二地域居住は本当に地方創生になるのか ― 地域経済分析編

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都市と地方を行き来しながら暮らす二地域居住は、人口減少時代の新しい暮らし方として注目されています。地方にとっては、移住者を一人でも多く増やすことが難しくなる中で、完全移住ではない人の流れをどう地域経済に結びつけるかが重要な課題になっています。

ただし、二地域居住は、それだけで地方創生の決定打になるわけではありません。住宅を整備し、都市住民を呼び込めば地域が活性化するという単純な話ではないからです。

本稿では、二地域居住が地方経済にどのような効果をもたらすのか、また、どのような条件がなければ地域活性化につながらないのかを整理します。

二地域居住に期待される経済効果

二地域居住が地方創生策として注目される理由は、定住人口が増えなくても、地域に関わる人を増やせる点にあります。

地方では、若年層の流出や高齢化により、人口そのものを大きく増やすことは簡単ではありません。移住促進策を進めても、仕事、教育、医療、交通、地域コミュニティへの不安から、都市住民がすぐに完全移住を決断することは難しいのが現実です。

これに対して二地域居住は、都市とのつながりを保ちながら地方にも滞在する仕組みです。そのため、完全移住より心理的ハードルが低く、地域との接点を段階的に増やすことができます。

地域経済への効果としては、次のようなものが考えられます。

第一に、生活消費の増加です。二地域居住者は観光客とは異なり、地域で日常生活を送ります。食料品、日用品、ガソリン、飲食、理美容、医療、修繕、交通など、生活に密着した支出が発生します。

第二に、空き家や遊休不動産の活用です。使われていない住宅や土地を、二地域居住向けの賃貸住宅や滞在拠点として再生できれば、不動産価値の維持や地域景観の改善にもつながります。

第三に、地域サービスの維持です。利用者が増えれば、飲食店、小売店、交通サービス、地域施設などの存続可能性が高まります。定住人口だけでは支えきれないサービスを、外から来る人の利用で補う効果が期待されます。

第四に、将来的な移住予備軍の形成です。最初は月に数日、季節ごとの滞在であっても、地域との関係が深まれば、将来の移住、事業承継、起業、地域活動への参加につながる可能性があります。

観光との違い

二地域居住を考えるうえで重要なのは、観光との違いです。

観光は、基本的には短期滞在型の消費です。宿泊、飲食、土産、交通などに支出が集中します。地域経済にとって重要な収入源である一方、繁忙期と閑散期の差が大きく、観光地としての魅力が明確でない地域では成立しにくい面があります。

一方、二地域居住は「暮らすように滞在する」形です。観光名所がなくても、自然環境、静かな住環境、趣味の場、創作活動の拠点、リモートワーク環境などがあれば成立する可能性があります。

この点は、観光資源に乏しい地域にとって重要です。

有名観光地でなくても、都市生活者にとっては、広い空間、静けさ、自然、地域の食、散歩道、趣味の環境そのものが価値になります。つまり、二地域居住は「観光地ではない地域」にも可能性を開く仕組みだといえます。

ただし消費効果は限定的である

もっとも、二地域居住の経済効果を過大評価することは危険です。

月に数日しか滞在しない人が増えても、地域経済全体を大きく押し上げるほどの消費が生まれるとは限りません。特に、都市から食材や日用品を持ち込む、地域内であまり買い物をしない、住宅だけを利用して地域との接点を持たないという形であれば、経済効果は限定的です。

また、二地域居住者が増えても、地元事業者にお金が落ちなければ地方創生にはなりません。

例えば、住宅の開発・運営を域外資本が行い、清掃や管理も外部事業者が担い、利用者の消費も大手チェーンに流れる場合、地域内に残る所得は小さくなります。

地方創生として意味を持つためには、地域内で資金が循環する仕組みが必要です。

地域経済に残るお金が重要

二地域居住の成否は、「人が来るか」だけではなく、「地域にお金が残るか」で決まります。

地域経済の観点から見ると、重要なのは消費額そのものよりも、その消費が地域内でどれだけ循環するかです。

地元の食材を買う、地元飲食店を利用する、地元工務店が住宅修繕を担う、地域交通を利用する、地元の体験サービスに参加する。このような形で支出が地域内に広がれば、二地域居住は地域経済を支える力になります。

反対に、利用者が地域に滞在していても、支出の大半が域外企業に流れるなら、地域への波及効果は弱くなります。

したがって、二地域居住を地方創生につなげるには、住宅整備だけでなく、地域の事業者との接続設計が欠かせません。

空き家活用は万能ではない

二地域居住と空き家活用は相性がよいと考えられます。しかし、空き家をそのまま使えばよいわけではありません。

地方の空き家には、老朽化、耐震性、断熱性、水回り、相続登記、権利関係、接道、管理者不在など、さまざまな課題があります。都市生活者が週末や短期滞在で利用するには、一定の快適性と安全性が求められます。

