2040年に向けた地域医療構想では、病床機能の考え方そのものが変わろうとしています。
これまでの地域医療構想では、病床を主に高度急性期、急性期、回復期、慢性期という4つの機能に分けて考えてきました。
このうち回復期は、急性期の治療を終えた患者がリハビリなどを受け、在宅復帰を目指す役割を担ってきました。
しかし高齢化がさらに進むと、急性期病院で治療を受けた患者を受け入れるだけでは十分ではありません。
高齢者が自宅や介護施設から救急搬送された場合などに、必ずしも高度な急性期病院だけで受け入れるのではなく、治療からリハビリ、在宅復帰まで幅広く対応する医療機能が重要になります。
そこで新しい地域医療構想で示されているのが包括期という考え方です。
従来の回復期機能とは何か
回復期とは、急性期の治療を終えた患者が、自宅や社会生活へ戻るための医療を受ける段階です。
たとえば脳卒中を発症した患者を考えてみます。
発症直後には、急性期病院で集中的な治療を受けます。
治療によって生命の危険が小さくなったとしても、すぐに以前と同じ生活へ戻れるとは限りません。
歩行が難しくなったり、食事や着替えなどの日常生活に支障が生じたりすることがあります。
そこで急性期の治療後にリハビリを行い、身体機能や生活能力の回復を目指します。
このような役割を担ってきたのが回復期機能です。
急性期から回復期へ患者を移す意味
病床機能を分ける理由は、それぞれの患者に必要な医療が異なるからです。
急性期病院には、手術室や高度な検査設備などが必要です。
医師や看護師も手厚く配置されます。
一方、病状が安定した患者については、高度な検査や治療よりもリハビリや日常生活への復帰支援が重要になります。
その患者が急性期病床に長く入院すると、高度な医療資源を必要としない患者のために急性期病床を使い続けることになります。
すると、新たに救急搬送された患者や手術が必要な患者を受け入れにくくなります。
そこで患者の状態に応じて、急性期から回復期へ移すことが重要になります。
病床機能の分化とは、患者を追い出す仕組みではなく、患者の状態に適した医療へ切り替える仕組みなのです。
なぜ回復期だけでは対応しにくくなるのか
これから問題になるのが、高齢患者の増加です。
高齢者は若い患者とは異なる医療ニーズを持つことがあります。
一つの病気だけではなく、複数の慢性疾患を抱えている人も少なくありません。
さらに病気そのものはそれほど重くなくても、入院によって身体機能が低下することがあります。
たとえば高齢者が肺炎で入院したとします。
肺炎そのものは治療によって改善しても、数週間の入院によって筋力が低下し、自力で歩くことが難しくなることがあります。
医療上は退院できても、生活上は自宅へ戻れないという状態が生まれるのです。
そのため高齢者医療では、病気を治す医療と生活機能を回復させる医療を切り離すことが難しくなります。
包括期機能とは何か
こうした高齢者の医療需要を踏まえて、新たな地域医療構想では包括期という病床機能が示されています。
包括期は、従来の回復期機能を単純に名称変更しただけのものではありません。
急性期の治療を終えた患者を受け入れる機能に加えて、高齢者などの救急患者を受け入れ、早期から治療とリハビリを行い、在宅復帰につなげる役割などを担うことが想定されています。
つまり、急性期と回復期の間をより柔軟につなぐ機能と考えることができます。
これまでのように、まず急性期病院へ入院し、治療が終わったら回復期病院へ転院するという流れだけではありません。
患者の状態によっては、包括期機能を持つ病院が救急段階から受け入れるという考え方が入ってきます。
高齢者救急との関係
包括期を理解するうえで特に重要なのが高齢者救急です。
高齢者が救急搬送されたからといって、すべての患者に高度な急性期医療が必要なわけではありません。
たとえば高齢者が発熱や脱水、軽度の肺炎などによって救急搬送される場合があります。
もちろん患者の状態によっては高度急性期や急性期の病院で治療する必要があります。
しかし高度な手術や集中治療を必要としない患者まで大規模な急性期病院へ集中すると、本当に高度な治療が必要な患者を受け入れる能力が圧迫されます。
そこで患者の状態に応じて、包括期機能を担う医療機関でも高齢者救急を受け入れることが重要になります。
地域の病院が役割を分担するわけです。
治療とリハビリを一体的に考える
