日本で働いた外国人が母国へ帰国するとき、これまで支払った年金保険料はどうなるのでしょうか。
日本の公的年金は、一定の受給資格期間を満たせば将来年金として受け取ることができます。しかし、日本に数年間だけ滞在して帰国する外国人の場合、日本の年金を受け取るために必要な期間を満たせないことがあります。
そこで設けられているのが脱退一時金です。
外国籍の人が日本の公的年金制度に一定期間加入した後、日本を離れた場合に、一定の要件を満たせば一時金を受け取ることができます。
短期間日本で働く外国人にとって重要な制度ですが、受け取ればそれで得をするという単純な制度ではありません。
脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎となった日本の年金加入期間がなくなるためです。
脱退一時金とは何か
脱退一時金は、日本国籍を持たない人が国民年金や厚生年金に加入した後、日本を出国した場合などに一定の要件を満たすことで請求できる制度です。
日本の公的年金は、老後になったときに年金を受け取ることを基本としています。
しかし、日本に短期間だけ滞在する外国人の場合、保険料を納めても老齢年金の受給資格を得られないまま帰国することがあります。
こうした外国人について、納めた保険料と給付の関係を一定程度調整する役割を持つのが脱退一時金です。
ただし、支払った保険料がそのまま全額返金される制度ではありません。
加入期間などに応じて計算された一定額が支給されます。
脱退一時金を受け取れる外国人
脱退一時金は、外国人であれば誰でも受け取れるわけではありません。
基本的には、日本国籍を持っていないこと、日本の公的年金制度の被保険者ではなくなっていること、一定以上の保険料納付済期間などがあること、日本国内に住所を持っていないこと、老齢年金の受給資格期間を満たしていないことなどの要件があります。
また、障害基礎年金や障害厚生年金などの年金を受ける権利を持ったことがある場合には、原則として脱退一時金を受け取ることはできません。
典型的なのは、日本で数年間働いた外国人が勤務先を退職し、日本から母国へ帰国するケースです。
技能実習生や特定技能外国人などにとっても関係の深い制度です。
国民年金にも脱退一時金がある
自営業者や学生などとして国民年金の第1号被保険者となり、自分で国民年金保険料を納めていた外国人についても脱退一時金があります。
国民年金の脱退一時金は、保険料を納付した期間などに応じて支給額が決まります。
一定期間以上の保険料納付済期間などが必要であり、短期間でも国民年金に加入していれば必ず受け取れるわけではありません。
また、保険料の全額免除を受けていた期間については、実際に保険料を負担していないため、そのまま納付済期間と同じように扱われるわけではありません。
国民年金の脱退一時金は、自分で保険料を納めてきた外国人が帰国するときに検討する制度ということになります。
厚生年金にも脱退一時金がある
会社などで働いて厚生年金に加入していた外国人についても脱退一時金があります。
厚生年金保険料は、原則として勤務先と従業員が折半して負担します。
毎月の給与や賞与から本人負担分が差し引かれ、会社が事業主負担分と合わせて納付しています。
厚生年金の脱退一時金は、厚生年金の被保険者だった期間や標準報酬などをもとに計算されます。
そのため、同じ期間日本で働いていたとしても、給与水準などによって受け取る金額は異なります。
ここでも注意したいのは、給与から差し引かれた厚生年金保険料がそのまま全額戻ってくるわけではないということです。
国民年金と厚生年金では計算方法が違う
国民年金と厚生年金では、そもそもの保険料の仕組みが異なります。
国民年金は原則として定額の保険料を納めます。
これに対して厚生年金は、給与や賞与などをもとに保険料が決まります。
したがって、脱退一時金についても計算方法は異なります。
国民年金では保険料を納めた月数などが重要になります。
厚生年金では加入期間に加えて、加入していた期間の標準報酬なども支給額に影響します。
外国人本人が自分の加入していた制度を確認することが、脱退一時金を考える第一歩になります。
支給額計算の対象は原則最大60カ月
脱退一時金には、支給額の計算対象となる加入期間に上限があります。
現在は、原則として最大60カ月、つまり5年間が支給額計算の対象となります。
以前は最大36カ月でしたが、2021年4月から上限が60カ月へ引き上げられました。
外国人材の受け入れが拡大し、日本で比較的長く働く外国人が増えたことなどが背景にあります。
例えば、日本で7年間年金制度に加入した外国人が帰国したとしても、脱退一時金が単純に7年間分計算されるわけではありません。
一定の上限が設けられていることを理解しておく必要があります。
請求期限は原則として出国後2年以内
脱退一時金は、日本を出国すれば自動的に支給されるものではありません。
本人が請求手続きをする必要があります。
