円安への警戒から外貨預金を増やす人が増える一方、NISAを利用して外国株式や海外の株式に投資する投資信託を購入する人も増えています。
どちらも円以外の資産を持つ方法なので、
外貨預金もNISAで利用できるのではないか
と思う人がいるかもしれません。
しかし現在のNISAでは、外貨預金そのものを購入することはできません。
NISAはすべての金融商品を非課税にする制度ではなく、法律などで定められた一定の投資商品を対象とする制度だからです。
一方、NISAを利用して外国株式や海外株式に投資する投資信託を保有することはできます。
外貨預金と海外投資は、どちらも円以外の資産を持つという点では似ていますが、その仕組みは大きく異なります。
NISAとは何か
NISAは、個人の長期的な資産形成を支援するための少額投資非課税制度です。
通常、株式や投資信託などから得た一定の売却益や配当、分配金には税金がかかります。
NISA口座で対象商品を購入し、制度の要件を満たして運用すれば、こうした利益が非課税になります。
現在のNISAには、
つみたて投資枠
成長投資枠
があります。
つみたて投資枠では、長期の積立や分散投資に適した一定の投資信託などが対象です。
成長投資枠では、一定の上場株式や投資信託など、より幅広い商品へ投資できます。
ただし、銀行や証券会社で購入できる金融商品なら何でもNISAへ入れられるわけではありません。
対象となる金融商品の範囲が決められています。
外貨預金はNISAの対象ではない
外貨預金は現在のNISAの対象商品ではありません。
例えば銀行で米ドルの外貨定期預金を100万円分作ったとしても、その外貨預金をNISA口座で保有することはできません。
したがって外貨預金から受け取る利息や、外貨を円へ戻すことなどによって生じる為替差益について、NISAによって非課税にする仕組みはありません。
ここで重要なのは、
外貨建ての商品だからNISAの対象外
ということではありません。
外国株式や海外株式に投資する投資信託などには、NISAで購入できるものがあります。
違いは通貨ではなく金融商品の種類です。
外貨預金は預金です。
NISAは一定の株式や投資信託などへの投資を非課税にする制度です。
この違いを理解すると、外貨預金がNISAの対象ではない理由も分かりやすくなります。
外貨を持つことと外国株式を持つことは違う
例えば100万円を米ドル預金へ移した場合を考えてみます。
これは円をドルへ交換し、ドルという通貨を銀行へ預ける行為です。
一方、100万円で米国株式を購入した場合には、米国企業の株主になります。
同じように海外株式へ投資する投資信託を購入すれば、その投資信託を通じて海外企業の株式を間接的に保有します。
つまり、
外貨預金は外国通貨を保有する
外国株式は外国企業を保有する
という違いがあります。
円安になった場合には、どちらも円換算した資産価値を押し上げる方向に為替が働くことがあります。
しかし外国株式では、それに加えて企業の株価そのものが変動します。
外貨預金と海外株式投資では、リスクの中身が違うのです。
NISAで外国株式を購入することはできる
成長投資枠では、制度の対象となる外国株式を購入することができます。
例えば証券会社によっては、米国の上場企業の株式などをNISA口座で購入できます。
この場合、制度の要件を満たせば株式の売却益などを非課税にできます。
ただし外国株式には為替リスクがあります。
例えば1ドル150円のときに100ドルの米国株式を購入したとします。
購入時の円換算額は1万5000円です。
その株価が100ドルのままでも、1ドル160円まで円安になれば円換算額は1万6000円になります。
反対に1ドル140円まで円高になれば1万4000円です。
さらに実際には株価そのものも動きます。
外国株式では、
株価変動
為替変動
という二つの要因が円換算した資産価値に影響します。
海外投資信託もNISAで購入できる
NISAで海外資産へ投資する方法として、多くの個人投資家が利用しているのが投資信託です。
例えば全世界株式型や米国株式型の投資信託には、NISAの対象となっている商品があります。
こうした商品を購入すると、投資家が自分でドルへ両替して一社ずつ外国株式を購入しなくても、投資信託を通じて海外の多数の企業へ投資できます。
全世界株式型であれば、米国だけでなく日本や欧州、新興国など幅広い国の企業へ投資できます。
米国株式型であれば、米国企業を中心に投資します。
つまりNISAでは外貨預金をすることはできませんが、外国企業へ投資することによって海外資産を持つことはできます。
ここは混同しやすいポイントです。
円で投資信託を買っても海外資産を持てる
海外投資信託を購入するときに、
自分でドルを買っていないから外貨資産ではない
と思う人もいるかもしれません。
しかし投資信託を円で購入できることと、投資先が円資産であることは別の話です。
例えば米国株式へ投資する投資信託を日本円で購入したとします。
