マンション価格の上昇が続くなか、新築や築浅物件だけでなく、築40年、50年といった築古マンションを購入し、自分好みにリノベーションする選択肢が注目されています。
築古マンションは、比較的購入価格を抑えられることに加え、立地条件のよい物件を見つけやすいという魅力があります。室内を全面的に改修すれば、新築に近い感覚で暮らすこともできます。
しかし、マンションのリノベーションは、室内を自由につくり替えられるわけではありません。
建物の構造、配管、梁、床、窓、管理規約などによって、物理的あるいはルール上、変更できない部分があります。
築古マンションを購入するときには、現在の室内がきれいかどうかだけでなく、購入後に「何を変えられて、何を変えられないのか」を確認することが重要です。
築古マンションでは変えられない部分があります
マンションの住戸は、大きく専有部分と共用部分に分けて考える必要があります。
一般的に、住戸内部の壁紙や床材、キッチン、浴室などは専有部分に含まれ、一定の範囲で所有者がリフォームできます。
一方、建物の構造を支える柱や梁、外壁などは共用部分です。
窓やサッシも、住戸の内側にあるため自分の所有物のように見えますが、一般的には共用部分として扱われます。そのため、所有者が自由に交換できるとは限りません。
築古マンションの場合、この「変えられない部分」が希望するリノベーションの障害になることがあります。
購入後に設計を始めてから制約に気づくのでは遅いため、購入前の確認が重要になります。
太い柱や大きな梁が間取りを制約します
築古マンションでは、最近のマンションと比較して、柱や梁が室内に大きく張り出している物件があります。
柱や梁は建物を支える重要な構造部分ですから、邪魔だからといって簡単に撤去することはできません。
例えば、キッチンの位置を大きく移動させたいと考えたとします。
キッチンには給排水設備だけでなく、換気扇から外へ空気を出すための排気ダクトが必要です。
ところが、希望するダクトの経路に大きな梁があると、ダクトを通すことが難しくなり、キッチンを希望する場所に設置できない可能性があります。
間取り図だけを見ていると自由に配置できそうでも、実際には建物の構造によって選択肢が限定されるのです。
壁をすべて撤去できるとは限りません
中古マンションを全面的にリノベーションするときには、室内を一度スケルトン状態にして間取りをつくり直す方法があります。
しかし、ここでも建物の構造が問題になります。
マンションには、柱と梁によって建物を支える構造だけでなく、壁そのものが建物を支える役割を持つ構造があります。
構造上重要な壁であれば、室内にある壁だからといって自由に撤去することはできません。
例えば、細かく区切られた古い間取りを、壁の少ない広いリビングに変更したいと思っても、構造上必要な壁があれば希望通りにはできません。
築古マンションでは「全部壊して一からつくれば好きな間取りにできる」と考えないことが大切です。
水回りを動かすと天井が低くなることがあります
キッチン、浴室、洗面所、トイレといった水回りも、自由に移動できるとは限りません。
水回りには給水管だけでなく排水管があります。
特に排水では、水が自然に流れるように配管に適切な勾配を設けなければなりません。
そこで床を二重にして、その下に配管スペースを設ける方法があります。
これによって水回りの配置の自由度を高めることができますが、床面が高くなります。
もともと天井の低い築古マンションで床を高くすると、床から天井までの高さがさらに小さくなり、圧迫感が生じる可能性があります。
間取りの自由度を高めることと居住空間の高さを確保することが両立しないケースもあるのです。
床のリノベーションでは騒音にも注意が必要です
見落としやすいのが床の問題です。
マンションでは、自分の住戸の床を変更した結果、階下の住戸に生活音が伝わりやすくなることがあります。
特に注意したいのが、コンクリートやモルタルなどを使った硬い床です。
土間は、自転車やアウトドア用品を置いたり、日曜大工をしたりできるため人気があります。
しかし、硬い床は衝撃を吸収しにくいため、物を落とした音や歩行音などが階下へ伝わりやすくなる場合があります。
自分の部屋のデザインだけを考えて床を選んでしまうと、入居後に騒音問題へ発展する可能性があります。
マンションでは、上下左右に別の住戸が存在することを前提としてリノベーションを考える必要があります。
管理規約と使用細則がリノベーションを制限します
構造上は施工可能でも、マンションのルールによって工事が認められない場合があります。
そこで重要になるのが管理規約や使用細則です。