高齢者医療では、治療開始時から退院後の生活を考える必要があります。
若い患者であれば、病気が治れば元の生活へ比較的早く戻れることがあります。
しかし高齢者の場合には、短期間の入院でも身体機能が低下する可能性があります。
ベッドで過ごす時間が長くなれば、筋力が落ちます。
食事量が減れば栄養状態が悪化することもあります。
認知機能に影響が出ることもあります。
そのため高齢者を受け入れる病床では、病気の治療だけを考えるのではなく、入院早期から身体機能を維持する取り組みやリハビリを行うことが重要になります。
包括期には、こうした高齢者医療の特徴に対応する役割が期待されています。
在宅復帰までが重要になる
包括期機能のもう一つの重要な役割が在宅復帰です。
病院で病気が治ったとしても、自宅へ戻れなければ入院が長期化します。
そこで患者本人や家族の状況を確認しながら、退院後の生活を準備する必要があります。
自宅で訪問診療を受けるのか。
訪問看護を利用するのか。
介護サービスが必要なのか。
介護施設へ移るのか。
こうした退院後の生活まで含めて支援する必要があります。
つまり包括期は、病院の中だけで完結する医療ではありません。
在宅医療や介護サービスとの接続点としての役割も重要になります。
急性期病床から包括期への転換
2040年に向けて、地域によっては現在の急性期病床の一部を包括期へ転換する必要性が高まると考えられます。
人口が減少すれば、従来型の急性期医療を必要とする患者数が減少する地域があります。
一方、高齢者人口が増えれば、高齢者救急や在宅復帰支援の需要が増える可能性があります。
その場合、急性期病床をそのまま維持するよりも、包括期へ機能転換した方が地域の患者構成に合うことになります。
重要なのは病床をなくすことではありません。
患者の変化に合わせて病床の役割を変えることです。
これが地域医療構想における病床再編の重要な考え方になります。
診療報酬が転換を左右する
ただし、行政が包括期への転換を求めるだけで病院が動くとは限りません。
病院は経営を続けなければならないからです。
そこで重要になるのが診療報酬です。
急性期病床を維持した方が収益性が高ければ、病院には急性期を残す経済的な動機が生まれます。
反対に包括期機能を担うことで安定した経営ができる診療報酬体系になれば、病院が自主的に転換する可能性が高まります。
つまり包括期病床を増やせるかどうかは、制度上の名称を変更するだけでは決まりません。
病院が実際に機能転換できる経済的な仕組みを作れるかが重要になります。
2040年に包括期の需要が増える理由
2040年の日本では、高齢者の中でも特に年齢の高い人が増えると見込まれています。
高齢になるほど、一つの病気だけではなく複数の疾患を抱える可能性が高くなります。
救急搬送された場合でも、単純に一つの病気を治療して終わるとは限りません。
治療、リハビリ、栄養管理、退院支援、在宅医療、介護などを連続して考える必要があります。
その一方で、医師や看護師などの医療人材を無制限に増やすことはできません。
高度急性期や急性期の病院には、本当に高度な医療を必要とする患者を集める必要があります。
それ以外の高齢患者を地域で幅広く受け入れ、治療から在宅復帰まで支える包括期機能が重要になるのです。
結論
包括期病床とは、従来の回復期機能を発展させ、高齢者救急の受け入れや早期のリハビリ、在宅復帰支援などをより幅広く担う病床機能です。
これまでの回復期は、主として急性期治療を終えた患者を受け入れ、リハビリなどを行う役割を担ってきました。
しかし2040年に向けて高齢者が増えると、急性期治療と回復期医療を明確に分けるだけでは対応しにくくなります。
高齢者の場合には、救急搬送された段階から治療、リハビリ、退院後の生活までを連続して考える必要があるからです。
そこで高度な急性期医療を必要としない高齢者などを地域で受け入れ、治療と生活機能の回復を一体的に支える包括期の役割が重要になります。
2040年に向けた病床再編とは、単純に急性期病床を減らすことではありません。
高度急性期や急性期には本当に高度な医療を必要とする患者を集め、その一方で増加する高齢患者を包括期で支えるという役割分担へ変えていくことなのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月27日朝刊 2040年の地域医療構想上 病床の取引市場制度 創設を