子どもが生まれて育児休業を取得した後、仕事に復帰しても、以前と同じように働けるとは限りません。
保育園への送り迎えなどのため、1日8時間勤務から6時間勤務へ変更する人もいます。
仕事と育児を両立しやすくなる一方で、問題になるのが収入です。
働く時間が短くなれば、会社の制度によっては給料も減ります。
そこで、育児のために時短勤務をする人の収入減を雇用保険から支えるため、2025年4月に始まったのが「育児時短就業給付」です。
育児休業から職場へ戻るだけでなく、その後も働き続けやすくするための制度です。
育児時短就業給付とは何か
育児時短就業給付は、2歳未満の子どもを養育するために時短勤務をして、一定の要件を満たした場合に雇用保険から支給される給付です。
例えば、育児休業から復職した社員が、
以前は1日8時間勤務
復職後は1日6時間勤務
になったとします。
会社の賃金制度によっては、勤務時間が短くなった分だけ給料が減ります。
育児時短就業給付は、このような収入減の一部を補う役割を持っています。
ポイントは、会社から支払われる給料とは別に、一定額が雇用保険から支給されることです。
なぜ新しい給付が必要になったのか
育児と仕事を両立するとき、大きな壁になるのが収入減です。
育児休業中には育児休業給付があります。
しかし、職場へ復帰すれば給料が支払われます。
一見すると、
仕事に戻ったのだから問題は解決した
ように見えます。
ところが、実際にはそう単純ではありません。
復職後に時短勤務を選択すると、育児休業前より給料が減ることがあります。
つまり、
育児休業中の収入
だけではなく、
復職後の収入
にも問題があったわけです。
そこで、育児休業から復帰した後の時短勤務による収入減を支える仕組みとして、育児時短就業給付が設けられました。
対象になる人
育児時短就業給付は、単に勤務時間を短くすれば誰でも受け取れるわけではありません。
基本的には、2歳未満の子どもを養育するために育児時短就業をする雇用保険の被保険者が対象になります。
さらに、時短勤務を始める前の雇用保険の加入状況などについて一定の要件があります。
例えば、原則として育児時短就業を開始した日前2年間に、みなし被保険者期間が12カ月以上あることなどが求められます。
育児休業給付を受けた後、その子について引き続き時短勤務を始める場合などには別の判定があります。
したがって、
子どもが2歳未満
育児のために時短勤務をしている
雇用保険の一定の要件を満たしている
といった条件を確認する必要があります。
どれくらい給付されるのか
育児時短就業給付の基本的な考え方は比較的分かりやすく、
時短勤務中に支払われた賃金額の10パーセント
を給付するというものです。
例えば、時短勤務中の1カ月の賃金が20万円だったとします。
単純化すると、
20万円掛ける10パーセント
で、
2万円
が給付額の基本になります。
会社から20万円の賃金を受け取り、さらに雇用保険から2万円の育児時短就業給付を受けるというイメージです。
ただし、すべての場合に一律10パーセントが支給されるわけではありません。
給料があまり減っていない場合はどうなるのか
育児時短就業給付には、時短勤務前の賃金との関係による調整があります。
制度の目的は、育児のために時短勤務をしたことによる収入減を支えることです。
そのため、時短勤務をしても賃金がほとんど減っていない場合まで、単純に10パーセントを上乗せする仕組みにはなっていません。
時短勤務中に支払われた賃金が、時短勤務開始時の賃金月額の90パーセント以下であれば、原則として時短勤務中の賃金の10パーセントが支給されます。
一方、賃金が90パーセントを超えて100パーセント未満の場合には給付率が調整されます。
そして、時短勤務中の賃金が時短勤務開始時の賃金月額以上になれば、原則として給付はありません。
収入減が大きいほど支援し、収入減が小さければ給付を調整する仕組みです。
具体例で考える
例えば、育児時短勤務を始める前の賃金月額が30万円だった人を考えてみます。
時短勤務によって、その月の賃金が24万円になったとします。
24万円は30万円の80パーセントです。
90パーセント以下なので、一定の要件を満たしていれば、基本的には24万円の10パーセントに当たる、
2万4000円
が給付額の目安になります。
会社からの賃金24万円に、育児時短就業給付2万4000円が加わるイメージです。
