オンライン診療が急速に広がると、将来は病院や診療所へ行かなくても医療を受けられるようになり、地域の病院は必要なくなるのではないかと思うかもしれません。
しかし、オンライン診療の普及がそのまま病院の不要論につながるわけではありません。
オンラインでは問診や視診などができますが、医師が患者の体に直接触れる触診には限界があります。血液検査や画像検査、手術など、医療機関でなければできないことも数多くあります。
一方、すべての診察で患者と医師が同じ場所にいる必要もありません。
普段の経過観察はオンラインで行う。検査が必要になれば病院へ行く。患者のそばに看護師がいれば、遠隔地の医師の指示を受けながら一定の検査や処置を補助する。
このように対面とオンラインを組み合わせるハイブリッド医療が、人口減少時代の地域医療を支える重要な考え方になっています。
オンラインだけでは完結できない医療がある
オンライン診療では、医師が患者から症状を聞くことができます。
画面を通じて顔色や表情、皮膚の状態などを確認できる場合もあります。
自宅で測定した体温や血圧などの情報を医師へ伝えることもできます。
しかし、オンラインには明確な限界があります。
医師が患者の腹部を直接触って確認することはできません。
採血も画面越しにはできません。
エックス線やCT、MRIなどによる検査もできません。
手術や救命処置なども同様です。
医療には人と情報だけでなく、設備や医療機器、患者のそばにいる医療従事者が必要な領域があります。
対面診療が必要な場面とは
オンライン診療を利用できるかどうかは、患者の症状によって異なります。
例えば慢性疾患の経過観察などでは、患者の状態が安定していればオンラインを利用できる場合があります。
一方、原因が分からない強い腹痛がある患者では、触診や検査が必要になる可能性があります。
急激な呼吸困難や意識障害などがあれば、オンライン診療より救急医療を優先しなければならない場合があります。
オンライン診療で重要なのは、何でもオンラインで診ることではありません。
オンラインで安全に診療できる患者と、対面診療が必要な患者を適切に判断することです。
オンラインから対面へ切り替える
オンライン診療を始めたからといって、最後までオンラインで完結させなければならないわけではありません。
医師が問診をしている途中で、
触診が必要
血液検査が必要
画像検査が必要
症状が重い
緊急性が疑われる
と判断することがあります。
その場合には対面診療へ切り替えます。
翌日にかかりつけ医を受診すればよい場合もあれば、その日のうちに医療機関へ行く必要がある場合もあります。
緊急性が高ければ救急医療へつなぐ必要があります。
オンライン診療は対面診療と競争する仕組みではなく、必要な対面診療へ患者をつなぐ入口にもなります。
対面とオンラインを使い分ける
これからの医療では、
対面診療か
オンライン診療か
という二者択一ではなくなる可能性があります。
例えば高血圧などで定期的に通院している患者を考えてみます。
毎回必ず病院へ行くのではなく、状態が安定しているときにはオンラインで診察を受けます。
一定の時期になったら病院へ行き、必要な検査を受けます。
検査結果を踏まえた説明をオンラインで受ける場合も考えられます。
患者の状態と診療内容に応じて対面とオンラインを切り替えるわけです。
これがハイブリッド医療の基本的な考え方です。
医師と看護師の場所も分けられる
ハイブリッド医療では、患者が自宅から一人でオンライン診療を受ける方法だけではありません。
患者のそばに看護師がいて、医師だけが遠隔地にいるD to P with Nという方法があります。
医師は画面越しに患者を診察します。
看護師は患者を直接観察できます。
体温や血圧、脈拍、血中酸素飽和度などを測定できます。
電子聴診器などを利用して、患者の心音や呼吸音を遠隔地の医師へ届けることもできます。
必要な条件のもとで、医師の指示を受けながら検査や投薬、点滴、処置などを補助する場合もあります。
医師が患者のそばにいなくても、看護師と医療機器を組み合わせることでオンライン診療の弱点を補えるわけです。
病院は医師がいる建物だけではなくなる
従来、病院や診療所では、
患者
医師
看護師
医療機器
が同じ場所に集まることが基本でした。
オンライン診療が広がると、この関係が変わります。
患者と看護師は地域の病院にいる。
医師は別の地域にいる。
必要な医療機器は患者のそばにある。
医師は通信回線を通じて診察する。
このような医療が可能になります。
病院はすべての医師を常時建物の中に抱える場所ではなく、患者、看護師、医療機器と遠隔地の医師をつなぐ地域医療の拠点という役割も担うようになります。
岩国では病院とオンラインを組み合わせている
今回参考にした岩国市医療センター医師会病院の取り組みは、その分かりやすい例です。
患者は病院を訪れます。
しかし診察する医師は離れた場所にいます。
救急外来の看護師が患者のそばに立ち会い、必要な情報を集めます。
電子聴診器で得られた呼吸音や血中酸素飽和度などを遠隔地の医師が確認します。
必要な処置は病院で受けられます。
ここではオンライン診療によって病院が不要になっているわけではありません。
むしろ病院という場所にある看護師や医療機器と、遠隔地にいる医師を組み合わせることで病院の診療能力を広げています。
オンライン診療で病院の役割分担を進められる
地域にはさまざまな医療機関があります。
地域の診療所があります。
一般的な病院があります。
高度な救急医療を担う大病院があります。