投資家自身は証券口座から円を支払います。
しかし投資信託の中では米国株式などの海外資産が保有されています。
そのため為替ヘッジを行わない商品であれば、ドル円などの為替変動が基準価額に影響します。
円で購入できるから為替リスクがないというわけではありません。
投資信託では、
何円で購入するか
ではなく、
中身として何に投資しているか
を見ることが重要です。
外貨預金とNISAでは税制が違う
外貨預金とNISAを比較すると、税金の違いも重要です。
国内銀行などの外貨預金から個人が受け取る利息には、原則として20.315%の税金がかかります。
また一般的な外貨預金で実現した為替差益は、原則として雑所得として総合課税の対象になります。
一方、NISA口座で対象となる株式や投資信託を保有し、制度の要件を満たした場合、その売却益や一定の配当、分配金は非課税になります。
例えば課税口座で投資信託を購入して100万円の売却益が生じれば、通常はその利益に税金がかかります。
NISA口座で対象商品を購入し、非課税の要件を満たしていれば、その売却益についてNISAによる非課税メリットを受けられます。
長期投資では運用期間が長くなるほど、こうした税制の違いも重要になります。
NISAなら外国株式の税金がすべてゼロになるのか
ここには注意点があります。
NISAだから海外投資に関係する税金がすべてなくなるとは限りません。
特に外国株式の配当については、投資先の国で税金が源泉徴収される場合があります。
NISAで非課税になるのは日本側の課税についての制度です。
外国で課税される税金までNISAによって自動的にすべてなくなるわけではありません。
またNISAでは損失が出た場合の扱いにも特徴があります。
NISA口座で発生した損失は、課税口座の株式などから生じた利益と損益通算することができません。
利益が非課税になる代わりに、損失について課税口座と同じ税制上の取り扱いを受けられない面があります。
非課税というメリットだけでなく、制度全体を理解する必要があります。
外貨預金とNISAでは目的が違う
外貨預金とNISAによる海外投資は、どちらが優れているという単純な関係ではありません。
目的が違うからです。
例えば数年後に海外旅行や海外留学などでドルを使う予定がある場合には、ドルそのものを外貨預金として持つ意味があります。
将来ドルで支払うのであれば、円へ戻す必要がない場合もあります。
一方、10年や20年という長期間で資産形成を行い、世界の企業の成長から収益を得たい場合には、NISAを使った海外株式や投資信託への投資が選択肢になります。
つまり、
外貨を使うために持つ
外貨への分散として持つ
海外企業へ投資する
という目的を分けて考える必要があります。
外貨預金とNISAは、同じ海外資産という理由だけで単純比較するものではありません。
非課税制度を使った海外資産への分散
日本の家計では、円預金を中心に資産を持つ人が多くいます。
そこから海外へ資産を分散する方法として、外貨預金とNISAによる海外投資は異なる役割を持っています。
外貨預金では円を外国通貨へ交換することで、通貨そのものを分散できます。
NISAで海外株式型の投資信託などを購入すれば、世界各国の企業へ投資先を分散できます。
つまり資産分散には、
通貨の分散
国や地域の分散
企業の分散
金融商品の分散
という複数の考え方があります。
外貨預金だけを増やせばすべての分散ができるわけでもありません。
NISAで海外株式だけを買えばすべてのリスクを分散できるわけでもありません。
自分が何への集中を避けたいのかを考えることが重要です。
結論
現在のNISAでは外貨預金そのものを利用することはできません。
NISAはすべての金融商品を非課税にする制度ではなく、一定の株式や投資信託などを対象とする制度だからです。
一方、NISAを利用して外国株式や海外株式に投資する投資信託を購入することはできます。
ここで重要なのは、外貨を持つことと海外資産へ投資することの違いです。
外貨預金では米ドルやユーロなどの外国通貨そのものを保有します。
外国株式や海外株式型の投資信託では、海外企業の株式を直接または間接的に保有します。
そのため外貨預金では主に預金金利と為替変動が重要になりますが、海外株式投資では株価変動と為替変動の両方を考える必要があります。
また税制にも違いがあります。
外貨預金の利息や為替差益にはそれぞれ一定の税金がかかりますが、NISAでは対象となる株式や投資信託の売却益などを非課税にできます。
円だけに資産を集中させないという目的は同じでも、外貨預金とNISAでは分散の方法が違います。
外貨そのものを持ちたいのか、それとも世界の企業へ投資したいのか。
この違いを理解することが、円から海外へ資産を分散するときの第一歩になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 外貨預金の伸び最大 家計・企業、円から資産分散