もちろん、時短勤務前の30万円まで完全に戻るわけではありません。
それでも、
24万円だけ
の場合より収入減を小さくできます。
なぜ給料の減少分を全額補償しないのか
ここで、
時短勤務で6万円減ったなら、6万円を給付すればよいのではないか
と思うかもしれません。
しかし、育児時短就業給付は時短勤務前と同じ収入を保証する制度ではありません。
働く時間が短くなれば、それに応じて賃金が減ること自体はあり得ます。
そのうえで、収入が大きく減ることによって、
時短勤務を選べない
仕事を辞める
育児との両立を断念する
といった事態を減らすために、一部を支援する仕組みです。
働いた分の賃金は会社が支払い、育児による時短勤務で生じる収入減の一部を社会保険制度で支えるという考え方です。
2歳未満という年齢がポイントになる
育児時短就業給付の対象を理解するときに重要なのが、子どもの年齢です。
基本的には、
2歳未満の子ども
を養育するための時短勤務が対象になります。
一方、育児介護休業法上の短時間勤務制度は、原則として3歳未満の子どもを養育する一定の労働者が対象です。
ここで年齢に違いがあります。
つまり、
会社で時短勤務制度を利用できる期間
と、
育児時短就業給付を受けられる期間
が必ずしも同じではありません。
時短勤務を利用しているから、その期間すべてについて育児時短就業給付を受けられるとは限らない点には注意が必要です。
育児休業給付との違い
育児時短就業給付と混同しやすいのが育児休業給付です。
両者の大きな違いは、
休業しているのか
働いているのか
です。
育児休業給付は、育児休業を取得している期間の生活を支える役割があります。
一方、育児時短就業給付は、職場へ戻って働きながら勤務時間を短くしている期間を支えます。
簡単に整理すると、
育児休業中は育児休業給付
復職して時短勤務をすると育児時短就業給付
という流れをイメージすると分かりやすくなります。
実際の支給要件はそれぞれ異なるため、個別に確認する必要があります。
時短勤務を選びやすくする意味
育児と仕事の両立を考えるとき、
制度があるか
だけでは十分ではありません。
時短勤務制度が会社にあっても、
給料が大幅に減るので利用できない
という人がいれば、実際には利用しにくい制度になります。
特に住宅ローンや家賃、教育費など固定的な支出がある家庭では、毎月数万円の収入減でも大きな問題になります。
育児時短就業給付によって収入減の一部を補えば、時短勤務という選択肢を取りやすくなります。
つまり、
働く時間を短くする権利
だけでなく、
短く働いたときの経済的負担
にも対応しようとしているわけです。
企業にとっても意味がある
育児時短就業給付は労働者向けの制度ですが、企業側にも間接的なメリットがあります。
社員が出産後、
フルタイム勤務は難しい
時短勤務では収入が減りすぎる
だから退職する
となれば、企業は経験のある人材を失います。
採用や教育にかけたコストも失われます。
一方、時短勤務をしながら働き続けることができれば、企業は経験やノウハウを持つ社員を維持できます。
人手不足が深刻になるほど、
育児中の社員が辞めない仕組み
を作ることは企業の人材戦略としても重要になります。
結論
育児時短就業給付とは、2歳未満の子どもを養育するために時短勤務を行い、一定の要件を満たした人について、時短勤務による収入減の一部を雇用保険から支える制度です。
2025年4月に始まりました。
基本的には時短勤務中の賃金の10パーセント相当を給付しますが、時短勤務前の賃金と比べてどの程度賃金が減っているかによって給付率が調整されます。
この制度で重要なのは、
育児休業から復帰する
ところだけを支援しているわけではないことです。
復帰した後、
育児をしながら働き続ける
ところまで支援しようとしています。
時短勤務制度があっても、収入が大きく減れば利用をためらう人はいます。
育児時短就業給付は、その経済的な壁を少し低くする仕組みです。
人手不足が進む日本では、育児中の社員を一時的に仕事から離れた人と考えるのではなく、働ける時間を生かして継続的に活躍してもらうことが重要になります。
育児時短就業給付は、そのための経済的な支援策の一つといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 「時短」勤務者は重要な戦力 人員確保に効果 管理職の意識変わる
厚生労働省 育児時短就業給付の内容と支給申請手続