生命保険料控除は、生命保険や医療保険、個人年金保険などの保険料を支払った場合に、一定額を所得から差し引くことができる制度です。
この生命保険料控除について、子育て世帯を対象とした特例が設けられています。
23歳未満の扶養親族がいる場合、一定の一般生命保険料について所得税の控除限度額を通常より引き上げるものです。
子育てには生活費だけでなく、教育費など長期的な負担が伴います。同時に、家計を支える親に万一のことがあった場合に備えて、死亡保障を確保する必要性も高くなります。
そこで今回は、子育て世帯を対象とした生命保険料控除の特例について、その仕組みと生命保険協会が恒久化を求めている背景を整理します。
なぜ子育て世帯に特例が設けられているのか
子育て世帯には、子どもが成長するまで継続的な支出が発生します。
食費や衣服費などの日常的な支出に加え、保育費、教育費、住宅費なども家計に大きな影響を与えます。
特に子どもが大学などへ進学する場合には、長期間にわたる資金準備が必要です。
さらに考えなければならないのが、親に万一のことがあった場合です。
家計を支えている親が亡くなれば、それまで得ていた給与などの収入が失われる可能性があります。
公的な遺族年金などによる保障はありますが、それだけで従来と同じ生活や教育環境を維持できるとは限りません。
生命保険による死亡保障には、こうしたリスクを補う役割があります。
子育て世帯が必要な保障を確保しやすくするため、税制面から支援するというのが今回の特例の基本的な考え方です。
対象となるのは23歳未満の扶養親族がいる場合
今回の特例で重要になるのが23歳未満という年齢です。
23歳未満の扶養親族がいる場合、一定の要件のもとで一般生命保険料控除の限度額が引き上げられます。
子どもが小さい家庭だけを対象としているわけではありません。
大学などに進学している年代まで含めて、比較的教育費負担の大きい時期を広く対象とする考え方です。
税制では子育て支援について、年齢によってさまざまな制度が設けられています。
今回の生命保険料控除の特例についても、単純に未成年の子どもがいるかどうかではなく、23歳未満の扶養親族がいるかどうかがポイントになります。
一般生命保険料控除が上乗せされる
通常、平成24年1月1日以後に締結した新契約について、所得税の一般生命保険料控除の適用限度額は最高4万円です。
今回の子育て世帯に対する特例では、この一般生命保険料控除の限度額に2万円が上乗せされます。
したがって、対象者については一般生命保険料控除の限度額が最高6万円となります。
ただし、すべての生命保険料控除が6万円になるわけではありません。
生命保険料控除には
一般生命保険料控除
介護医療保険料控除
個人年金保険料控除
があります。
今回の上乗せ措置の中心となるのは、一般生命保険料控除です。
子育て世帯の死亡保障を税制面から支援するという制度の性格が表れています。
控除額が2万円増えても税金が2万円減るわけではない
この制度を見る際には、控除額と減税額を区別する必要があります。
一般生命保険料控除の限度額が4万円から6万円へ引き上げられたとしても、所得税がそのまま2万円減るわけではありません。
生命保険料控除は所得控除だからです。
例えば、上乗せによって所得控除額が2万円増え、その人に適用される所得税率が10%だと単純化すると、所得税の軽減額は
2万円×10%=2000円
となります。
所得税率が20%なら、単純計算では4000円です。
実際の税額は所得状況や他の所得控除などによって異なります。
生命保険料控除の拡充は、大規模な現金給付というより、必要な保障を持つ子育て世帯の税負担を少し軽くする仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
令和8年分と令和9年分の時限措置
今回の特例で特に重要なのは、恒久的な制度として導入されているわけではないことです。
子育て世帯に対する一般生命保険料控除の拡充は、令和8年分と令和9年分の所得税について講じられている時限措置です。
つまり、現行制度のままであれば、その後も自動的に同じ控除が続くとは限りません。
