住宅を買うとき、多くの人は新築か中古か、マンションか戸建てか、駅から何分かといった条件から物件を探します。
しかし、これからの住宅選びでは、こうした従来の考え方だけでは十分ではなくなる可能性があります。
背景にあるのが、新築住宅を十分に供給できなくなるという構造的な問題です。
人口が減少しているのであれば、住宅も余っていくように思えます。ところが実際には、新築住宅の供給は減り、中古住宅もすべてを簡単に活用できるわけではありません。
その結果、住宅が余っているのに、住みたい住宅は不足するという状況が起こり得ます。
これから住宅を購入する人は、物件価格だけではなく、立地、修繕費、建設人材、工事費などを含めて資金計画を考える必要があります。
新築住宅はなぜ減っているのか
日本の新築住宅着工戸数は長期的に減少しています。
2025年の新設住宅着工戸数は約74万戸となり、前年比で6.5%減少しました。20年前と比べると約4割少ない水準です。
人口1000人当たりで見ると約6戸となり、1960年代初め以来の低水準となっています。
人口が減っているため、住宅着工が減ること自体は不思議ではありません。
しかし、問題は需要が減る以上のペースで供給能力そのものが低下する可能性があることです。
その大きな原因が建設業界の人手不足です。
特に住宅建設や修繕を担う大工は大幅に減っています。
2000年ごろから2020年までの約20年間で大工の人数はほぼ半減し、30万人を下回りました。さらに2035年前後には15万人を下回る可能性も指摘されています。
住宅を建てたい人がいても、実際に建てる人がいなければ供給は増えません。
これまで住宅価格というと土地代や木材などの資材価格が注目されてきました。
これからは人を確保するための人件費が住宅価格を左右する重要な要素になります。
人口が減っても住宅需要がなくなるわけではない
日本では人口減少が続いています。
そのため、住宅需要も減って住宅価格が下がると考える人もいるかもしれません。
しかし、住宅需要を見る場合、人口だけを見るのは十分ではありません。
重要なのは世帯数です。
例えば4人家族が1世帯で暮らしていたところから、単身世帯が増えれば、人口が減っても必要な住宅数はそれほど減らない場合があります。
高齢者の単身世帯や夫婦のみ世帯も増えています。
つまり、
人口減少イコール住宅需要減少
とは単純には言えません。
住宅需要の基礎単位となる世帯数が維持される一方、新築住宅の供給が減れば、条件の良い住宅について需給が引き締まる可能性があります。
その結果、人口減少社会であっても住宅価格がなかなか下がらないという現象が起こります。
空き家が900万戸あっても住宅不足になる理由
ここで疑問になるのが空き家です。
日本には2023年時点で約900万戸の空き家があります。
これだけ住宅が余っているのであれば、新築住宅が減っても中古住宅を利用すればよいように思えます。
しかし、空き家の数と実際に住める住宅の数は同じではありません。
空き家の中には賃貸用や売却用、別荘なども含まれています。
特に問題となっているのが、利用目的が決まっていないその他空き家です。
その数は約386万戸あります。
さらに、その中には耐震性が不足していたり、建物が傷んでいたりして、大規模な修繕が必要な住宅が少なくありません。
つまり、
空き家がある
ことと、
すぐに住める中古住宅がある
ことは別の話なのです。
立地が悪かったり、建物が老朽化していたりすれば、住宅としての需要は限られます。
中古住宅なら安いとも限らなくなる
新築住宅が高くなれば中古住宅を買えばよいと考える人も多いでしょう。
ところが、中古住宅にも別の問題があります。
修繕費です。
古い住宅では断熱性能が低かったり、設備が老朽化していたりするため、購入後にリフォームやリノベーションが必要になることがあります。
例えば中古住宅を3000万円で購入できたとしても、購入後に1000万円の改修費が必要になれば、実質的な住宅取得費は4000万円になります。
さらに今後は、この改修費そのものが上昇する可能性があります。
中古住宅の修繕は新築以上に人手が必要になる場合があります。
新築住宅では、工場で木材をあらかじめ加工するプレカットなどによって作業を効率化できます。
一方、中古住宅は建物ごとに劣化状態が違います。
壁を開けてみなければ分からない問題が出てくることもあります。
そのため、修繕工事では職人の経験や現場作業への依存度が高くなります。
大工などの建設人材が減れば、中古住宅の改修費も上昇しやすくなります。
結果として、
新築は高い
中古は安い
という単純な関係が崩れていく可能性があります。
状態の良い中古住宅ほど需要が集まり、価格が高止まりすることも考えられます。
住宅価格だけで資金計画を作ってはいけない
これまで住宅購入では、物件価格と住宅ローン返済額が資金計画の中心でした。
例えば5000万円の住宅を購入する場合、
頭金はいくら必要か
毎月の住宅ローン返済はいくらか
金利が上昇したら返済額はいくら増えるか
といった点を検討します。
これからは、さらに修繕費を加えて考える必要があります。
戸建て住宅であれば、外壁、屋根、給湯器、水回りなどの交換が必要になります。
