アクティビストはなぜ現金を持ちすぎる会社を狙うのか 財務が安全でも資本効率が悪いと批判される理由編

経営

企業にとって現金は多いほど安心だと考えがちです。

現金があれば景気が悪化して売上が減っても、給与や仕入代金を支払えます。

銀行からお金を借りられなくなった場合にも備えられます。

設備投資やM&Aなど、大きな投資機会が現れたときにもすぐに動くことができます。

そのため現預金を多く持つ会社は、一般的には財務内容の良い会社と評価されます。

ところがアクティビストから見ると、多すぎる現金は必ずしも長所ではありません。

その現金を何のために持っているのか。

企業価値を高めるために有効利用できているのか。

ここが説明できなければ、余剰現金を抱えて資本効率を悪化させていると批判される可能性があります。

余剰現金とは何か

企業が持っている現金のすべてが余っているわけではありません。

会社を経営するためには一定の現金が必要です。

従業員への給与を支払います。

仕入先への代金を支払います。

税金も納めます。

借入金があれば返済も必要です。

さらに、売上が一時的に減少した場合に備える資金も必要になります。

設備投資や研究開発、M&Aなど将来の成長に使うための資金を確保しておくことにも合理性があります。

これらを考慮してもなお、事業運営に必要な水準を大きく超えて保有している現金があれば、余剰現金とみられる可能性があります。

ただし、余剰現金について全企業に共通する明確な金額基準があるわけではありません。

事業内容によって必要な現金の水準が違うからです。

景気変動の大きい企業と、安定的な収入が入る企業では必要な備えが違います。

重要なのは、会社が現金を持っている理由を合理的に説明できるかどうかです。

現金1000億円でも多すぎるとは限らない

たとえば会社が1000億円の現預金を保有しているとします。

金額だけを見ると非常に多く感じます。

しかし年間の仕入代金や人件費などが数千億円に達する巨大企業であれば、1000億円が多すぎるとは限りません。

一方、小規模な事業しか行っておらず、毎年安定して大きなキャッシュフローが入ってくる会社が1000億円を保有している場合には話が変わります。

大型設備投資の予定もない。

企業買収の計画もない。

研究開発投資を大きく増やす予定もない。

それでも現金が毎年積み上がっているのであれば、

なぜこれだけの現金が必要なのか

という疑問が生まれます。

アクティビストは、この部分に注目します。

財務安全性と資本効率は違う

会社が多額の現金を持つ最大のメリットは財務安全性です。

現金があれば借金の返済に困りにくくなります。

金融危機などで銀行融資が厳しくなっても耐えやすくなります。

大きな赤字が発生しても、すぐに経営危機になる可能性を抑えられます。

その意味では、現金を多く持つ経営には合理性があります。

一方、株主から見ると別の問題があります。

株主は会社に資本を提供しています。

会社には、その資本を使って利益を生み出し、企業価値を高めることが期待されています。

ところが資金を大量に現金として保有しているだけでは、大きな収益を生み出せない場合があります。

安全性を高めることと、資本を効率的に利用することは同じではないのです。

現金をためるとROEにどう影響するのか

資本効率を見る代表的な指標がROEです。

ROEは自己資本利益率です。

基本的には当期純利益を自己資本で割って計算します。

たとえば自己資本1000億円の会社が年間100億円の利益を出しているとします。

ROEは10%です。

その会社が毎年100億円の利益をほとんど株主へ還元せず、社内に蓄積していったとします。

利益の蓄積によって自己資本が2000億円まで増えたとします。

それでも年間利益が100億円のままであれば、ROEは5%になります。

会社の利益額は変わっていません。

財務内容はむしろ安全になっています。

それでもROEは低下します。

株主から預かった資本などに対して、十分な利益を生み出せていない状態になるからです。

現金を持つこと自体がROEを悪化させるわけではない

ここで注意したい点があります。

現金を持っているだけで機械的にROEが悪化するわけではありません。

重要なのは、利益を社内に残して自己資本が増えているにもかかわらず、その資本に見合う利益成長を実現できているかどうかです。

たとえば現金を蓄積した後、その資金を新工場へ投資して利益を大きく増やせるのであれば問題ありません。

有望な企業を買収し、将来の利益を増やすこともできます。

研究開発に投資して新しい事業を育てることもできます。

つまりアクティビストが問題視するのは、

現金が多いこと

そのものではありません。

現金を保有し続けながら、企業価値を高める使い道を示せていないことです。

株主から見れば現金にもコストがある

会社の現金は会社のお金だから、持っていても費用はかからないと思うかもしれません。

