申請主義とは何か 制度を知らないと給付を受けられない問題編

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社会保障制度には、条件を満たしているだけでは給付を受けられず、本人が申請して初めて利用できるものが数多くあります。

行政が自動的に支援してくれるのではなく、自分で制度を知り、自分が対象であることを確認し、必要な手続きをする必要があります。

こうした考え方は一般に申請主義と呼ばれます。

申請主義には、本人の意思を確認したうえで行政サービスを提供できるという合理性があります。

一方で、制度を知らない人、申請方法が分からない人、手続きをする余裕がない人ほど支援を受けにくくなるという問題もあります。

2027年度から先行実施される所得連動給付では、公金受取口座を登録している人について申請なしで給付できる仕組みが検討されています。

これは日本の社会保障を、申請を待つ仕組みから必要な人へ届ける仕組みへ転換していく動きとして注目されます。

申請主義とは何か

申請主義とは、行政上の給付やサービスについて、原則として本人などからの申請を受けて手続きを開始する考え方です。

制度の対象者だからといって、必ず自動的に給付されるわけではありません。

本人が申請し、行政が要件を確認し、支給決定を行うという流れになります。

一般的には、

制度を知る

自分が対象か確認する

必要書類を準備する

申請する

行政が審査する

支給決定を受ける

という手続きを経ます。

申請には、本人が制度を利用したいという意思を行政に示す意味もあります。

また、行政が保有している情報だけでは判断できない事情を本人から確認できるという利点もあります。

そのため、申請という手続きそのものが不要なわけではありません。

問題は、申請できる人とできない人の間で、実際に受けられる支援に差が生じることです。

社会保障制度と申請主義

日本の社会保障には、本人による手続きが重要になる制度が数多くあります。

社会保障制度は非常に複雑です。

年齢、所得、家族構成、就労状況、保険加入状況などによって利用できる制度が変わります。

しかも制度を担当する行政機関も一つではありません。

国、都道府県、市区町村、年金関係機関、健康保険の保険者、雇用保険関係機関などに分かれています。

国民から見ると、自分が利用できる制度がどこにあるのかを把握すること自体が難しい場合があります。

制度が存在することと、実際に国民が制度を利用できることは同じではないのです。

制度を知らなければ申請できない

申請主義の最も大きな問題の一つが、制度を知らない人は申請できないことです。

行政がどれほど充実した支援制度を用意しても、その存在が国民に伝わらなければ利用されません。

特に給付制度では、

自分は対象外だと思っていた

制度の存在そのものを知らなかった

所得要件が分からなかった

どこへ申請すればよいか分からなかった

必要書類をそろえられなかった

という理由で申請されないことがあります。

本来受け取れる給付を受け取らない状態が生まれるわけです。

これは制度上の対象者と実際の受給者との間に生じるギャップと考えることができます。

申請漏れはなぜ起こるのか

申請漏れは、単に本人が注意していないから起こるわけではありません。

制度そのものが複雑であることも大きな原因です。

所得基準がある。

世帯要件がある。

年齢条件がある。

扶養関係の判定がある。

必要書類が複数ある。

申請期限が決められている。

こうした条件が重なるほど、一般の人が自分で制度を理解することは難しくなります。

さらに行政から送られてくる文書には専門用語が使われることもあります。

制度を十分に理解できなければ、自分が対象者であることにも気付きにくくなります。

申請主義の問題を考えるときには、国民の側だけではなく、制度の分かりやすさも考える必要があります。

支援が必要な人ほど申請が難しい場合がある

社会保障では、もう一つ重要な問題があります。

支援を必要としている人ほど、複雑な申請手続きを行うことが難しい場合があることです。

たとえば収入が急減した人は、仕事探しや生活の立て直しに追われているかもしれません。

高齢者の場合には、デジタル手続きが負担になることがあります。

仕事や子育てで忙しい人は、役所の窓口へ行く時間を確保することが難しいかもしれません。

つまり、申請する能力や時間がある人ほど制度を利用しやすく、そうでない人ほど制度から取り残される可能性があります。

社会保障が本来支援すべき人へ届かないという矛盾が生じます。

行政側にも申請主義のコストがある

申請主義には、行政側にも大きなコストがあります。

給付金を実施する場合、自治体は申請書を準備し、対象となる可能性のある住民へ案内を送ります。

そして申請書が届けば、

受付

本人確認

所得確認

書類の不備確認

口座確認

審査

支給決定

振込処理

などを行います。

申請内容に不備があれば、本人への問い合わせも必要になります。

