日本では人口減少が全国的に進んでいます。
人口が減れば、住宅や店舗が減り、学校や公共施設なども少しずつ統廃合されていきます。
しかし、都市そのものを人口と同じ割合で小さくすることは簡単ではありません。
道路、橋、上下水道などは、人口が減ったからといってすぐに撤去できないからです。
こうした人口や経済活動が縮小していく都市は、縮小都市という考え方で捉えられることがあります。
縮小都市で大きな問題となるのが、少なくなった住民や企業で、過去に整備した広い都市インフラを維持しなければならないことです。
事業所税の課税団体が人口減少によって減り始めている問題も、この縮小都市という視点から見ると、単なる税制上の人口基準だけではないことが分かります。
縮小都市とは人口や経済活動が縮小する都市
縮小都市とは、一般に人口減少や産業の衰退などによって都市の規模が縮小していく状態を指します。
都市は長い間、人口が増えることを前提として整備されてきました。
人口が増えれば住宅地を広げます。
道路を延ばし、上下水道を整備し、学校や公共施設を建設します。
郊外に住宅地が広がれば、それに合わせて新しいインフラを整備します。
しかし、人口減少社会では逆の現象が起こります。
人口や世帯数が減少し、空き家や空き地が増えても、一度広げた都市を簡単に元へ戻すことはできません。
人口が減っても道路は短くならない
縮小都市の問題を最も分かりやすく表すのが道路です。
例えば、人口30万人の時代に市内全域へ道路網を整備した都市があるとします。
その後、人口が25万人へ減少したとしても、道路の総延長が人口と同じ割合で短くなるわけではありません。
道路には舗装の補修が必要です。
橋があれば点検や修繕も必要です。
雪の多い地域では除雪費もかかります。
人口が減って道路利用者が少なくなっても、道路として維持する以上、一定の費用が発生します。
人口減少によって税収が減る一方、過去に整備したインフラの維持費が残ることが縮小都市の大きな問題です。
上下水道はさらに縮小しにくい
上下水道も人口減少の影響を強く受けます。
水道管や下水道管は住宅地の地下に広く張り巡らされています。
人口が減り、利用者が少なくなっても、残っている住民へ水道サービスを提供するためには管路を維持しなければなりません。
利用者が半分になったからといって、水道管を半分にすることは簡単ではありません。
一方、利用者が減れば水道料金収入などは減少します。
老朽化した管路の更新時期が来れば、大きな投資も必要になります。
人口減少とインフラ老朽化が同時に進むことが、縮小都市の財政を難しくしています。
一人当たりのインフラ維持費が上昇する
人口が減少してもインフラ費用が同じ割合で減らなければ、一人当たりの負担は大きくなります。
例えば、年間100億円のインフラ関連費用を20万人で支えているとします。
単純計算では一人当たり5万円です。
人口が10万人へ減少したときに、費用も50億円まで減れば一人当たり負担は変わりません。
しかし、道路や上下水道などの固定的な費用が多く、80億円までしか減らせなければ、一人当たりでは8万円になります。
人口減少社会では、住民が少なくなるほど一人当たりの都市維持コストが上昇する可能性があるのです。
市街地が広がったまま人口だけ減ると負担が重くなる
特に問題になるのが、低密度に広がった都市です。
人口増加期には、郊外へ住宅地が拡大してきました。
自動車を利用することを前提として、住宅、商業施設、公共施設などが広い範囲に分散した都市もあります。
人口が増えている間は、多くの住民でインフラ費用を負担できます。
しかし、人口が減少すると住宅が点在するようになります。
少数の住民のために長い道路や上下水道を維持しなければならない地域が生まれます。
同じ人口でも、住民が一定の地域に集中している都市より、広い地域に分散している都市の方がインフラ維持の効率は悪くなりやすいのです。
コンパクトシティは都市を小さく使う考え方
こうした問題への対応策として注目されるのがコンパクトシティです。
コンパクトシティは、住宅、医療、福祉、商業などの都市機能を一定の地域へ集約し、公共交通などで結ぶ考え方です。
人口が減少しても、都市機能をできるだけまとまった地域に維持することで、行政サービスやインフラを効率的に提供しようとします。
市街地を無制限に広げ続けるのではなく、人口規模に合わせて都市の使い方を見直していくわけです。
人口減少社会では、都市を拡大する政策から、都市をどのように縮小し再編するかという政策への転換が必要になります。
コンパクトシティは住民を強制移住させる制度ではない
コンパクトシティという言葉から、郊外に住む人を中心部へ強制的に移住させる政策を想像することがあります。
しかし、基本的な考え方はそうではありません。
住宅や都市機能を長い時間をかけて一定の区域へ誘導し、人口密度を維持しやすくすることが中心になります。
例えば、医療施設や商業施設、公共交通などを利用しやすい地域へ居住を誘導する方法があります。
新しい公共施設をどこに配置するのかという政策判断も重要になります。
