金融資産が5億円、10億円という規模になると、相続は単に財産を子どもへ分ける問題ではなくなってきます。
誰にどの財産を引き継ぐのか。
相続税をどのように納付するのか。
不動産や自社株をどう扱うのか。
配偶者や子どもの生活をどう支えるのか。
さらに企業オーナーであれば、会社の経営権を誰に引き継ぐのかという問題まで加わります。
資産規模が大きくなるほど、相続は資産運用、事業承継、不動産管理などと密接につながります。
そのため超富裕層向けのウェルスマネジメントでは、相続対策が重要な分野になります。
金融資産5億円を超えると何が変わるのか
金融資産5億円という金額を境に、突然相続制度が変わるわけではありません。
野村総合研究所が純金融資産5億円以上の世帯を超富裕層と分類していることから、一つの目安として使われています。
相続税の仕組みそのものは資産額にかかわらず同じです。
しかし資産額が大きくなるほど、相続税の負担や財産の分け方などの問題も大きくなります。
さらに金融資産5億円といっても、財産全体が5億円とは限りません。
自宅や賃貸不動産、自社株などを保有していれば、相続対象となる財産はさらに大きくなる可能性があります。
超富裕層の相続では、金融資産だけを見るのではなく財産全体を把握することが出発点になります。
まず財産をすべて把握する必要がある
相続対策の基本は、自分が何を持っているのかを把握することです。
預金。
上場株式。
投資信託。
債券。
不動産。
自社株。
生命保険。
そのほかにもさまざまな財産があります。
資産家になるほど複数の金融機関と取引していることがあります。
不動産を複数保有していることもあります。
企業オーナーなら自社株が財産の大部分を占めている場合もあります。
財産の種類と金額を整理しなければ、誰に何を引き継ぐのかを考えることもできません。
金融資産が多い相続の特徴
預金や上場株式などの金融資産には、比較的分割しやすいという特徴があります。
例えば預金6億円を3人の子どもへ分けるのであれば、金額として分けることは容易です。
不動産や自社株では同じようにはいきません。
一つの土地を物理的に均等に分けられるとは限りません。
企業オーナーの自社株も、単純に相続人へ均等に分けると会社の経営権が分散する可能性があります。
その意味では金融資産が多いほど遺産分割の自由度は高くなります。
一方、資産額そのものが大きければ、相続税の納税額も大きくなる可能性があります。
不動産と金融資産を組み合わせる理由
富裕層の相続では、金融資産と不動産を別々に考えるのではなく、財産全体として考えることが重要です。
例えば子どもが2人いる家庭で、10億円の不動産と10億円の金融資産を保有しているとします。
一方の子どもが不動産を管理していくのであれば、その子に不動産を承継し、もう一方の子には金融資産を多く承継させるといった方法を検討できます。
もちろん実際には財産評価や相続人の希望などを考慮する必要があります。
重要なのは、財産を一つずつ分けるのではなく、金融資産と不動産を組み合わせて全体のバランスを見ることです。
遺産分割が難しくなる理由
財産が多ければ相続は簡単になるとは限りません。
むしろ財産の種類が増えることで複雑になる場合があります。
例えば都心の不動産を複数所有しているとします。
同じ10億円相当の不動産でも、将来の収益性や売却のしやすさは物件ごとに異なります。
上場株式についても、現在の時価だけで将来の価値が決まるわけではありません。
自社株なら経営権という別の問題があります。
単純に現在の評価額だけを合わせれば公平な遺産分割になるとは限らないわけです。
そのため富裕層の相続では、誰にどの資産を引き継ぐのかを生前から考えておくことが重要になります。
納税資金が重要になる理由
相続税は原則として金銭で納付します。
そのため相続財産が大きくても、現金や換金しやすい金融資産が十分にないと納税資金が問題になることがあります。
特に企業オーナーでは注意が必要です。
例えば相続財産30億円のうち25億円が自社株だったとします。
財産額は非常に大きいのですが、自社株をそのまま相続しても納税に使える現金が生まれるわけではありません。
非上場株式であれば、必要なときに市場で簡単に売却することもできません。
不動産中心の資産家でも同じ問題が起こります。
資産価値と現金は別物です。
相続税額だけではなく、その税金を何で払うのかまで考えておく必要があります。