全国規模の給付金になると、こうした事務が一度に自治体へ集中します。

申請する国民にも負担があり、申請を処理する行政にも負担がある。

申請主義には、このような二重の事務コストが存在します。

行政がすでに持っている情報を使えないのか

そこで生まれる疑問が、行政がすでに保有している情報を利用できないのかということです。

たとえば自治体は住民税を計算するため、住民の所得情報を保有しています。

住民基本台帳から住所や世帯に関する情報も確認できます。

さらに公金受取口座が登録されていれば、給付金の振込先も確認できます。

給付制度の要件がこれらの情報だけで判断できるのであれば、国民に同じ情報を改めて提出してもらう必要性は小さくなります。

行政が保有する情報を安全かつ適切に連携し、

誰が対象なのか

いくら給付するのか

どこへ振り込むのか

を判定できれば、申請手続きを大幅に簡素化できます。

これがプッシュ型行政へつながります。

プッシュ型行政とは何か

プッシュ型行政とは、国民からの申請を待つだけではなく、行政側が対象者を把握し、必要なサービスや給付を知らせたり届けたりする考え方です。

完全に自動的に給付する方法だけを意味するわけではありません。

たとえば行政が、

あなたはこの制度の対象となる可能性があります

と通知するだけでも、申請漏れを減らすことができます。

さらに制度設計が進めば、

対象者を行政が抽出する

給付額を自動計算する

本人へ給付予定を通知する

公金受取口座へ振り込む

というところまで自動化することも考えられます。

申請する行政から届ける行政への転換です。

所得連動給付は大きな転換点になる

2027年度から先行実施される所得連動給付は、この転換を考えるうえで重要な制度です。

新制度では、原則として前年の住民税の所得額に応じて給付する方向です。

自治体が保有する所得情報を使えば、対象者を行政側で抽出できます。

政府は給付額を自動算定するツールを自治体へ提供することも検討しています。

さらに公金受取口座を登録している人については、申請なしで受け取れるよう法整備も視野に入れています。

実現すれば、

本人が申請する

行政が審査する

口座を確認する

振り込む

という従来の流れから、

行政が対象者を抽出する

給付額を計算する

登録口座へ給付する

という流れへ大きく変わります。

申請不要にも課題がある

もっとも、すべての社会保障を申請不要にすればよいわけではありません。

行政が保有する情報だけでは判断できない制度もあります。

家庭環境や生活実態など、本人から事情を聞かなければ適切に判断できないケースもあります。

また、給付を受けたくない人への意思確認も必要です。

行政データが間違っていた場合に、本人が訂正を求める仕組みも欠かせません。

さらに前年所得を利用する場合には、現在の所得状況とのずれも発生します。

重要なのは、申請を完全になくすことではありません。

行政がすでに把握している情報を何度も国民に提出させないことや、申請が必要な場合でも可能な限り簡単にすることです。

社会保障の利用しやすさも政策効果を左右する

社会保障制度を評価するときには、給付額や対象者だけが注目されがちです。

しかし、制度へのアクセスのしやすさも重要です。

同じ一万円の給付でも、複雑な書類を何枚も提出しなければ受け取れない制度と、行政が対象者を把握して自動的に支給する制度では、実際の利用率が変わる可能性があります。

制度が複雑になればなるほど、申請能力による格差が生まれます。

逆に行政データを活用して手続きを簡素化できれば、本来対象となる人へ支援を届けやすくなります。

社会保障政策では、何を給付するかだけでなく、どう届けるかまで含めて制度設計を考える必要があります。

結論

申請主義とは、行政上の給付やサービスについて、本人などからの申請を起点として手続きを進める考え方です。

本人の意思確認や正確な審査という意味では重要な仕組みですが、制度を知らない人や手続きが難しい人が支援から取り残される可能性があります。

また、申請書の受付や審査、口座確認など、行政側にも大きな事務負担が発生します。

マイナンバー、所得情報、公金受取口座などの行政基盤が整ってきたことで、行政がすでに把握している情報について国民に何度も提出を求める必要性は小さくなりつつあります。

2027年度からの所得連動給付では、公金受取口座の登録者について申請不要とする仕組みが検討されています。

制度を知って申請できた人だけを支援するのではなく、制度上支援すべき人へ行政側から届ける。

申請主義からプッシュ型行政への転換は、給付金の手続きを便利にするだけではありません。

日本の社会保障を、本当に必要な人へ届く制度に変えられるかという大きな課題につながっています。

参考

日本経済新聞 2026年8月11日朝刊 所得連動給付の申請不要 地方にも財政負担案 国・地方協議会が初会合

デジタル庁 公金受取口座登録制度

デジタル庁 公的給付支給等口座登録制度

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