円安が進むなか、資産の一部を米ドルなどの外貨へ移す動きが広がっています。
しかし資産分散を考える場合、円からドルへ移せばそれで十分なのでしょうか。
円だけに資産を集中させることには円安のリスクがありますが、今度はドルだけに外貨資産を集中させれば、ドル特有のリスクを大きく受けることになります。
そこで考えられるのが通貨分散です。
通貨分散とは、資産を円だけでなく米ドルやユーロなど複数の通貨に分けて保有する考え方です。
さらに一度に外貨へ交換するのではなく、購入する時期を分散する方法もあります。
大切なのは、どの通貨がこれから上がるのかを当てることではありません。
将来の為替相場を正確に予想できないことを前提に、特定の通貨が大きく下落した場合でも資産全体への影響を抑えることが通貨分散の基本的な目的です。
通貨分散とは何か
通貨分散とは、資産を複数の通貨に分けて保有することです。
例えば1000万円の金融資産をすべて円預金として持っていれば、通貨という観点では円に集中しています。
一方、その一部を米ドルやユーロなどで保有すれば、複数の通貨に資産を分散できます。
例えば単純化して、
円資産600万円
米ドル資産300万円相当
ユーロ資産100万円相当
というような構成にする考え方があります。
もちろん、この比率が誰にとっても適切という意味ではありません。
生活費をどの通貨で支払うのか、将来どの国でお金を使うのか、どの程度の為替変動を受け入れられるのかによって適切な割合は異なります。
重要なのは、資産を何の商品で持っているかだけでなく、何の通貨に連動する資産として持っているかを見ることです。
円だけを持つことにも通貨リスクがある
日本で暮らしていると、円預金は値動きがなく安全な資産に見えます。
100万円を普通預金に置いておけば、預金金利などを除けば基本的には100万円です。
しかし海外から見れば円そのものの価値は変動しています。
例えば1ドル100円から150円まで円安になれば、100万円をドル換算した価値は大きく低下します。
さらに日本が輸入しているエネルギーや食料品などの価格が円安によって上昇すれば、同じ100万円で購入できる商品やサービスも減る可能性があります。
つまり円預金には株式のような価格変動がほとんどなくても、
円という通貨の購買力が変化するリスク
があります。
通貨分散は、この円への集中を見直す考え方でもあります。
なぜ米ドルが外貨資産の中心になるのか
日本人が外貨を持つ場合、最も代表的なのが米ドルです。
米ドルは世界の貿易や金融取引で広く利用されている通貨です。
世界の株式市場や債券市場でも米国の存在感は大きく、ドル建ての金融商品も豊富です。
また日本と米国の金利差が大きい局面では、円預金と比べて米ドル預金の金利が高くなることがあります。
こうした理由から、外貨預金では米ドルが中心になりやすくなります。
さらに米国株式や米国債券へ投資している人は、直接ドル預金を持っていなくても実質的に米ドルに関係する資産を多く保有している場合があります。
そのため通貨分散を考えるときには、外貨預金だけを見るのではなく、金融資産全体を見る必要があります。
ドル集中にもリスクがある理由
円への集中を避けるために米ドルを持つことには分散効果が期待できます。
しかし円資産を大量にドルへ移せば、今度はドルへの集中が生じます。
例えば金融資産の大部分を米ドル預金や米国株式、米国債券で保有していたとします。
ドルが円に対して大きく下落すれば、それらの資産の円換算額が一斉に減少する可能性があります。
さらにドルの価値は米国の金融政策や財政政策、景気、インフレ率、政治情勢など様々な要因から影響を受けます。
米国経済が世界最大級だからといって、ドルが常に上昇するわけではありません。
長期間にわたってドル安になる局面もあり得ます。
円だけを持たないという分散を進めた結果、
円からドルへ集中先を変えただけ
にならないようにする必要があります。
ユーロを持つ意味
米ドル以外の代表的な通貨の一つがユーロです。
ユーロは欧州の多くの国で利用される共通通貨です。
米ドルとは異なる経済圏の通貨を持つという意味で、通貨分散の選択肢になります。
例えば米国と欧州では景気の状況や金融政策が同じとは限りません。
米国が利下げをしている一方で欧州では異なる金融政策が取られることもあります。
その結果、ドルとユーロの価値が異なる方向へ動くことがあります。
資産の一部をユーロで保有していれば、ドルだけに外貨資産を集中させる場合とは異なる値動きを期待できます。
ただしユーロにも為替リスクがあります。
欧州の景気や金融政策、域内各国の財政問題などによってユーロの価値が大きく変動する可能性があります。
ユーロを持てば安全になるという意味ではありません。
豪ドルなどの高金利通貨はどう考えるのか
外貨預金では豪ドルなどが選択肢になることもあります。
こうした通貨は日本円より金利が高い局面があり、高い預金金利が注目されることがあります。
しかし高金利だから安全というわけではありません。
