静かな退職から社員は復活できるのか 仕事との心理的な関係を取り戻す方法編

人生100年時代

静かな退職の状態になった社員は、もう以前のように仕事に意欲を持つことはできないのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。

静かな退職を、社員本人の性格や怠慢ではなく、仕事との心理的な関係が変化した結果として考えると、その関係を再び変えられる可能性があります。

ただし、「もっとやる気を出そう」「前向きに働こう」と本人に求めるだけでは十分ではありません。

静かな退職に至る背景には、頑張り過ぎによる燃え尽き、努力しても報われないという無力感、仕事に刺激や意味を感じられない退屈など、異なる原因があります。

原因が違えば、必要な対応も違います。

社員を静かな退職から復活させるために重要なのは、一律に意欲を高めようとすることではなく、なぜ仕事との心理的な距離が広がったのかを見極めることです。

静かな退職は固定された状態ではない

静かな退職は、一度その状態になれば永久に続くものとは限りません。

仕事への意欲は、職場環境や仕事の内容、人間関係、評価などによって変化します。

以前は仕事に熱意を持っていた人が、何らかの経験をきっかけに仕事との距離を広げることがあります。

反対に、仕事内容が変わったり、上司との関係が改善したり、自分の仕事の意味を再発見したりすることで、再び主体的に仕事へ関わるようになることも考えられます。

重要なのは、静かな退職を社員の属性として扱わないことです。

「あの人はやる気のない人だ」と決めつければ、原因を考える機会を失います。

見るべきなのは、その人自身ではなく、その人と仕事との関係です。

最初に原因を見極める

静かな退職への対応で最初に必要なのは、原因を特定することです。

同じように必要最低限の仕事だけをしている社員でも、その背景は異なる可能性があります。

仕事が多過ぎて疲れ切っている。

頑張っても評価されないと感じている。

仕事内容が簡単過ぎて退屈している。

上司との関係に問題がある。

将来のキャリアが見えない。

仕事そのものに意味を感じられない。

表面的な行動だけを見て同じ対策を行うと、逆効果になる場合があります。

特に重要なのが、燃え尽き型、無力感型、退屈型を分けて考えることです。

燃え尽き型への対応

燃え尽き型の社員は、もともと仕事に熱心だった場合があります。

責任感が強い。

頼まれた仕事を断らない。

周囲の仕事も助ける。

高い成果を求め続ける。

こうした働き方を長期間続けた結果、心身のエネルギーを使い果たしてしまいます。

その結果、「もうこれ以上は頑張れない」と仕事への関与を減らします。

この場合の静かな退職は、本人が怠け始めたというより、自分を守るための心理的な撤退として見ることができます。

燃え尽き型に新しい目標を与えてはいけない

燃え尽きている社員に対して、「最近元気がないから、新しいプロジェクトを任せよう」と考えることがあります。

しかし、これは逆効果になる可能性があります。

本人に不足しているのは刺激ではありません。

エネルギーです。

まず必要なのは、仕事量を減らすことです。

担当業務を見直す。

優先順位を整理する。

不要な仕事を減らす。

休暇を取りやすくする。

周囲から支援を受けられるようにする。

十分に回復してから、次の仕事を考える必要があります。

疲れている人にさらに頑張らせることは、静かな退職からの回復ではありません。

無力感型への対応

無力感型では、社員が「何をしても変わらない」と考えるようになっています。

以前は改善案を出していた。

積極的に仕事を引き受けていた。

成果を出そうと努力していた。

しかし、何度頑張っても評価されない。

提案しても何も変わらない。

上司に相談しても対応してもらえない。

こうした経験が積み重なると、努力すること自体をやめるようになります。

この場合に必要なのは、「もっと頑張ってほしい」と伝えることではありません。

頑張れば何かが変わるという経験を取り戻してもらうことです。

小さな成功体験をつくる

無力感から回復するためには、自分の行動によって結果を変えられるという感覚が重要です。

たとえば、社員が小さな改善案を出したとします。

会社がその提案を検討する。

実行できるものは実行する。

実行できない場合には理由を説明する。

実行した結果がどうなったか本人に伝える。

こうした経験を積み重ねれば、「言っても無駄」という認識を少しずつ変えられる可能性があります。

重要なのは、大きな成功を一度つくることではありません。

自分の行動と結果がつながっていると感じられる経験を継続的につくることです。

承認とフィードバックを増やす

無力感型では、努力が認識されていない場合もあります。

成果だけでなく、そこに至る行動を見る必要があります。

難しい顧客への対応。

業務改善への工夫。

周囲への支援。

問題を早期に発見したこと。

こうした行動について、具体的にフィードバックします。

単に「頑張っているね」と言うだけではなく、「この対応によって問題を早く解決できた」と具体的に伝えることが重要です。

社員が「自分の行動を会社は見ている」と感じられることが、仕事との関係を取り戻す一歩になります。

退屈型への対応

退屈型では、仕事量が少ないことだけが問題なのではありません。

仕事に刺激がない。

能力を十分に使えない。

毎日同じことの繰り返しである。

成長している実感がない。

仕事が誰の役に立っているのか分からない。

こうした状態が続くことで、仕事への関心が低下します。

この場合、単純に仕事量を増やしても問題は解決しません。

退屈な仕事を二倍にすれば、退屈も二倍になる可能性があります。

必要なのは、仕事の質を変えることです。

能力と仕事を合わせる

退屈型では、本人の能力と仕事の難易度が合っているかを見る必要があります。