また、空き家を一戸ずつ個別に整備するだけでは、管理コストが高くなりがちです。

このため、二地域居住向けには、複数の住宅を一体的に管理する仕組みが有効です。住宅群として整備し、管理、清掃、修繕、防犯、通信環境、地域案内などをまとめて提供できれば、利用者の不安を下げることができます。

ここに民間事業者の役割があります。

行政が補助金で単発的に空き家を改修するだけではなく、継続運営できる収益モデルをつくれるかどうかが重要です。

住民との関係性が成否を左右する

二地域居住は、地域住民との関係性なしには定着しません。

地方に外部の人が入ってくることは、地域にとって期待である一方、不安でもあります。騒音、ごみ出し、地域行事、交通マナー、防犯、土地利用などをめぐり、摩擦が生じる可能性があります。

特に、利用者が「たまに来る客」という意識のままだと、地域との関係は深まりません。

地方創生につなげるには、二地域居住者を単なる利用者として扱うのではなく、地域に関わる一員として位置づける必要があります。

とはいえ、最初から自治会活動や地域行事への参加を強く求めすぎると、都市住民にとって負担になり、継続しにくくなります。

重要なのは、緩やかな関係性です。

地域のルールを共有しつつ、無理のない範囲で交流し、必要に応じて地域活動に関わる。そのような中間的な仕組みが求められます。

地方創生になる地域、ならない地域

二地域居住は、すべての地域で同じように成功するわけではありません。

成功しやすい地域には、いくつかの条件があります。

まず、都市部からのアクセスが極端に悪くないことです。二地域居住は定期的に行き来する生活形態であるため、移動時間や交通費が大きすぎると継続が難しくなります。

次に、通信環境が整っていることです。リモートワークやオンライン手続きが前提となるため、安定した通信環境は生活インフラそのものです。

さらに、日常生活を支える店舗や医療機関が一定程度あることも重要です。完全な観光地である必要はありませんが、暮らすための最低限の利便性は欠かせません。

加えて、地域側に受け入れの意思があることも大切です。外部の人を警戒しすぎる地域では、二地域居住者は長続きしません。

つまり、二地域居住は「自然がある地域」ならどこでも成立するわけではなく、生活拠点としての基本条件を満たす地域でこそ機能します。

行政の役割は補助金より環境整備

二地域居住を進めるうえで、行政の役割も重要です。

ただし、行政が住宅を大量に整備するという発想には限界があります。自治体財政が厳しい中で、施設整備を行政主導で抱え込むことは持続可能ではありません。

行政が担うべき役割は、むしろ環境整備です。

例えば、空き家情報の整理、所有者との調整、用途地域や条例上の課題整理、地域交通の改善、通信環境の整備、地域住民との合意形成、移住・滞在相談窓口の設置などです。

民間が事業として取り組みやすい土台をつくることが、行政の重要な役割になります。

補助金で一時的に人を呼ぶのではなく、民間事業者と地域住民が継続できる仕組みを後押しすることが必要です。

企業にとっての意味

二地域居住は、個人だけでなく企業にも関係します。

リモートワークが広がる中で、社員が都市と地方を行き来しながら働くことを認める企業が増えれば、地方滞在の可能性は広がります。

また、企業が福利厚生として地方拠点を確保することも考えられます。社員の休養、研修、チーム合宿、創作活動、地域課題解決型プロジェクトなどに活用できれば、地方との関係はより実質的になります。

地方側から見れば、個人だけでなく企業単位の関係人口を獲得できる可能性があります。

ただし、企業利用の場合も、単なる保養所の復活にとどまれば効果は限定的です。地域事業者との連携、地元人材との交流、地域課題への参加などを組み込めるかどうかが重要です。

二地域居住は地方創生の主役ではなく補助線

結論として、二地域居住は地方創生の決定打ではありません。

しかし、地方創生を考えるうえで非常に重要な補助線になります。

人口減少社会では、定住人口だけを追いかける政策には限界があります。すべての地域が若者を大量に呼び戻せるわけではありません。だからこそ、完全移住ではない関わり方をどう設計するかが重要になります。

二地域居住は、地域に「住む人」ではなく「関わり続ける人」を増やす仕組みです。

この関係人口が、消費、交流、事業、地域活動、将来の移住へとつながれば、地方経済を支える一つの力になります。

ただし、そのためには住宅を用意するだけでは不十分です。

地域内にお金が残る仕組み、住民との緩やかな関係性、民間事業としての継続性、行政による環境整備がそろって初めて、二地域居住は地方創生に近づきます。

二地域居住は、地方を一気に再生する魔法ではありません。

しかし、定住か観光かという二択を超え、地域との関わり方を増やす現実的な選択肢です。人口が減る時代だからこそ、「住む人の数」だけでなく、「関わる人の厚み」をどう増やすかが、これからの地方経済を考える鍵になるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 朝刊 2026年5月6日
「二地域居住に専用住宅群を」倉品広樹(私見卓見)

国土交通省
「二地域居住等の促進に関する施策」

総務省
「関係人口ポータルサイト」

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