すべての患者が最初から高度な病院へ行く必要はありません。
軽症患者を地域の診療所やオンライン診療で診ることができれば、大病院は重症患者へ医療資源を集中できます。
岩国市医療センター医師会病院では、軽症患者を受け止めることで、緊急性の高い重症患者を担う国立病院機構岩国医療センターへの患者集中を避ける狙いがあります。
オンライン診療は病院を減らすためではなく、病院ごとの役割分担を進める手段にもなります。
移動診療車もハイブリッド医療の一つ
山口市徳地診療所では、移動診療車による巡回診療とオンライン診療を組み合わせています。
月2回の巡回のうち1回は、医師がオンラインで診療します。
患者のいる地域には診療車が行きます。
医師は移動しません。
その結果、医師は移動時間を減らし、外来診療や往診などに時間を使えます。
ここでもオンラインが対面を完全に置き換えているわけではありません。
医師が現地で診察する回と、オンラインで診察する回を組み合わせています。
医療資源が限られる地域ほど、この使い分けが重要になります。
駅や公民館も医療ネットワークに加わる
2026年4月からは、オンライン診療を受診するための施設を駅や公民館などに設けられる仕組みが広がりました。
これまでは受診のための施設についても診療所としての開設が必要となることがあり、設置できる主体に制約がありました。
制度整備によって、患者が医療機関以外の身近な場所からオンライン診療を利用できる可能性が広がっています。
駅。
公民館。
商業施設。
こうした場所が医師との接点になる可能性があります。
医療への入口が病院の玄関だけではなくなっていくわけです。
病院はより高度な医療へ集中できる
オンライン診療で対応できる患者が増えれば、病院は対面でなければ提供できない医療へ資源を集中しやすくなります。
例えば、
手術
高度な画像検査
救急処置
入院治療
集中治療
などです。
医師や看護師の人数には限りがあります。
病院の設備にも限りがあります。
オンラインで対応できる診療まで、すべて病院内の対面診療で行う必要がなくなれば、限られた医療資源をより必要性の高い患者へ振り向けられます。
オンライン診療は病院の仕事を奪うというより、病院が担うべき仕事を整理する可能性があります。
人口減少で医療の固定費が問題になる
人口減少時代には、すべての地域に従来と同じ数の医療施設や医師を配置し続けることが難しくなる可能性があります。
患者数が減っても、病院や診療所を維持するには費用がかかります。
建物があります。
医療機器があります。
医師や看護師などの人員が必要です。
夜間や休日の診療体制も必要になります。
人口が少ない地域ごとに医療機能をすべてそろえるのではなく、複数の地域で医療資源を共有する必要性が高まります。
オンライン診療は、そのためのネットワークをつくる技術の一つです。
医師の診療能力を複数の地域で共有する
従来の医療では、一人の医師が診察できる患者は、その医師がいる病院や診療所へ来られる人が中心でした。
オンライン診療では地理的な制約を一部取り除けます。
一人の医師が自分の病院で対面診療をしながら、時間を区切って遠隔地の患者を診察することもできます。
小児科医など特定の専門医が不足している地域では特に意味があります。
すべての地域に専門医を常駐させるのではなく、必要な診療能力を複数地域で共有する考え方です。
病院という建物単位で医療を考えるのではなく、地域を越えた医療ネットワークとして考えることになります。
病院はなくなるのではなく役割が変わる
オンライン診療が広がれば、一部の通院は減る可能性があります。
しかし、それは病院そのものが不要になることを意味しません。
むしろ病院の役割が変わると考えた方が分かりやすいでしょう。
日常的な問診や経過観察の一部はオンラインへ移る。
患者の身近な場所では看護師などが医療を支える。
専門医は遠隔から複数地域を診る。
検査や手術、入院、救急などは病院が担う。
それぞれの医療を最も適した場所で提供する仕組みに変わっていきます。
オンラインと対面は競争相手ではなく、一つの医療を構成する異なる手段になるのです。
結論
オンライン診療が普及しても、病院がなくなるわけではありません。
オンラインでは問診や視診、一定の経過観察などができますが、触診、詳しい検査、手術、救急処置、入院治療など、対面でなければ提供できない医療が数多くあります。
一方で、すべての患者が毎回病院へ行き、すべての診療で医師と同じ場所にいる必要もありません。
状態が安定しているときにはオンラインで診察する。
検査が必要になれば病院へ行く。
患者のそばに看護師がいる場合には、遠隔地の医師と連携して診療を補助する。
緊急性が高ければ速やかに救急医療へつなぐ。
このように対面とオンラインを患者の状態に応じて組み合わせるのがハイブリッド医療です。
人口減少が進む日本では、すべての地域にすべての診療科の医師を常駐させることが難しくなります。
そこで地域の病院、診療所、看護師、移動診療車、オンライン診療受診施設、そして遠隔地の医師を一つのネットワークとしてつなぐことが重要になります。
オンライン診療は病院をなくす技術ではありません。
むしろ限られた病院や医師を、本当に対面医療を必要とする患者のために残していく技術と考えることができます。
人口減少時代の地域医療では、病院かオンラインかを選ぶのではなく、病院とオンラインをどう組み合わせるかが問われていくのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に