数十年単位で都市構造を少しずつ変えていく取り組みと考える必要があります。
インフラをすべて残すことは難しくなる
人口減少が長期的に続けば、現在存在するすべてのインフラを同じ水準で維持することは難しくなる可能性があります。
利用者が極端に少ない公共施設を統廃合することも必要になります。
道路や橋についても、重要度に応じて維持管理の優先順位を付ける必要が出てきます。
上下水道についても、地域によっては従来と異なる小規模な供給方法を検討する余地があります。
これまでの行政は、どの地域にも同じようにインフラを広げることを重視してきました。
縮小都市では、限られた財源をどこへ集中するのかという選択が避けられなくなります。
事業所税も都市インフラを支える財源の一つ
ここで事業所税との関係が出てきます。
事業所税は、大都市における道路や上下水道などの都市環境を整備するための費用に充てる目的税です。
企業や事業所が都市へ集中することで生じる行政需要について、一定規模以上の事業者にも負担を求める仕組みです。
令和6年度決算額では、全国の事業所税収は資産割2807億円、従業者割1298億円でした。
合計すると4105億円です。
課税団体にとって、都市機能を支える重要な財源の一つとなっています。
人口が減ると事業所税まで失う都市がある
ところが、事業所税には人口30万人という課税団体の基準があります。
人口減少が進み、この要件を満たさなくなると、事業所税の課税団体から外れる場合があります。
2026年には秋田市と福岡県久留米市が指定から外れ、課税団体は77団体から75団体へ減少しました。
ここに縮小都市特有の難しさがあります。
人口が減っても道路や上下水道などの既存インフラは残ります。
一方、人口が減ったことによって、それを維持するための財源の一つである事業所税を失う可能性があります。
人口減少によって支出を減らす必要があるのに、同時に税収まで失うという構造です。
企業が残っていても課税できなくなる可能性がある
さらに難しいのは、居住人口と企業活動が必ずしも同じように減るわけではないことです。
人口が30万人を下回っても、大規模な工場や物流施設、オフィスなどが残っている都市は考えられます。
周辺自治体から多くの人が通勤してくる都市もあります。
その場合、企業活動による道路や上下水道などへの需要は一定程度残ります。
しかし、人口基準を満たさなくなれば、事業所税の課税団体から外れる可能性があります。
縮小都市では、住民人口だけでは都市の実際の活動規模を測りにくくなるという問題もあります。
都市を維持する財源を誰が負担するのか
人口減少が進むほど、都市インフラの費用を誰が負担するのかという問題が重要になります。
住民だけで負担するのか。
その都市で活動する企業にも負担してもらうのか。
国からの財政移転によって支えるのか。
利用料金を引き上げるのか。
あるいは、維持するインフラそのものを減らすのか。
事業所税は、この中で企業にも都市維持費の一部を負担してもらう仕組みと考えることができます。
人口減少によって課税団体が減る問題は、この費用分担の仕組みそのものに影響します。
これからは都市を広げないことも重要になる
人口増加時代には、新しい道路を造り、新しい住宅地を開発し、新しい公共施設を建設することが都市政策の中心でした。
人口減少時代には、発想を変える必要があります。
新しいインフラを造ると、その後何十年にもわたって維持費が発生します。
建設費だけでなく、将来の更新費まで考える必要があります。
人口が減ることが分かっている地域では、都市をさらに広げることが将来世代の負担を増やす可能性があります。
これからの都市政策では、何を新しく造るかだけではなく、何を造らないか、何を集約するかという判断も重要になります。
結論
縮小都市とは、人口や経済活動が減少する一方、過去に整備した都市インフラを抱え続ける都市の姿を考える概念です。
人口が減っても、道路、橋、上下水道などが同じ割合で減るわけではありません。
そのため、少ない住民で広い都市インフラを支えることになり、一人当たりの維持負担が上昇する可能性があります。
この問題への対応策の一つが、住宅や都市機能を一定の地域へ誘導するコンパクトシティです。
都市を無理に拡大し続けるのではなく、人口規模に合わせて長期的に都市構造を再編していく考え方です。
そして、縮小都市の問題は地方税制とも深く関係しています。
事業所税は都市インフラを支える財源の一つですが、人口30万人という要件を満たさなくなれば、課税団体から外れる都市が出てきます。
人口が減ってもインフラは残るのに、人口減少によって財源まで失う可能性があるわけです。
人口減少時代の都市政策で問われるのは、人口をどう増やすかだけではありません。
小さくなる人口と税収の中で、どの都市機能を残し、どのインフラを維持し、その費用を住民、企業、国がどのように分担するのか。
縮小都市という問題は、日本の地方財政と都市の将来を考えるうえで避けて通れないテーマになっています。
参考
税のしるべ 2026年8月10日 事業所税の課税団体が減少、人口減で30万人以上の要件を満たせず