育児休業を終えて会社に復帰すれば、以前と同じ収入に戻ると思うかもしれません。
しかし、実際にはそうならないことがあります。
子どもの保育園への送り迎えなどのため、復職後に1日8時間勤務から6時間勤務へ変更すれば、会社の制度によっては給料も減るからです。
つまり、仕事と育児を両立するために時短勤務を選ぶと、働き続けているにもかかわらず収入が下がるという問題があります。
この負担を緩和するため、2025年4月に始まったのが育児時短就業給付です。
育児休業中だけではなく、職場復帰後も仕事と育児を両立できるようにすることが、この制度の重要な目的です。
時短勤務すると賃金が減る
例えば、育児休業前に、
1日8時間
週5日
で働き、月30万円の給料を受け取っていた人を考えてみます。
育児休業から復帰した後、保育園への迎えのため、
1日6時間
週5日
へ勤務時間を短縮したとします。
1日の勤務時間は8時間から6時間になります。
単純に時間だけで考えれば、勤務時間は以前の75パーセントです。
会社の賃金制度によっては、勤務時間に応じて基本給などが減額されます。
すると、
育児休業から復帰した
仕事も続けている
それでも以前より収入が少ない
という状態が生まれます。
時短勤務には経済的な負担がある
時短勤務は、育児と仕事を両立するための重要な仕組みです。
しかし、制度を利用すれば必ず生活が楽になるとは限りません。
働く時間が短くなることで、
基本給が減る
残業代が減る
会社によっては賞与にも影響する
といったことがあります。
一方で、子どもが生まれたからといって家計の支出が減るわけではありません。
むしろ、
保育料
子どもの生活費
教育関連費
住宅費
など、さまざまな支出があります。
そのため、
時短勤務を利用したいが収入が減るので利用できない
という問題が起こります。
制度として時短勤務を認めるだけでは、仕事と育児の両立支援として十分ではないわけです。
育児休業中には給付がある
育児と雇用保険の関係を考えるとき、以前から重要な役割を担ってきたのが育児休業給付です。
一定の要件を満たした人が育児休業を取得すると、育児休業中の所得を支えるために雇用保険から給付を受けられます。
育児休業を取れば、通常は会社からの賃金がなくなったり、大きく減ったりします。
そこで、
育児のために仕事を休む期間
について雇用保険から経済的な支援を行うわけです。
これによって、
収入がなくなるので育児休業を取れない
という問題を緩和しています。
復職すると別の問題が生まれる
ところが、育児休業が終わった後にも経済的な問題は残ります。
例えば、
育児休業を終了する
会社へ復帰する
時短勤務を利用する
給料が減る
という流れです。
育児休業中には給付による支援があります。
しかし、復職すれば本人は働いているため、
もう育児休業ではない
ということになります。
一方で、育児の負担がなくなったわけではありません。
子どもが小さい間は、
保育園への送迎
食事
入浴
通院
突然の発熱への対応
などがあります。
そのため、復職したからといってすぐフルタイム勤務に戻れるとは限りません。
ここに、
休業中は支援されるが、復職後の時短勤務では収入が下がる
という問題がありました。
育児休業給付との違い
育児休業給付と育児時短就業給付は、どちらも雇用保険から支給されます。
しかし、支援する場面が違います。
育児休業給付は、
育児のために仕事を休んでいる期間
を支える制度です。
一方、育児時短就業給付は、
育児をしながら仕事に復帰し、短い時間で働いている期間
を支える制度です。
つまり、
休むことを支える
制度から、
働きながら育児することも支える
制度へ支援の範囲が広がったと考えると分かりやすくなります。
復職すれば問題解決ではない
企業側から見ると、
育児休業から社員が戻ってきた
という時点で両立支援が成功したように見えることがあります。
しかし、本当に重要なのはその後です。
復職しても、
時短勤務による収入減が大きい
仕事と育児の両立が難しい
キャリア形成が止まる
同僚への遠慮が大きい
といった問題が続けば、最終的に退職する可能性があります。
そのため、
育児休業を取得できること
だけではなく、
育児休業から復帰した後も働き続けられること
まで考える必要があります。
育児時短就業給付は、この復職後の期間に着目した制度です。
賃金の10パーセント相当を基本に支える
育児時短就業給付では、一定の要件を満たした場合、原則として時短勤務中に支払われた賃金の10パーセント相当が支給されます。
例えば時短勤務中の賃金が月24万円だったとします。
単純化すると、