しかし企業財務では、株主から提供された資本にもコストがあると考えます。

株主は、その会社に投資しなければ別の会社へ投資できました。

国債やその他の金融商品を購入することもできました。

それでもその会社へ投資している以上、リスクに見合ったリターンを期待します。

これが株主資本コストという考え方につながります。

会社が大量の資金を低い収益率のまま保有していると、

株主が期待する収益率に見合う使い方をしていない

と判断される可能性があります。

そのため現在では、単に利益を出しているかだけでなく、資本コストを上回る収益を生み出しているかが重要になっています。

なぜ増配を要求するのか

会社に余剰現金があると判断したアクティビストが求める代表的な対応が増配です。

配当とは、会社が得た利益の一部などを株主へ分配するものです。

会社に100億円の余剰資金があり、企業価値を高める有効な投資先がないのであれば、その資金を株主へ返すという考え方があります。

株主は受け取った配当を別の投資先へ振り向けることができます。

会社の中で低い収益しか生まない資金として眠らせておくより、株主へ返した方が資本市場全体では効率的だという考え方です。

ただし、増配すれば必ず企業価値が高まるわけではありません。

本来成長投資に使うべき資金まで配当してしまえば、将来の競争力を低下させる可能性があります。

なぜ自社株買いを要求するのか

もう一つ代表的なのが自社株買いです。

自社株買いとは、会社が自分の会社の株式を市場などから買い戻すことです。

余剰資金を使って株式を買い戻せば、会社が保有する現金は減少します。

買い戻した自己株式を消却すれば、発行済株式数も減少します。

たとえば会社全体の利益が100億円で、発行済株式数が1億株なら、単純化すると1株当たり利益は100円です。

発行済株式数が8000万株になり、利益が100億円のままであれば、1株当たり利益は125円になります。

このように自社株買いは、資本構成や1株当たり指標に影響します。

特に自社の株価が本来の企業価値より割安だと経営陣自身が判断している場合、自社株買いが合理的な資本配分になることがあります。

成長投資なら現金を使ってもよい

アクティビストが余剰現金を問題視すると聞くと、

現金はすべて配当や自社株買いに回すべきだ

という話に見えるかもしれません。

しかし、必ずしもそうではありません。

会社に有望な投資機会があるなら、成長投資に使うことも重要です。

新しい工場を建設する。

研究開発を増やす。

人材へ投資する。

デジタル化を進める。

新規事業を立ち上げる。

企業を買収する。

こうした投資によって資本コストを上回るリターンを期待できるのであれば、会社に資金を残す合理性があります。

問題は、現金を持つか株主へ返すかという二者択一ではありません。

最も企業価値を高められる場所へ資金を配分できているかどうかです。

現金を持つ理由を説明できることが重要になる

企業側にとって重要なのは、単純に現預金を減らすことではありません。

なぜその金額を保有しているのかを説明できることです。

事業運営に500億円必要です。

金融危機などへの備えとして300億円を確保します。

今後3年間で設備投資に1000億円使います。

M&Aにも一定額を確保します。

それを超える資金については株主還元を行います。

このように資金の使い道を示すことができれば、多額の現金を持っていることにも合理性を説明できます。

逆に、

昔から現金を多めに持っている

特に使い道は決まっていない

何かあったときのために残している

という説明だけでは、株主から納得を得ることが難しくなります。

結論

アクティビストが現金を多く持つ会社を狙うのは、現金そのものが悪いからではありません。

企業には運転資金も必要です。

景気悪化への備えも必要です。

将来の設備投資やM&Aのために資金を確保することにも合理性があります。

しかし、必要な水準を超える現金を長期間保有し、その資金に見合う利益を生み出せていなければ、資本効率が低いと評価される可能性があります。

そこでアクティビストは、増配、自社株買い、成長投資などを通じて資金を有効活用するよう求めます。

これからの企業に問われるのは、

現金はいくら持っているか

だけではありません。

なぜその現金を持っているのか。

いつ、何に使うのか。

その使い方によって資本コストを上回る収益を生み出せるのか。

ここまで説明できることが重要になります。

財務の安全性を高めるために現金を持つ経営から、必要な安全性を確保しながら資本をどう働かせるかを考える経営へ。

アクティビストが現金の多い会社に注目する背景には、企業に求められる資本政策そのものの変化があります。

参考

日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 日本企業の準備不十分 影響強めるアクティビスト

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