税制では、政策目的に応じて一定期間だけ特例を設け、その効果や財政への影響などを確認したうえで、その後の取り扱いを検討することがあります。
子育て世帯に対する生命保険料控除も、そのような期間限定の措置として位置付けられています。
この時限措置を恒久的な制度に変更してほしいというのが、生命保険協会の令和9年度税制改正要望です。
なぜ生命保険協会は恒久化を求めるのか
生命保険協会は、子育て世帯が将来に向けて安定的に保障を継続できる環境を整備する観点から、今回の特例の恒久化を求めています。
生命保険は、多くの場合、数年だけ利用する商品ではありません。
特に死亡保障は、子どもが独立するまで長期間にわたって必要となるケースがあります。
ところが、税制上の支援が2年間だけの時限措置であれば、その後の取り扱いが分からない状態になります。
長期間の保障を必要とする子育て世帯を支援する制度であれば、税制についても継続性が必要ではないかというのが恒久化要望の背景にあります。
子育て支援と生命保険政策が結び付いている
今回の特例には、単なる生命保険業界への支援とは異なる側面があります。
少子化が進む日本では、子育て世帯の経済的負担をどのように軽減するのかが大きな政策課題となっています。
子育て支援というと、児童手当や教育費支援などが注目されます。
一方、親に万一のことが起きた場合に子どもの生活や教育をどう守るのかという問題もあります。
生命保険は、そのリスクを民間の仕組みによって補完します。
生命保険料控除の拡充には、子育て世帯が自ら備えることを税制によって後押しするという考え方があります。
社会保障と民間保険をどのように組み合わせるのかという意味でも興味深い制度です。
所得控除による支援には課題もある
一方、生命保険料控除の拡充には議論すべき点もあります。
所得控除は、一般的に所得税率が高い人ほど税負担の軽減効果が大きくなります。
例えば、同じ2万円の所得控除が増えても、所得税率5%の人と20%の人では減税額が異なります。
また、生命保険料を支払っていることが前提となるため、そもそも保険に加入する経済的余裕がない世帯には直接的な恩恵が及びにくいという面もあります。
子育て支援という目的だけを考えるのであれば、所得控除のほかに税額控除や現金給付などの方法も考えられます。
生命保険料控除を恒久化するかどうかについては、保障の確保だけでなく、税制の公平性や政策効果も含めて議論する必要があります。
恒久化はまだ決まっていない
生命保険協会が恒久化を要望していますが、現時点で令和10年分以降も特例が続くと決まったわけではありません。
税制改正要望は、業界団体などが政府や与党に制度改正を求めるものです。
今後、令和9年度税制改正の議論の中で検討されることになります。
恒久化すれば税収にも影響するため、財源や他の子育て支援策との関係も論点になります。
生命保険料控除という一つの制度だけを見るのではなく、政府全体の子育て支援政策の中でどのように位置付けられるのかを見る必要があります。
結論
子育て世帯に対する生命保険料控除の特例は、23歳未満の扶養親族がいる一定の人について、一般生命保険料控除の所得税における適用限度額を引き上げる制度です。
通常の新契約では一般生命保険料控除の限度額は最高4万円ですが、特例では2万円が上乗せされ、最高6万円となります。
重要なのは、この措置が令和8年分と令和9年分の所得税に適用される時限措置だということです。
生命保険協会は、子育て世帯が長期にわたって安定した保障を確保できるよう、この特例を恒久化することを令和9年度税制改正で求めています。
一方、所得控除による子育て支援には、所得税率によって減税効果が異なることや、生命保険に加入していない世帯には恩恵が及びにくいといった課題もあります。
生命保険料控除の恒久化は、単なる保険税制の問題ではありません。
子育てに必要な保障を、社会保障、民間保険、税制の三つでどのように支えていくのかという問題でもあります。
今後の令和9年度税制改正で、時限措置が恒久的な制度へ変わるのか注目されます。
参考
税のしるべ 2026年8月3日 生保協会が9年度税制改正で要望、子育て世帯に対する生命保険料控除拡充の恒久化を