マンションであれば、専有部分の設備交換に加えて管理費や修繕積立金があります。
建設人材不足と資材価格上昇が続けば、将来必要となる修繕費も現在より高くなる可能性があります。
住宅購入時点で限界まで住宅ローンを組んでしまうと、10年後や20年後の修繕費を負担できなくなる恐れがあります。
住宅取得費だけではなく、
購入費用
住宅ローン
固定資産税
管理費
修繕積立金
将来のリフォーム費
まで含めた住宅の総保有コストを考える必要があります。
立地条件を広げるという選択肢
新築不足時代には、立地の考え方も変わる可能性があります。
これまでは、
駅徒歩10分以内
特定の沿線
特定の市区町村
新築
といった条件を先に設定し、その範囲内で物件を探す方法が一般的でした。
しかし供給される住宅そのものが少なくなれば、条件を細かく設定するほど選択肢は減ります。
そこで重要になるのが、絶対に譲れない条件と変更できる条件を分けることです。
例えば勤務形態によっては、駅からの距離を少し広げても問題がない人もいます。
一方、病院やスーパーへのアクセスを重視する人もいるでしょう。
住宅そのものだけを見るのではなく、生活全体から立地条件を考える必要があります。
住宅価格が高騰している地域から少し範囲を広げるだけで、購入可能な住宅が増える場合もあります。
工事契約では価格上昇と工期遅延にも注意する
新築住宅を建てたり、中古住宅をリフォームしたりする場合には、工事契約の内容もこれまで以上に重要になります。
建築工事では契約してから完成まで時間がかかります。
その間に資材価格や人件費が上昇する可能性があります。
さらに職人不足によって工事が遅れることも考えられます。
そこで契約前に、
工事費が上昇した場合に誰が負担するのか
追加費用が発生する条件は何か
工期が遅れた場合にどう扱うのか
仕様変更の場合に費用をどう決めるのか
といった点を確認することが重要になります。
契約時の見積額だけを見て判断するのではなく、完成までにどのようなリスクがあるのかを確認する必要があります。
賃貸なら住宅コスト上昇と無関係とは限らない
住宅価格が高いので購入せず、賃貸住宅に住み続けるという選択肢もあります。
もちろん、これは有力な選択肢の一つです。
ただし、賃貸だから建設費や修繕費の上昇と無関係というわけではありません。
賃貸住宅の所有者も建物を維持するために修繕費を負担しています。
給湯器、エアコン、外壁、屋根、エレベーターなどの維持費が上昇すれば、大家側の負担は増えます。
新築賃貸住宅の供給が減れば、需給面から家賃に上昇圧力がかかる可能性もあります。
長期的には建設費や修繕費の上昇が家賃に反映されることも考えておく必要があります。
したがって、
買うか借りるか
という問題だけではなく、
住宅にかかる費用そのものが上昇する可能性
を考えて家計を設計することが重要になります。
これからは物件より相談相手が重要になる
住宅購入では、これまで物件情報をたくさん集めることが重要だと考えられてきました。
しかし、新築不足と建設人材不足が進むと、それだけでは判断が難しくなります。
中古住宅なら、建物の状態を判断する必要があります。
リフォームするなら、必要な工事と不要な工事を見極める必要があります。
新築なら、建設会社の施工能力や工期についても確認する必要があります。
住宅ローンだけでなく、将来の修繕費まで含めた資金計画も必要になります。
こうした判断を購入者だけですべて行うのは簡単ではありません。
工務店、住宅会社、不動産会社だけでなく、必要に応じて住宅診断などを行う第三者の専門家から意見を聞くことも重要になります。
これからの住宅選びでは、
どの物件を買うか
と同じくらい、
誰に相談して判断するか
が重要になっていくのです。
結論
日本の住宅市場は、新築住宅を大量に供給する時代から大きく変わろうとしています。
人口は減少していても世帯数はすぐには減らず、住宅需要が急速になくなるわけではありません。
一方で、大工などの建設人材は減少し、新築住宅を供給する能力そのものが低下しています。
中古住宅は約900万戸の空き家があるものの、そのすべてがすぐに住める住宅ではありません。古い住宅を活用するには修繕が必要ですが、その修繕を担う人材も不足しています。
その結果、
新築は少なく高い
状態の良い中古も高い
古い中古は修繕費が高い
という状況が広がる可能性があります。
これから住宅を選ぶ際には、購入時の価格だけで判断するのではなく、立地の選択肢を広げ、将来の修繕費まで含めた資金計画を作ることが重要です。
さらに新築やリフォームでは、工事費上昇や工期遅延が起きた場合の契約条件まで確認する必要があります。
住宅が余る時代だから家は安くなるとは限りません。
これから始まるのは、単なる住宅不足ではなく、住みたい場所に、住める状態の住宅を、負担できる価格で確保することが難しくなる時代です。
新築不足時代の住宅選びでは、物件そのものを探す力だけではなく、住宅に一生でいくらかかるのかを考え、信頼できる専門家とともに判断する力がこれまで以上に重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 新築不足時代の住宅選び 立地や資金計画を見直し