マンションによっては、床材について一定の遮音性能を求めたり、特定の工法を禁止したりしています。
工事を行う際に管理組合への申請や承認が必要になることもあります。
さらに、過去に騒音などのトラブルが発生した結果、管理組合がルールを厳しくするケースもあります。
同じ築年数、同じような構造のマンションであっても、できるリノベーションが同じとは限らないのです。
中古マンションを購入してリノベーションするのであれば、売買契約を結ぶ前に管理規約や使用細則を確認する必要があります。
窓やサッシは自由に交換できないことがあります
築古マンションでは断熱性能も重要な問題です。
古いマンションではアルミサッシや一枚ガラスが使われていることもあり、冬の寒さや夏の暑さ、結露などが気になることがあります。
そこで窓そのものを高性能なものへ交換したくなります。
しかし、マンションの窓やサッシは建物の外観や性能に関係するため、一般的には共用部分として扱われます。
そのため、一つの住戸だけで自由に交換できない場合があります。
一方、既存の窓の内側に新しい窓を設置する内窓であれば、対応できるケースがあります。
築古マンションの断熱性能を改善するときには、単純に設備を交換できるかではなく、専有部分と共用部分の境界を確認する必要があります。
築古物件では耐震性も確認する必要があります
リノベーションによって室内を新しくしても、建物そのものが新しくなるわけではありません。
築古マンションでは耐震性の確認も重要です。
特に1981年の建築基準法改正以前の基準で設計された建物については、一般に旧耐震基準の建物として扱われます。
ただし、築年数や旧耐震基準であるという事実だけで、個々の建物の安全性を単純に判断することはできません。
耐震診断や耐震改修の実施状況、建物の構造、維持管理の状態なども確認する必要があります。
また、一階部分を柱中心の空間とするピロティ形式など、建物の形状についても確認しておきたいところです。
室内だけではなく建物全体を見る視点が必要になります。
地盤や立地条件もリノベーションでは変えられません
リノベーションで変えられないものは建物だけではありません。
そのマンションが建っている土地も変えることはできません。
地盤の状態、災害リスク、周辺環境、駅までの距離などは、どれだけ室内にお金をかけても変更できません。
その意味では、築古マンション選びでは、室内設備よりも「後から変えられない条件」を優先して確認する考え方が重要です。
古いキッチンや浴室は交換できます。
壁紙や床材も変更できます。
しかし、建物の構造や地盤、立地、管理状態などは、一人の区分所有者の判断では変えることができません。
購入前に専門家へ相談することが重要です
築古マンションで特に避けたいのは、物件を購入した後に希望するリノベーションができないと判明することです。
そのため、購入前の内覧段階から、リノベーション会社や建築士などの専門家に相談する方法があります。
希望する間取りを伝えたうえで、柱や梁、壁、配管、天井高などを確認してもらえば、実現可能性をある程度判断できます。
管理規約や使用細則についても、仲介会社などを通じて事前に入手し、工事に関する制限を確認しておくことが大切です。
マンション管理士など、管理規約やマンション管理に詳しい専門家へ相談する方法もあります。
物件価格だけでなく、リノベーション費用や将来の修繕負担まで含めて判断することが、築古マンション購入では重要になります。
結論
築古マンションは、新築マンションの価格が上昇するなかで、住宅取得の有力な選択肢になっています。
購入価格を抑え、その分をリノベーションに使えば、自分の生活に合った住まいをつくることもできます。
しかし、リノベーションをすれば何でも自由に変更できるわけではありません。
柱や梁、構造壁、配管、天井高、窓やサッシなど、建物の構造上変えにくいものがあります。さらに管理規約や使用細則によって、施工方法そのものが制限されることもあります。
そして、耐震性や地盤、立地といった条件は、室内をどれだけきれいにしても変えることができません。
築古マンション選びでは、古い設備に目を奪われるのではなく、「後から変えられるもの」と「購入後も変えられないもの」を分けて考えることが大切です。
リノベーションを前提として購入するのであれば、物件を買ってから専門家に相談するのではなく、買う前に専門家に確認してもらうことが失敗を防ぐポイントになります。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 夕刊 築古物件 リノベ不可の盲点
日本経済新聞 2026年8月18日 夕刊 耐震性、地盤の固さも重要