原則として、日本国内に住所を持たなくなった日から2年以内に請求しなければなりません。
帰国してから請求しようと思っていて、そのまま忘れてしまうと請求期限を過ぎる可能性があります。
そのため、帰国前から制度を確認し、必要な書類や請求方法を把握しておくことが重要です。
勤務先に外国人従業員がいる場合には、退職や帰国時に脱退一時金という制度があることを案内することも考えられます。
出国前に請求できる場合もある
脱退一時金という名称から、日本を出国した後でなければ手続きできないようにも見えます。
しかし、住民票の転出届を提出したうえで出国する場合などには、出国前に請求書を提出できるケースもあります。
ただし、実際に脱退一時金を受け取るためには、日本国内に住所を有しないなどの支給要件を満たす必要があります。
出国日や住民票の転出日、請求書の提出時期によって扱いが変わる可能性があるため、帰国直前になって慌てて手続きをするのではなく、事前に確認することが大切です。
脱退一時金を受け取ると加入期間が消える
脱退一時金について最も注意したいのが、この点です。
脱退一時金を受け取ると、その支給額の計算の基礎となった期間について、日本の年金制度に加入していなかったものとして扱われます。
つまり、お金を受け取ったうえで、同じ加入期間を将来の日本の年金にも使うということはできません。
例えば、日本で5年間厚生年金に加入していた外国人が帰国して脱退一時金を受け取れば、その対象となった5年間は将来の日本の年金を計算するときの加入期間として残りません。
ここが単なる保険料の払い戻しとは大きく異なるところです。
再び日本で働く可能性がある人は注意が必要
帰国した外国人が、将来再び日本で働く可能性もあります。
例えば、最初に5年間日本で働いて帰国し、脱退一時金を受け取った後、数年後に再び日本へ来て働くケースです。
最初の5年間について脱退一時金を受け取っていれば、その対象期間を後から復活させて、新しい加入期間と合算することは原則としてできません。
一方、脱退一時金を受け取らずに加入記録を残していれば、再来日後の加入期間と合わせて将来の受給資格につながる可能性があります。
今後日本へ戻る可能性が高い人ほど、目先の一時金だけで判断しないことが重要になります。
社会保障協定がある国の人はさらに注意が必要
外国人の母国と日本との間に社会保障協定がある場合には、さらに慎重な判断が必要です。
社会保障協定のなかには、日本と相手国の年金加入期間を通算できるものがあります。
例えば、日本での加入期間だけでは老齢年金の受給資格期間を満たさなくても、母国での年金加入期間と合わせることで受給資格を満たせる可能性があります。
ところが、脱退一時金を受け取ってしまうと、その対象となった日本の加入期間は期間通算に利用できなくなります。
そのため、社会保障協定の対象国の人にとっては、脱退一時金を受け取るか、日本の年金加入記録を残すかという選択が将来の年金額に影響する可能性があります。
脱退一時金は必ず得になる制度ではない
日本から帰国するときにまとまったお金を受け取れるのであれば、脱退一時金を請求した方が得だと考えたくなります。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
将来再び日本で働く可能性があるのか、母国と日本の間に社会保障協定があるのか、日本と母国の加入期間を通算できるのか、将来日本の年金を受給できる可能性があるのかによって判断は変わります。
特に、日本での加入期間が長くなるほど、脱退一時金を受け取ることによって失われる年金加入記録の意味も大きくなります。
脱退一時金は帰国時の精算制度であると同時に、将来の年金受給権との選択という側面を持っているのです。
結論
外国人の脱退一時金とは、日本国籍を持たない人が日本の国民年金や厚生年金に一定期間加入した後、日本を離れた場合などに、一定の要件を満たすことで受け取れる一時金です。
現在は、支給額計算の対象となる加入期間が原則最大60カ月となっています。
また、請求には期限があり、原則として日本国内に住所を持たなくなった日から2年以内に手続きをする必要があります。
最も重要なのは、脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎となった日本の年金加入期間がなくなることです。
将来再び日本で働く可能性がある人や、社会保障協定によって母国の年金加入期間と通算できる人の場合には、一時金を受け取らず加入記録を残した方が将来有利になることも考えられます。
脱退一時金は、単に支払った年金保険料を取り戻す制度ではありません。
帰国時に一時金を受け取るのか、それとも日本での加入期間を将来の年金につなげるのかを考える制度として理解することが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日朝刊 国民年金の納付、外国人低調55%