金利が上昇するとマンション価格は下がる。
不動産市場ではよく聞かれる考え方です。
確かに金利上昇は住宅価格にとって大きな下落要因になります。しかし、その影響は自宅を購入する個人と、賃貸マンションを購入する不動産ファンドでは同じではありません。
個人には住宅ローンの返済額を通じて影響します。
一方、不動産ファンドには借入金の調達コストだけでなく、キャップレートや国債利回りとの比較を通じても影響します。
さらに現在のように都市部で家賃が上昇している局面では、賃料収入の増加が金利上昇の悪影響を一部吸収する可能性があります。
金利が上がればマンション価格が必ず下がるという単純な関係ではありません。
住宅ローン金利が上がると個人の購入力が低下する
自宅としてマンションを購入する人にとって、金利上昇の影響は比較的分かりやすいものです。
例えば同じ5000万円を借りる場合でも、住宅ローン金利が上昇すれば毎月の返済額は増えます。
家計には、
毎月の収入
生活費
教育費
老後資金
などがあります。
住宅ローン返済だけを無制限に増やすことはできません。
そのため金利が上昇すると、同じ年収の人が購入できるマンション価格は低下しやすくなります。
マンション価格が下がらなければ購入者が減る
例えば金利が低いときには8000万円のマンションを購入できた世帯でも、金利上昇によって返済負担が増えれば7000万円程度までしか購入できなくなる可能性があります。
それでも売り手が8000万円を求め続ければ、購入できる人が減ります。
購入希望者が減れば、
販売期間が長くなる
値下げ交渉が増える
売り出し価格が下がる
といった動きが起こります。
これが住宅ローン金利の上昇からマンション価格へ下落圧力が伝わる基本的な経路です。
不動産ファンドにも借入金利上昇が効く
不動産ファンドも現金だけでマンションを購入するとは限りません。
金融機関から借入金を調達して投資することがあります。
例えば100億円のマンションを、
自己資金50億円
借入金50億円
で購入するとします。
借入金利が1%なら年間利息は単純計算で5000万円です。
これが2%になれば1億円になります。
金利が1%上昇しただけで年間5000万円の負担増です。
数百億円、1000億円規模の取引になれば、金利変動が投資収益に与える影響は非常に大きくなります。
ファンドは自己資金に対する利回りを見る
借入金を利用する理由は、自己資金に対する投資収益率を高められる可能性があるからです。
これがレバレッジです。
例えば不動産の収益利回りが4%で、借入金利が1%なら、低い金利で資金を調達してより高い利回りの不動産へ投資できます。
ところが借入金利が3%、4%と上昇すれば、その差が小さくなります。
借金を使って不動産を購入するメリットが薄れます。
するとファンドは以前より高い不動産利回りを求めるようになります。
金利上昇はキャップレートにも影響する
ここで重要になるのがキャップレートです。
投資家は不動産だけを見ているわけではありません。
国債など他の金融資産と比較します。
例えば国債利回りが1%のときに、マンションから4%の利回りを得られるなら、その差は3%あります。
国債利回りが2%へ上昇し、マンションの利回りが4%のままなら差は2%に縮小します。
不動産には、
空室
修繕
価格下落
流動性
などのリスクがあります。
それでも4%で投資する価値があるのかという判断が必要になります。
投資家が5%の利回りを要求するようになれば、キャップレートは上昇します。
キャップレート上昇は不動産価格を下げる
例えば年間NOIが4億円のマンション群を考えます。
キャップレート4%なら、単純化した評価額は100億円です。
ところが金利上昇によって投資家が5%のキャップレートを求めるようになれば、
4億円を5%で割る
ため評価額は80億円になります。
NOIはまったく変わっていません。
それでもキャップレートが1%上昇しただけで、理論上の評価額は100億円から80億円へ20%下落します。
不動産市場が金利に敏感なのはこのためです。
個人とファンドでは金利の効き方が違う
個人の住宅購入とファンド投資を比べると違いが分かります。
個人では住宅ローン金利が上昇すると毎月返済額が増え、購入できる価格が下がります。
ファンドでは、
借入コストが上昇する
国債などの利回りが上昇する
要求するキャップレートが上昇する
という複数の経路から価格に影響します。
したがって同じ金利上昇でも、実需市場と投資市場では価格への伝わり方が異なります。
それでも価格が下がらないことがある
では金利が上昇すれば必ずマンション価格が下落するのでしょうか。
そうとは限りません。
