急性期病床とは何か 日本で病床数が多すぎると指摘される理由編

人生100年時代
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病院に入院する患者は、病気の状態によって必要な医療が異なります。

救急搬送された直後や手術の前後など、病状が大きく変化する時期には、検査や治療を集中的に行わなければなりません。

こうした患者を受け入れる中心的な役割を担うのが急性期病床です。

急性期病床は日本の医療を支える重要な存在ですが、地域医療構想では、その数が医療需要に対して多すぎる地域があることが課題になっています。

なぜ必要なはずの急性期病床を減らす議論が行われているのでしょうか。

そこには、人口構造の変化だけでなく、病院経営を左右する診療報酬の仕組みも関係しています。

急性期病床とは何か

急性期とは、病気を発症した直後や症状が急激に悪化した時期など、患者の状態が不安定で積極的な治療が必要な段階をいいます。

このような患者を受け入れる機能が急性期病床です。

たとえば肺炎が悪化して入院した患者がいるとします。

入院直後には検査を行い、薬を使いながら症状を安定させる必要があります。

骨折して手術が必要になった患者であれば、手術の前後に集中的な治療や管理が必要です。

このように、治療によって病状を安定させる段階を担うのが急性期医療です。

高度急性期とは何が違うのか

急性期と高度急性期は似ていますが、必要となる医療の密度に違いがあります。

高度急性期は、急性期患者の中でも特に状態が重く、非常に密度の高い医療が必要な患者を対象とします。

大きな手術を受けた直後の患者や、生命に関わる状態の患者などが代表的です。

ICUなどで集中的な治療が行われることもあります。

一方、急性期病床では、高度急性期ほどではないものの、入院による積極的な治療が必要な患者を受け入れます。

患者の状態が改善すれば、高度急性期から急性期へ移る場合もあります。

さらに状態が安定すれば、リハビリなどを担う病床や在宅医療へ移っていきます。

つまり患者の状態に応じて、高度急性期、急性期、その後の医療へと役割を引き継いでいく仕組みになっています。

どのような患者が急性期病床に入院するのか

急性期病床には、さまざまな患者が入院します。

救急車で搬送された患者だけではありません。

予定された手術を受ける患者もいます。

肺炎などの感染症で入院治療が必要になる患者もいます。

心疾患や脳血管疾患など、突然発症する病気の患者もいます。

重要なのは、患者の状態がまだ安定しておらず、検査や治療を積極的に行う必要があることです。

そのため急性期病院には、医師や看護師だけでなく、検査や画像診断などを行うさまざまな医療スタッフや設備が必要になります。

急性期病床は長期間入院する場所ではない

急性期病床を理解するうえで重要なのが、基本的に長期間療養するための病床ではないという点です。

急性期医療の目的は、治療によって患者の状態を安定させることです。

病状が安定した後も、すぐに自宅へ戻れるとは限りません。

高齢者の場合には特に、入院中に筋力が低下することがあります。

手術が成功して病気そのものが改善しても、歩行や日常生活に支援が必要になることがあります。

その場合、急性期病床にそのまま入院し続けるのではなく、リハビリなどを担う病床へ移ることが考えられます。

急性期病床を本当に必要とする新しい患者を受け入れるためにも、患者の状態に応じて次の医療機能へ移すことが重要なのです。

なぜ日本では急性期病床が多いのか

地域医療構想では、急性期病床から他の機能への転換が大きなテーマになってきました。

背景には、日本で急性期機能を担うと報告される病床が医療需要に対して多い地域があることがあります。

その理由の一つとして考えられるのが、これまでの医療政策と病院経営の関係です。

病院は行政から病床を与えられているだけの存在ではありません。

診療報酬を受け取りながら経営しています。

そのため、どのような病床を持つとどの程度の収入が得られるのかという経済的な条件が、病院の行動に影響します。

診療報酬とは何か

診療報酬とは、公的医療保険の対象となる医療サービスの公定価格です。

病院が患者に治療を行えば、その内容などに応じて診療報酬を受け取ります。

つまり診療報酬は、病院経営に直接影響します。

政府が特定の医療機能を充実させたい場合、その医療に対する診療報酬を手厚くすることがあります。

病院にとって収益性が高くなれば、その医療機能へ人員や設備を配置する動機が生まれるからです。

逆に、診療報酬が低ければ、その医療機能を維持することが経営上難しくなる場合があります。

診療報酬は単なる医療サービスの値段ではありません。

病院の行動を変える政策手段としての側面も持っています。