24万円掛ける10パーセント
で、
2万4000円
が給付額の基本となります。
会社から24万円を受け取り、雇用保険から2万4000円が支給されるイメージです。
ただし、時短勤務前と比べて賃金がどの程度減っているかによって給付率が調整されます。
一律に10パーセントが支給されるわけではありません。
なぜ減った給料を全額補わないのか
育児時短就業給付は、
時短勤務前の収入を完全に保証する制度
ではありません。
例えば時短勤務によって給料が30万円から24万円へ減った場合、差額は6万円です。
育児時短就業給付によって、その6万円をそのまま全額補う仕組みではありません。
勤務時間そのものが短くなっている以上、一定程度賃金が減ることは前提とされています。
そのうえで、
収入減が大きいため時短勤務を選べない
収入を維持するため無理にフルタイム勤務する
仕事と育児の両立を諦めて退職する
といった事態を減らすため、収入減の一部を社会全体で支える考え方です。
時短勤務を選択しやすくする
育児と仕事を両立する方法は一つではありません。
育児休業を長く取る人もいます。
早く職場へ復帰する人もいます。
復職後すぐフルタイムで働く人もいれば、時短勤務を選ぶ人もいます。
重要なのは、家庭の状況に応じて働き方を選択できることです。
しかし、
時短勤務をすると収入が大きく減る
という状況では、形式的には選択肢があっても、実際には選びにくくなります。
育児時短就業給付によって収入減の一部を補えば、
時短勤務という選択肢
を取りやすくなります。
仕事を辞めないための制度でもある
育児時短就業給付には、もう一つ重要な意味があります。
就業継続です。
例えば、
フルタイムでは育児との両立が難しい
時短勤務では収入が減りすぎる
という状況になれば、
いったん会社を辞める
という選択をする人もいるでしょう。
しかし、一度仕事を辞めると、再就職時に同じ賃金や職位へ戻れるとは限りません。
本人にとってキャリア上の損失になる可能性があります。
企業側も、経験を積んだ社員を失います。
育児時短就業給付によって時短勤務を選びやすくすることは、
育児中も雇用を継続する
ことにつながります。
企業の人材確保にもつながる
人手不足が深刻になるなか、企業にとって社員の離職防止は重要な課題です。
例えば10年間勤務した社員には、
専門知識
顧客との関係
社内業務の知識
経験
などが蓄積されています。
その社員が育児を理由に退職すれば、会社はその経験を失います。
新しい人を採用しても、同じ水準まで育成するには時間がかかります。
そのため、
育児が落ち着くまで活躍を待つ
のではなく、
育児中も働ける時間で活躍してもらう
という考え方が重要になります。
育児時短就業給付は労働者への給付ですが、結果として企業の人材確保にもつながる制度と考えることができます。
育児中だけキャリアを止めない
子どもが小さい期間は、長い職業人生の一部分です。
例えば30歳で子どもが生まれた人が65歳まで働けば、その後も30年以上働く可能性があります。
それにもかかわらず、
育児中だから重要な仕事から外す
時短勤務だから昇進対象から外す
育児が終わるまでキャリア形成を止める
という扱いをすれば、本人にも企業にも大きな損失になります。
必要なのは、
育児が終わってから再び活躍する
という考え方ではありません。
育児中も働ける時間でキャリアを継続することです。
そのためには勤務制度だけでなく、収入面の支援も必要になります。
結論
育児時短就業給付が作られた背景には、育児休業から復帰した後の収入減という問題があります。
育児休業中には育児休業給付があります。
しかし、復職後に育児のため時短勤務をすると、勤務時間が短くなることで賃金が減る場合があります。
そこで2025年4月から、一定の要件を満たす人について、時短勤務中の賃金の10パーセント相当を基本として雇用保険から支える育児時短就業給付が始まりました。
重要なのは、
育児休業を取れるようにする
だけではなく、
育児休業から戻った後も働き続けられるようにする
という考え方です。
育児中だから一度キャリアを止めるのではなく、働ける時間で仕事を続ける。
そのための経済的な壁を少し低くするのが育児時短就業給付です。
人手不足が進む日本では、育児中の人を一時的に戦力から外すのではなく、継続して活躍できる環境を作ることが企業にとっても重要になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 「時短」勤務者は重要な戦力 人員確保に効果 管理職の意識変わる
厚生労働省 育児時短就業給付の内容と支給申請手続