日本で暮らす外国人が増えるなか、社会保障制度への加入をどのように確保するかが重要な課題になっています。
その一つが国民年金です。
外国人の国民年金の2023年度の最終納付率は55.0%でした。2022年度の49.7%からは改善したものの、日本人を含めた全体の85.6%とは大きな差があります。
外国人も日本人と同じように国民年金への加入義務があります。それにもかかわらず、なぜ納付率にこれほど大きな差が生じるのでしょうか。
背景には、単なる未払いの問題だけではなく、日本の年金制度の分かりにくさ、言語の壁、短期間で帰国する外国人にとって年金のメリットを実感しにくいこと、さらに社会保障協定の整備状況などがあります。
外国人にも国民年金への加入義務がある
国民年金は、日本国籍を持つ人だけの制度ではありません。
原則として、日本国内に住所を持つ20歳以上60歳未満の人は、国籍にかかわらず国民年金の被保険者になります。
外国人であっても、日本に住民登録をして一定の条件を満たせば加入対象になります。
ただし、会社員などとして厚生年金に加入している外国人は、自分で国民年金保険料を納める必要はありません。
厚生年金の保険料には基礎年金に相当する部分も含まれており、勤務先が給与から保険料を差し引いて納付するためです。
在留外国人の約7割は厚生年金に加入しているとされます。
問題になるのは、残る約3割です。
厚生年金が適用されない事業所で働く人や留学生などは、国民年金保険料を自分で納めなければなりません。
外国人の国民年金納付率は55.0%
外国人のうち、全額免除や納付猶予を受けている人などを除いた国民年金の納付率算定対象者は、2026年3月末時点で36万人に上ります。
2023年度の最終納付率は55.0%でした。
2022年度の49.7%から5ポイント以上改善していますが、日本人を含む全体の85.6%と比較すると約30ポイントの差があります。
つまり、自分で国民年金保険料を納める必要がある外国人については、納付すべき保険料のかなりの部分が未納になっていることになります。
外国人の増加が続けば、この問題は国民年金制度全体にとっても無視できないものになります。
加入手続きをしなくても国民年金の対象になる
外国人が日本に転入した場合、市区町村の窓口などで国民年金の加入手続きをすることになります。
しかし、本人が手続きをしなかったからといって、加入義務そのものがなくなるわけではありません。
必要な加入手続きが行われていない場合には、日本年金機構が住民基本台帳の情報などをもとに職権で適用することがあります。
その後、保険料の納付書が住所に送られます。
本人は納付書を使って保険料を納めるほか、口座振替やクレジットカードなどによる納付方法を利用することもできます。
制度上は外国人についても加入から納付までの仕組みが用意されています。
それでも納付率が低いところに、この問題の難しさがあります。
日本の年金制度そのものを知らない外国人もいる
大きな理由の一つが制度への理解不足です。
日本で生まれ育った人であっても、国民年金と厚生年金の違いや、保険料の免除、納付猶予、老齢年金、障害年金、遺族年金などの仕組みをすべて理解するのは簡単ではありません。
外国から来た人であれば、さらにハードルが高くなります。
自国には日本と同じような年金制度がない場合もあります。
市区町村から突然納付書が送られてきても、なぜ支払わなければならないのか理解できない人もいるでしょう。
日本年金機構は、やさしい日本語による案内や英語による催告、15カ国語のリーフレットなどを活用しています。
それでも、制度の存在を知らせることと、制度の意味を理解してもらうことは別の問題です。
短期滞在では年金のメリットを感じにくい
もう一つ重要なのが、外国人特有の事情です。
日本の老齢基礎年金を受給するには、原則として10年以上の受給資格期間が必要です。
ところが、外国人のなかには数年間日本で働いた後、母国へ帰国する人も少なくありません。
例えば、日本に5年間滞在する予定の人から見れば、毎月保険料を納めても日本の老齢年金を受け取れないのではないかという疑問が生じます。
もちろん、一定の条件を満たして帰国する外国人には脱退一時金の制度があります。
また、老齢年金だけではなく、日本の公的年金には障害年金や遺族年金という保険機能もあります。
それでも、老後の給付だけに注目すれば、短期滞在者ほど保険料を支払うメリットを感じにくい構造があります。
社会保障協定が重要になる
そこで重要になるのが、日本と外国との社会保障協定です。