重要なのがNOIです。
金利上昇によってキャップレートが上昇しても、同時に家賃が上昇してNOIが増えれば、価格下落を吸収できる可能性があります。
例えばNOI4億円、キャップレート4%なら評価額は100億円です。
キャップレートが4.5%へ上昇しただけなら、評価額は約88億9000万円になります。
しかし家賃上昇などによってNOIが4億5000万円まで増えれば、
4億5000万円を4.5%で割る
ため評価額は100億円になります。
キャップレートが上昇しても、NOIが増えれば価格を維持できる場合があるわけです。
家賃上昇が金利上昇を吸収する
現在の都市部のマンション市場を考えるうえで、この関係は重要です。
金利が上昇すれば本来は不動産価格に下落圧力がかかります。
一方で、
賃料が上昇する
空室率が低い
入居需要が強い
という状況なら、NOIが増える可能性があります。
つまり、
金利上昇によるキャップレート上昇
と
家賃上昇によるNOI増加
が綱引きをすることになります。
どちらの力が強いかによってマンション価格の方向が変わります。
インフレは不動産に二つの影響を与える
インフレ局面では、この関係がさらに複雑になります。
物価上昇を抑えるために金利が上昇すれば、不動産価格にはマイナスです。
しかしインフレによって家賃も上昇すれば、不動産収益にはプラスです。
つまりインフレは、
金利上昇を通じた価格下落圧力
賃料上昇を通じた価格上昇圧力
を同時に生み出す可能性があります。
不動産がインフレに比較的強い資産といわれる背景には、賃料を通じて収益が物価上昇に追いつく可能性があることも関係しています。
築浅の都市型マンションが強い理由
すべてのマンションが家賃を同じように引き上げられるわけではありません。
賃料上昇が期待しやすいのは、
人口流入が続く
駅に近い
築年数が浅い
設備競争力が高い
空室率が低い
といった物件です。
今回海外ファンドが取得したマンション群が大都市圏にあり、平均築年数4年未満という点は重要です。
金利上昇による価格下落圧力があっても、賃料上昇によって収益を増やせる物件なら投資価値を維持しやすくなります。
海外投資家には為替も加わる
海外ファンドの場合には、さらに為替があります。
日本の金利が上昇して不動産価格が多少下落しても、円安が続いていればドル建てでは割安に見える可能性があります。
反対に円高になれば、日本の不動産価格が円建てで変わっていなくても海外投資家にとって購入価格が高くなります。
したがって海外マネーの動きを考える場合には、
日本の金利
キャップレート
NOI
円相場
海外の金利
をまとめて見る必要があります。
金利上昇は物件の選別を強める
金利が低い時代には、多少収益力の弱い不動産でも低コストで資金を調達できるため投資が成立しやすくなります。
しかし金利が上昇すると事情が変わります。
高い稼働率を維持できるか。
家賃を引き上げられるか。
修繕費は増えないか。
人口が流入しているか。
将来売却できるか。
こうした物件ごとの差が重要になります。
その結果、金利上昇によってすべてのマンションが同じ割合で下落するのではなく、優良物件とそうでない物件の価格差が広がる可能性があります。
結論
金利上昇は基本的にマンション価格へ下落圧力をかけます。
しかし、その仕組みは個人と不動産ファンドでは異なります。
自宅を購入する個人では、住宅ローン金利の上昇によって毎月の返済負担が増え、購入できる住宅価格が低下します。
不動産ファンドでは、借入金の調達コストが上昇するだけでなく、国債などとの利回り比較によって要求するキャップレートが上昇し、不動産評価額を押し下げる可能性があります。
一方で都市部の家賃が上昇し、NOIが増えていれば、キャップレート上昇による価格下落を吸収できることがあります。
そのため「金利が上がったからマンション価格は下がる」と一つの数字だけで判断することはできません。
金利がどこまで上昇するのか。
キャップレートがどこまで上昇するのか。
家賃とNOIがどこまで増えるのか。
そして海外マネーがどの程度流入するのか。
これらの力の綱引きによってマンション価格は決まります。
金利上昇時代の不動産市場では、単なる住宅ローン金利だけでなく、マンションそのものが生み出す収益力を見ることが、これまで以上に重要になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「マンション、海外マネー増勢 カナダファンドが1000億円 資金流入で高値続く」
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「投資ファンド 不動産や企業買収活発に」