十分な能力を持っている社員に簡単な仕事だけを長期間任せれば、能力を発揮する機会がありません。

少し難しい仕事を任せる。

新しい役割を経験してもらう。

本人の専門性を生かす仕事を増やす。

改善活動に参加してもらう。

後輩の育成を任せる。

こうした方法によって、仕事に新しい刺激をつくることができます。

ただし、本人が何をしたいのかを確認せずに仕事を増やすだけでは意味がありません。

仕事の意味を再確認する

仕事内容そのものを大きく変えられない場合でも、仕事の意味を確認することはできます。

自分の仕事が最終的に誰の役に立っているのか。

この仕事がなくなると誰が困るのか。

会社全体の中でどのような役割を果たしているのか。

こうしたことを理解できれば、単純に見える仕事にも別の意味を見いだせる場合があります。

特に管理部門など、顧客との接点が少ない仕事では、自分の仕事の結果が見えにくいことがあります。

仕事と最終的な価値とのつながりを伝えることが重要です。

一律のエンゲイジメント施策が効かない理由

企業では、社員のエンゲイジメントを高めるために共通の施策を行うことがあります。

研修を増やす。

社内イベントを開く。

表彰制度をつくる。

新しい福利厚生を導入する。

こうした取り組みに意味がないわけではありません。

しかし、静かな退職の原因が異なれば、同じ施策でも効果は変わります。

燃え尽きている社員に研修を増やせば、さらに負担になります。

無力感を持つ社員に社内イベントへの参加を求めても、会社への信頼は戻らないかもしれません。

退屈している社員に休暇を増やしても、仕事そのものの面白さは変わりません。

全社員に同じ薬を処方するような対応では限界があります。

社員本人との対話が必要になる

原因を見極めるためには、本人との対話が欠かせません。

最近仕事で負担になっていることは何か。

どの仕事に意味を感じているか。

どの仕事を減らしたいか。

もっとやってみたい仕事はあるか。

自分の努力が評価されていると感じるか。

仕事で成長している実感があるか。

こうしたことを確認します。

ただし、形式的な面談を一度行えばよいわけではありません。

本音を話したことで不利益を受けると思えば、社員は本当のことを話しません。

心理的安全性のある関係を日常的につくる必要があります。

以前の状態に戻すことだけが復活ではない

静かな退職からの復活というと、以前のように長時間働き、何でも積極的に引き受ける状態へ戻すことだと考えるかもしれません。

しかし、それが望ましいとは限りません。

特に燃え尽き型の場合、以前の働き方そのものに問題があった可能性があります。

何でも引き受ける。

休まず働く。

周囲の期待にすべて応える。

その結果として燃え尽きたのであれば、元の状態に戻せば同じことが繰り返されます。

必要なのは、持続可能な形で仕事に関われる新しい関係をつくることです。

本人にも仕事を変える余地を与える

会社側の対応だけでなく、社員自身が仕事を調整できる余地も重要です。

仕事の進め方を工夫する。

自分の得意分野を生かす。

関わる人を変える。

仕事の意味を捉え直す。

こうしたジョブクラフティングができれば、本人自身が仕事との関係を再構築できます。

会社がすべてを決めるのではなく、一定の裁量を与えることが、自律性を取り戻すことにつながります。

管理職が原因になっている場合もある

静かな退職への対応を管理職に任せる場合には、注意すべき点があります。

その管理職自身が静かな退職の原因になっている可能性があるからです。

提案を否定する。

成果を認めない。

仕事を一部の社員に集中させる。

細かく管理して裁量を与えない。

評価理由を説明しない。

こうした行動が原因であれば、同じ管理職が「もっとやる気を出そう」と働きかけても効果は期待しにくいでしょう。

個人への対応だけでなく、職場やマネジメントそのものを見直す必要があります。

人的資本経営では回復できる環境をつくる

人的資本経営では、人材を採用し、育成することが重視されます。

しかし、人は常に同じ高い意欲で働けるわけではありません。

疲れることがあります。

仕事への意味を見失うこともあります。

会社への信頼を失うこともあります。

重要なのは、一度エンゲイジメントが低下した社員を切り離すのではなく、再び仕事との良好な関係をつくれる環境を持つことです。

人材への投資には、能力開発だけでなく、働く人が回復できる仕組みも含まれると考える必要があります。

結論

静かな退職から社員が復活することは可能です。

ただし、すべての社員に同じ方法で「やる気を取り戻してもらう」ことはできません。

燃え尽き型には、仕事量を減らし、休息と回復を優先する必要があります。

無力感型には、努力や提案が結果につながり、適切に承認される経験を取り戻してもらう必要があります。

退屈型には、能力に合った仕事や新しい挑戦、仕事の意味を感じられる機会をつくる必要があります。

重要なのは、静かな退職という表面的な行動だけを見るのではなく、その背後にある心理的な過程を見ることです。

また、復活とは以前の働き方に戻すことではありません。

以前の働き方が燃え尽きの原因だったのであれば、同じ状態に戻してはいけません。

本人が無理なく能力を発揮し、仕事に意味を感じ、組織との良好な関係を持続できる新しい働き方をつくることが必要です。

静かな退職を「やる気のない社員」の問題として扱えば、会社は原因を見失います。

「なぜこの人は仕事との距離を広げる必要があったのか」と考えることから、仕事との心理的な関係を取り戻す道が始まるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月19日朝刊 「静かな退職」どう防ぐか(下) 心理的な背景 見極め対応を

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