通貨の金利が高い背景には、その国のインフレ率や金融政策、経済状況などがあります。
さらに豪ドルなどは資源価格や中国をはじめとする世界経済の動向から影響を受けることがあります。
高い金利を受け取っていても、それ以上に通貨が円に対して下落すれば、円換算では損失になる可能性があります。
通貨分散では、
金利が高い通貨を選ぶ
ことと、
リスクを分散する
ことを同じものとして考えないことが重要です。
複数通貨を持つと何が変わるのか
例えば外貨資産をすべて米ドルで持っている場合を考えます。
ドルが円に対して10%下落すれば、単純化すると外貨資産全体が円換算で大きな影響を受けます。
一方、米ドルとユーロなど複数の通貨に分けていれば、すべての通貨が円に対して同時に同じ割合で下落するとは限りません。
ドルが下落する一方でユーロが比較的安定することもあります。
反対の動きになることもあります。
値動きの異なる資産を組み合わせることで、一つの通貨の変動が資産全体へ与える影響を小さくすることが通貨分散の考え方です。
ただし複数通貨へ分ければ損失がなくなるわけではありません。
世界的に円高が進めば、複数の外貨が同時に円に対して下落することもあります。
分散とは損をしない仕組みではなく、一つの要因に資産全体を左右されにくくする仕組みなのです。
購入する時期を分散する意味
通貨分散には、通貨の種類だけでなく購入時期を分ける考え方もあります。
例えば100万円を米ドルへ交換するとします。
一度に100万円すべてをドルへ交換すれば、その日の為替レートが取得価格を大きく左右します。
1ドル160円で全額をドルへ交換した直後に1ドル140円まで円高になれば、大きな為替差損を抱えることになります。
そこで100万円を、
今月20万円
来月20万円
その翌月20万円
というように複数回に分けて外貨へ交換する方法があります。
為替レートが高いときにも安いときにも購入することで、取得レートを平準化する効果が期待できます。
もちろん必ず有利になるわけではありません。
その後一貫して円安が進めば、最初にまとめて購入した方が結果的に有利だったことになります。
購入時期の分散も、将来の為替相場を当てるのではなく、特定の時点で全額を交換するリスクを小さくする考え方です。
外貨預金だけを見ても本当の通貨分散は分からない
通貨分散を考えるときに注意したいのが、外貨預金だけを見ないことです。
例えば外貨預金では、
円預金800万円
ドル預金200万円
となっていたとします。
これだけを見ると円80%、ドル20%です。
しかし別に米国株式500万円を持っていれば、金融資産全体で見たドルへの影響は大きくなります。
さらに全世界株式型の投資信託を保有していれば、その中にも米国株をはじめとする多くの海外資産が含まれています。
反対に住宅など日本国内の不動産や将来受け取る公的年金、給与などは円と強く結びついています。
本当の意味で通貨分散を考えるなら、
預金
株式
投資信託
債券
不動産
将来の収入
などを含めて家計全体を見る必要があります。
日本で暮らす人には円も必要
通貨分散が重要だからといって、円を減らせば減らすほどよいわけではありません。
日本で生活している人の多くは、日常生活の支払いを円で行います。
食費や家賃、住宅ローン、税金、社会保険料なども基本的には円です。
近い将来使う予定のお金まで外貨にしてしまうと、必要なときに円高になっていれば、外貨を不利なレートで円へ戻さなければならない可能性があります。
そのため生活費や緊急時に必要な資金については、円で確保することにも意味があります。
通貨分散とは円を捨てることではありません。
円も一つの通貨として保有しながら、外貨を組み合わせる考え方です。
結論
通貨分散とは、資産を円だけに集中させず、米ドルやユーロなど複数の通貨に分けて保有する考え方です。
円だけを持っていれば、円安によって海外に対する購買力が低下するリスクがあります。
そこで米ドルなどの外貨を持てば、円安に対する一定の備えになります。
しかし外貨資産をすべてドルへ集中させれば、今度はドルの価値が下落した場合の影響を大きく受けます。
そのためユーロなど異なる通貨を組み合わせることも通貨分散の一つの方法です。
さらに一度に外貨を購入するのではなく、購入時期を分けることで特定の為替レートで全額を交換するリスクを抑える考え方もあります。
ただし分散すれば損失がなくなるわけではありません。
通貨分散の目的は、どの通貨がこれから上昇するのかを当てることではなく、一つの通貨の予想外の下落によって資産全体が大きな影響を受けることを避けることです。
円からドルへ移すだけでは、集中する通貨を変えただけになる場合があります。
円とドル、さらにユーロなど複数の通貨をどう組み合わせるのか。
外貨預金が急速に増える時代だからこそ、外貨を持つことから一歩進んで、どの通貨にどれだけ資産を置くのかという視点が重要になっています。
参考
日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 外貨預金の伸び最大 家計・企業、円から資産分散