国をまたいで働く人の場合、日本と母国の双方で社会保険料を負担する二重加入が発生したり、それぞれの国で加入期間が短いため年金の受給資格を得られなかったりすることがあります。
こうした問題を解消するために結ばれるのが社会保障協定です。
協定の内容は相手国によって異なりますが、年金加入期間の通算が認められる国との間では、日本での加入期間と相手国での加入期間を合わせて受給資格を判定できます。
例えば、日本で5年間、母国で20年間年金制度に加入していた場合、それぞれを完全に切り離すのではなく、加入期間を通算して受給資格を判定できる場合があります。
日本での加入期間が10年に達していなくても、日本で加入していた期間に応じた年金を受け取れる可能性が生まれます。
外国人にとって、日本で年金保険料を納める意味が大きく変わる仕組みです。
社会保障協定がない国との格差が生じる
問題は、日本に住む外国人すべての出身国との間で社会保障協定が整備されているわけではないことです。
協定の対象となっていなければ、国境をまたいだ加入期間の通算などができない場合があります。
日本で働く外国人の出身国が多様化するほど、社会保障協定のネットワークを広げる重要性も高まります。
外国人に保険料の納付を求めるのであれば、将来どのような給付につながるのかを分かりやすく示すことも必要です。
納付を強化する政策と、外国人が制度のメリットを受けられる環境整備は、セットで考える必要があります。
在留資格の審査にも年金納付状況が反映される
外国人の国民年金を巡っては、今後さらに大きな変化があります。
2027年6月から、在留資格の審査に国民年金保険料の納付状況も加味される予定です。
出入国在留管理庁がマイナンバーを利用した情報連携によって納付状況を把握する仕組みです。
これまで年金保険料の未納と在留資格の審査を別々の問題として考えていた外国人にとって、影響は大きくなります。
保険料を納付しているかどうかが、日本で継続して生活し働くための在留手続きにも関係するようになるためです。
納付率を引き上げる効果が期待される一方、制度を十分に理解していなかった外国人への周知や、支払いが困難な人に対する免除や猶予制度の案内も一段と重要になります。
未納と免除はまったく違う
ここで注意したいのが、保険料を払えない場合に、そのまま未納にしてはいけないということです。
国民年金には、所得などの条件を満たした場合に利用できる保険料免除制度や納付猶予制度があります。
留学生についても、一定の要件を満たせば学生納付特例制度を利用できます。
適法な免除や猶予と、何の手続きもしない未納は意味が違います。
外国人の納付率を改善するためには、単に納付を求めるだけではなく、払える人には納付してもらい、払うことが難しい人には適切な免除や猶予の手続きを利用してもらうことが重要です。
そのためにも多言語による制度説明が欠かせません。
外国人の増加で年金制度も国際化する
日本の年金制度は、長い間、日本国内で一生働き暮らす人を中心に設計されてきました。
しかし、人の移動が国境を越える時代には、その前提も変わります。
日本で数年間働いて母国へ帰る人もいれば、日本と外国を行き来しながら働く人もいます。
外国人労働者の受け入れを拡大するのであれば、社会保障制度も人材の国際移動に対応させなければなりません。
国民年金の納付率55.0%という数字は、単なる保険料徴収の問題ではありません。
日本の社会保障制度が外国人の増加という社会構造の変化にどこまで対応できているのかを示す数字でもあります。
結論
外国人の国民年金の2023年度の最終納付率は55.0%で、日本人を含めた全体の85.6%を大きく下回っています。
背景には、日本の年金制度への理解不足、言語の壁、自分で保険料を納付しなければならない仕組み、短期間で帰国する外国人にとって年金のメリットを実感しにくいことなどがあります。
今後は2027年6月から在留資格の審査にも国民年金保険料の納付状況が加味される予定で、外国人にとって年金保険料の納付はこれまで以上に重要になります。
ただし、納付を厳格化するだけでは十分ではありません。
社会保障協定を拡充して国境を越えた年金加入期間をつなぐこと、多言語で制度を説明すること、保険料を払えない人には免除や猶予制度を適切に案内することも必要です。
外国人労働者が日本社会を支える存在になるほど、年金制度もまた国籍を越えた人の移動を前提とする制度へ変わっていく必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日朝刊 国民年金の納付、外国人低調55%