきた社員が、
親の通院
介護サービスへの対応
施設との打ち合わせ
などのため、従来と同じ時間で働けなくなることもあります。
フルタイム勤務できなくなった瞬間に重要な戦力ではなくなるわけではありません。
勤務時間を調整できれば、それまで培ってきた経験を会社で生かし続けることができます。
シニア人材にも同じことがいえる
高齢になっても働き続けたい人の中には、
週5日8時間は負担が大きいが、週4日なら働きたい
という人もいます。
長年の経験を持つ人材を、
フルタイム勤務できない
という理由だけで活用しないのは企業にとっても損失です。
例えば、
短時間勤務
週4日勤務
特定業務だけを担当する働き方
などを用意すれば、経験豊富なシニア人材が働き続けやすくなります。
働く時間を選ぶ仕組みが増える
柔軟な働き方にはさまざまな方法があります。
短時間正社員。
シフト選択制。
選択的週休3日制。
勤務地限定正社員。
職務限定正社員。
会社によって適した制度は異なります。
参考記事では、1日の労働時間を6時間から10時間までの間で選べる企業も紹介されています。
重要なのは、
標準的な勤務時間から外れた人を例外扱いする
のではなく、
複数の働き方そのものを標準として用意する
という考え方です。
全員が同じ時間に働かない職場になる
働き方が多様化すれば、
午前8時から働く人
午前9時から働く人
午後4時に帰る人
午後6時まで働く人
週4日働く人
が同じ会社に存在するようになります。
すると、
全員がいつでも会社にいる
ことを前提とした仕事の進め方はできなくなります。
仕事の仕組みそのものを変える必要があります。
情報共有が重要になる
全員が同じ時間に働かない職場では、情報を個人だけが持つことが大きな問題になります。
例えば午後4時に帰った社員しか顧客情報を知らなければ、午後5時に問い合わせが来たとき対応できません。
そこで、
顧客情報を共有する
対応履歴を残す
資料を共有する
副担当者を決める
といった仕組みが必要になります。
柔軟な働き方を進めることは、業務の属人化を解消することにもつながります。
会議のあり方も変わる
全員が同じ時間に働いていないなら、
午後6時から全員参加の会議
という働き方は難しくなります。
そこで、
参加者を減らす
会議を短くする
勤務時間が重なる時間帯に開く
資料共有だけで済ませる
といった見直しが必要になります。
これまで当たり前だった会議が、本当に必要なのかを考えるきっかけにもなります。
時間ではなく成果を見る
働く時間が異なる社員を公平に評価するには、
何時間会社にいたのか
だけを見ることはできません。
例えば、
8時間働いて100の成果を出した人
6時間働いて100の成果を出した人
がいたとします。
総成果は同じです。
働いた時間だけを見れば、8時間勤務者の方が長く会社にいます。
しかし時間当たりでは、6時間勤務者の方が高い成果を生み出しています。
勤務時間が多様になるほど、
長く働いている人ほど頑張っている
という評価から離れる必要があります。
成果だけを数字で見るという意味ではない
時間ではなく成果で評価するといっても、すべての仕事を売上や処理件数だけで評価するという意味ではありません。
仕事には、
人材育成
顧客との信頼関係
チームへの支援
業務改善
リスク管理
など、単純な数字では測りにくいものがあります。
重要なのは、
長く会社にいること
を成果の代わりにしないことです。
その人の役割に応じて、どのような価値を生み出したのかを見る必要があります。
6時間で8時間分働かせてはいけない
柔軟な働き方を進めるときに注意したいのが、
生産性を上げれば6時間で8時間分働ける
という考え方です。
時短勤務者に従来と同じ仕事量をそのまま渡し、
早く終わらせてください
と求めるだけでは、単なる仕事の詰め込みになります。
必要なのは、
不要な仕事をやめる
会議を減らす
業務を標準化する
デジタル化する
仕事をチームで共有する
という改善です。
働く時間を短くするなら、仕事の仕組みも変えなければなりません。
管理職の役割も変わる
全員が同じ時間働く職場では、
仕事を渡し、終わらなければ残業してもらう
という管理でも仕事が回ることがあります。
しかし勤務時間が異なる社員が増えれば、それでは対応できません。
管理職には、
誰が何時間働けるのか
どれくらい仕事を抱えているのか
何を優先するのか
どの仕事を別の人へ移すのか
何をやめるのか
を判断することが求められます。
社員の長時間労働に頼らないマネジメントが必要になります。
フルタイム正社員がなくなるわけではない
もちろん、これからフルタイム正社員がなくなるという意味ではありません。
1日8時間、週5日勤務が本人にも会社にも合っている人は、その働き方を続ければよいでしょう。
重要なのは、
フルタイム正社員だけが標準
それ以外は例外
という考え方を見直すことです。
フルタイム勤務も、短時間勤務も、週4日勤務も、それぞれ会社の仕事を担う働き方として組み合わせることができます。
会社に人を合わせる時代から変わる
従来の採用では、
会社が働き方を決める
その条件に合う人を探す
という考え方が中心でした。
しかし人手不足が進めば、
この人は何時間なら働けるのか
どの時間帯なら働けるのか
どの仕事なら能力を発揮できるのか
を考える必要があります。
社員だけを会社の仕組みに合わせるのではありません。
会社側も、人材が働けるように仕事を設計する必要があります。
結論
フルタイム正社員がなくなるわけではありません。
しかし、
1日8時間
週5日勤務
必要なら残業
という働き方だけを正社員の標準にする考え方は、今後変わっていく可能性があります。
育児中の人。
介護をしている人。
シニア人材。
学び直しをしている人。
さまざまな事情を持ちながら働く人が増える中で、全員に同じ勤務時間を求めれば、企業が活用できる人材は限られます。
そこで、
短時間正社員
シフト選択制
週4日勤務
勤務地限定正社員
職務限定正社員
など、複数の働き方を組み合わせることが重要になります。
そして働く時間が多様になれば、会社の仕事の進め方も変えなければなりません。
情報を共有する。
業務の属人化をなくす。
不要な会議を減らす。
仕事量を見える化する。
管理職が仕事を適切に配分する。
働いた時間ではなく成果を見る。
こうした改革が必要になります。
人手不足の時代に企業が考えるべきなのは、
フルタイムで働ける人をどう探すか
だけではありません。
今いる人材がどのような条件なら働けるのかを考え、その人たちが能力を発揮できるように仕事を組み直すことです。
1日8時間週5日勤務は、これからも重要な働き方の一つです。
しかし、それだけが正社員の唯一の姿ではありません。
働く時間の違う人たちを重要な戦力として組み合わせることが、人手不足時代の企業に求められる働き方へと変わっていくのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 「時短」勤務者は重要な戦力 人員確保に効果 管理職の意識変わる
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 シフトを選べる企業も