資産運用にも相続という視点が必要になる
富裕層の資産運用では、単純に高い収益率を目指せばよいとは限りません。
例えば財産のほとんどを換金しにくい不動産や非上場株式で持っている場合、相続時の納税資金が不足する可能性があります。
その場合、一定の預金や換金しやすい金融資産を確保しておくことが重要になることがあります。
逆に大量の現金だけを長期間持っていれば、インフレによって実質的な価値が低下する可能性があります。
資産を増やすことと、必要なときに現金化できることの両方を考えなければなりません。
相続まで考えると、資産運用の目的そのものが変わる場合があります。
信託銀行が重要になる理由
富裕層の相続で信託銀行が重要になるのは、金融資産だけではなく、遺言や不動産、資産承継など幅広い分野を扱うからです。
例えばどの財産を誰に引き継ぐのかを遺言によって整理することがあります。
遺言執行に関するサービスを利用する場合もあります。
不動産を保有していれば、その管理や売却なども相続と関係します。
企業オーナーであれば、自社株の承継も考える必要があります。
こうした複数の問題を長期的に支援できることが、信託銀行の特徴です。
もちろん税務や法務については、税理士や弁護士などの専門家との連携も重要になります。
銀行と証券会社にも役割がある
相続対策は信託銀行だけの仕事ではありません。
銀行は預金や融資を通じて、資金面を支援できます。
相続税などの納税資金が必要になる場合、資金調達が問題になることもあります。
証券会社は上場株式や債券、投資信託などの金融資産を管理します。
資産構成を見直し、必要な流動性を確保することも重要になります。
メガバンクグループが銀行、証券、信託を一体として超富裕層へサービスを提供しようとするのは、相続一つをとっても複数の金融機能が必要になるからです。
相続人自身の資産管理も始まる
巨額の財産が相続されると、今度は相続人が富裕層になることがあります。
例えば親から5億円の金融資産を相続した子どもは、その瞬間から巨額の資産を管理する立場になります。
それまで本格的な資産運用を経験していなかった可能性もあります。
金融機関にとっては、親世代だけではなく子ども世代との関係を築くことが重要になります。
親から子へ財産が移るとき、金融機関との取引までそのまま引き継がれるとは限らないからです。
相続は財産が世代間で移動すると同時に、金融機関にとって顧客との関係が大きく動く場面でもあります。
相続対策は税金を減らすことだけではない
相続対策という言葉から、相続税を減らす方法を想像する人も多いでしょう。
もちろん税負担を把握し、適切に準備することは重要です。
しかし富裕層の相続では、それだけでは不十分です。
会社の経営権を安定させる。
相続人同士で財産を適切に分ける。
納税資金を確保する。
資産を次世代でも維持できるようにする。
こうした問題もすべて相続対策に含まれます。
税額だけを小さくするのではなく、財産全体を円滑に次世代へ移すことが本来の目的になります。
結論
金融資産が5億円を超えたからといって、特別な相続制度に切り替わるわけではありません。
しかし資産規模が大きくなれば、相続税、遺産分割、納税資金、資産管理などの問題も大きくなります。
さらに不動産や自社株を持っていれば、財産の分け方は複雑になります。
特に重要なのが流動性です。
10億円の財産を持っていることと、必要なときに10億円の現金を用意できることは同じではありません。
相続税などを支払うための資金まで考えて資産を管理する必要があります。
そのため富裕層の相続では、銀行、証券会社、信託銀行、さらに税理士や弁護士などの専門家が連携する場面が増えていきます。
そして相続が終われば、財産を受け取った次世代の資産管理が始まります。
富裕層にとって相続とは、単に財産を分ける一度限りの出来事ではありません。
一族が築いた財産をどのような形で次世代へ移し、その後も管理していくのかという長期的なウェルスマネジメントの一部だと考えることが重要でしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 メガ銀、「超富裕層」を争奪 三井住友は営業担当者2倍
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 超富裕層 金融資産5億円以上の世帯