急性期病床と診療報酬の関係

急性期病床が増えた背景を考えるときにも、診療報酬は重要です。

急性期医療には多くの医療従事者や設備が必要なため、それに対応した診療報酬が設定されてきました。

急性期医療を充実させる必要がある時代には合理的な政策でした。

しかし、一度病院が急性期を前提とした人員配置や設備投資をすると、その体制を簡単に変更することはできません。

病床機能を変更すれば収入構造も変わります。

設備を変更したり、人員配置を見直したりする必要もあります。

そのため社会全体として急性期病床が過剰になったとしても、個々の病院が自主的に病床を減らしたり機能転換したりするとは限らないのです。

人口減少で急性期病床が過剰になりやすい理由

人口減少が進むと、この問題がさらに大きくなります。

人口10万人の地域に一定数の急性期病床があったとします。

その地域の人口が将来7万人になれば、基本的には急性期医療を必要とする患者数も変化します。

ところが病院や病床は、人口減少と同じ速度で自然に減るわけではありません。

建物も残っています。

病床も残っています。

医療法人も事業を継続しています。

その結果、患者数に対して急性期病床が多くなる可能性があります。

人口減少が特に速い地方では、この問題がより深刻になります。

高齢化すれば急性期病床が不要になるわけではない

ただし、高齢化が進むから急性期医療そのものが不要になるわけではありません。

高齢者にも手術や救急治療は必要です。

むしろ高齢者救急が増える地域もあります。

問題は、どのような急性期医療をどの病院が担うのかということです。

高度な手術などを行う急性期医療は一定の拠点病院へ集約する。

一方、高齢者に多い救急患者については、治療から早期のリハビリや在宅復帰までを連続的に支える。

このように患者の変化に合わせて病院の役割を変える必要があります。

急性期病床を単純に削減するのではなく、必要な急性期機能を残しながら病床構成を変えていくことが重要です。

病床が余っていても簡単には減らせない

病床の稼働率が低下したからといって、病院がすぐに病床を廃止するとは限りません。

一度病床を手放せば、将来簡単に増やせるとは限らないからです。

また病院には建物や設備、人件費などの固定費があります。

病床数を減らしたからといって、費用が同じ割合で減るとは限りません。

さらに地域の病院同士には競争関係もあります。

自分の病院だけ病床を減らし、他の病院が維持すれば、患者や医療従事者が他院へ流れる可能性もあります。

地域全体では病床を減らした方が効率的でも、それぞれの病院にとっては病床を維持する方が合理的という状況が生まれることがあります。

これが地域医療構想による病床再編を難しくしている理由の一つです。

急性期から包括期などへの転換が重要になる

2040年に向けた地域医療では、急性期病床をどのように組み替えるかが重要になります。

特に高齢者の場合、複数の病気を抱えながら救急搬送されることがあります。

治療後にはリハビリや在宅復帰の支援も必要です。

そのため、従来のように急性期治療とその後の医療を明確に分けるだけでは対応しにくくなる可能性があります。

そこで新しい地域医療構想では、包括期という機能が重要になります。

急性期病床をすべて残すのでも、単純に削減するのでもありません。

将来の患者構成に合わせて、必要な急性期を残しながら包括期などへ病床機能を転換していくことが求められます。

結論

急性期病床とは、病気の発症直後や症状が急激に悪化した患者に対して、検査や治療を積極的に行い、病状を安定させる役割を持つ病床です。

救急医療や手術など、日本の医療に欠かせない重要な機能です。

しかし、人口が減少すれば地域の医療需要も変化します。

病院や病床が人口減少と同じ速度で自然に減るわけではないため、患者数に対して急性期病床が過剰になる地域が生まれます。

さらに病院経営には診療報酬が大きく影響するため、地域全体では病床転換が必要でも、個々の病院には急性期病床を維持する経済的な理由が残る場合があります。

2040年に向けた地域医療構想で重要なのは、急性期医療を弱くすることではありません。

本当に高度な急性期医療が必要な患者には十分な医療資源を投入する一方、高齢者の増加などによって需要が高まる医療機能へ病床を移していくことです。

人口が増える時代に作られた病床構成を、人口が減少する時代の患者構成に合わせて組み替えることが求められているのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月27日朝刊 2040年の地域医療構想上 病床の取引市場制度 創設を

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