農業では高齢化や担い手不足が深刻になる一方、福祉の分野では障害者が地域で働き、安定した所得を得られる場所をどう増やすかが課題となっています。
この二つの課題を組み合わせて解決しようとする取り組みが農福連携です。
農業者にとっては新しい働き手を確保できる可能性があります。
障害者にとっては農作業や加工、販売などを通じて働く機会が広がります。
さらに、地域で使われなくなった農地や農産物を活用して新しい商品を生み出せれば、地域産業の再生にもつながります。
日本経済新聞が紹介した栃木県小山市では、かつて結城紬を支えた桑を活用し、障害者の就労と地域資源の商品化を結び付ける取り組みが進められています。
農福連携は農業と福祉を組み合わせるだけではなく、人口減少時代の地域経済を支える仕組みに発展する可能性があります。
農福連携とは何か
農福連携とは、農業と福祉が連携し、障害者などが農業分野で活躍できる機会をつくる取り組みです。
農作業には様々な仕事があります。
種をまく。
苗を植える。
収穫する。
農産物を選別する。
袋詰めする。
加工する。
商品を販売する。
一連の仕事を細かく分ければ、それぞれの人の能力や特性に合わせた仕事をつくることができます。
単に農作業を手伝ってもらうのではなく、それぞれが力を発揮できる仕事を設計することが重要です。
なぜ農業と福祉を組み合わせるのか
農業と福祉には、それぞれ異なる課題があります。
農業では農業者の高齢化が進み、後継者や働き手が不足しています。
農地を維持できず、耕作放棄地になるケースもあります。
一方、障害者福祉では、働きたい人がいても地域に適切な仕事が十分にない場合があります。
農業には人手が必要です。
福祉には仕事が必要です。
この二つを結び付ければ、双方の課題を同時に改善できる可能性があります。
一つの社会課題を別々の政策として考えるのではなく、課題同士を組み合わせて解決する考え方です。
農業の人手不足を補えるのか
農福連携が注目される背景には、農業の人手不足があります。
ただし、障害者を単純に不足している労働力として考えるのは適切ではありません。
農作業には、重いものを運ぶ仕事もあれば、同じ作業を丁寧に繰り返す仕事もあります。
商品を包装する仕事もあります。
加工や販売、接客など農地以外の仕事もあります。
それぞれの作業を分析し、本人の特性に合った仕事へ分けることが重要です。
結果として農業者側の作業負担が軽くなれば、人手不足への対応にもつながります。
仕事を分解することが重要
農福連携では仕事の切り出しという考え方が重要になります。
例えば農産物を出荷するまでには、収穫、洗浄、選別、計量、袋詰め、ラベル貼り、箱詰めなど多くの工程があります。
農業者がすべてを担当している場合、その一部を別の人が担当するだけでも負担を軽減できます。
作業工程を細かく分ければ、できる仕事の種類も増えます。
農業に限らず、人手不足の産業では一人が担当していた仕事を分解し、それぞれに適した人が担当する考え方が重要になっています。
農福連携はその具体例でもあります。
障害者の工賃とは何か
障害者が福祉事業所などで働いた場合に受け取る対価として、工賃という言葉が使われることがあります。
一般企業で雇用契約を結んで働く場合の賃金とは仕組みが異なる場合があります。
福祉的就労では、事業所が商品の販売や作業の受託などによって得た収入から必要経費を差し引き、利用者へ工賃として支払います。
そのため、事業そのものの収益力が低ければ工賃も上げにくくなります。
障害者の所得を増やすには、仕事を提供するだけでは十分ではありません。
売れる商品やサービスをつくり、事業の付加価値を高める必要があります。
小山市では桑を地域資源として活用
栃木県小山市は、隣接する茨城県結城市などとともに結城紬に関係する地域です。
かつては絹を生み出す蚕の餌となる桑の生産が盛んでした。
しかし、産業構造の変化などによって桑の利用は減っていきました。
社会福祉法人パステルでは、この桑を障害者の自立に利用できないかと考え、市の支援などを受けて1万3000本の桑を植えました。
地域でかつて重要だった農産物を、福祉と結び付けて新しい地域資源として活用しているわけです。
農産物をそのまま売るだけではない
農福連携で所得を増やすためには、農産物を生産するだけでなく加工することも重要になります。
小山市の事例では、桑の葉や実を利用して、お茶、パン、ドレッシング、ジャムなどをつくっています。
農産物をそのまま販売する場合と比べ、加工することで商品の付加価値を高められる可能性があります。
さらに併設するレストランで料理として提供すれば、飲食サービスとしての価値も加わります。
生産する。
加工する。
販売する。
飲食として提供する。
一つの農産物から複数の収益機会をつくっているわけです。
工賃を上げるには商品力が必要
日本経済新聞の記事によると、小山市の事例では障害者が受け取る月額工賃は5万8000円で、全国平均の2倍を超えるとされています。
ここで重要なのが、福祉だからこそ良いものをつくるという考え方です。
障害者がつくった商品だから購入してもらうというだけでは、継続的な事業にはなりにくいでしょう。
味がおいしい。
品質が良い。
デザインが魅力的である。
価格に納得できる。
こうした商品としての競争力が必要です。
商品が売れれば事業収入が増え、結果として工賃を引き上げられる可能性があります。
福祉とビジネスは対立しない
福祉事業では、利益を追求することに抵抗感を持たれる場合があります。
しかし、事業収入が増えなければ、働く人へ十分な対価を支払うことも難しくなります。
良い商品をつくる。
適正な価格で販売する。
顧客を増やす。
利益を設備や人材へ再投資する。
その結果として利用者の所得を増やす。
こうした循環をつくることは、福祉の目的とも矛盾しません。
社会的な目的と経済的な持続可能性を両立させることが農福連携では重要です。
地域資源の商品化にもつながる
農福連携は、使われなくなった地域資源を見直すきっかけにもなります。
桑のように、かつて地域産業を支えていたものが利用されなくなっているケースがあります。
規格外農産物など、十分に利用されていないものもあります。
こうした資源を加工して新しい商品にできれば、廃棄を減らしながら地域ブランドをつくることもできます。
地域の歴史や文化と商品を結び付ければ、単なる農産物とは異なる価値を生み出せる可能性があります。
地域住民との接点も生まれる
小山市の事例では、事業所にレストランや売店も併設されています。
障害者が農作業だけではなく、レストランのフロア係なども担当します。
地域住民が食事や買い物で施設を利用すれば、福祉施設と地域社会の接点が増えます。
障害者福祉を施設の中だけで完結させず、地域の日常的な経済活動の中に組み込むことができます。
農福連携は所得を生み出すだけでなく、人と人の関係をつくる役割も持っています。
すべての農業で簡単にできるわけではない
農福連携には課題もあります。
農業には危険を伴う作業があります。
大型機械を使用する仕事もあります。
天候によって作業量が変化します。
収穫期には仕事が集中し、それ以外の時期には仕事が減ることもあります。
農業者側にも障害特性への理解が必要です。
福祉事業者側にも農業の知識が必要になります。
双方の間を調整する人材も重要です。
農業と福祉を組み合わせれば自動的に成功するわけではありません。
年間を通じた仕事をどうつくるか
農業には季節性があります。
特定の農産物だけに依存すると、収穫時期には仕事が多くても、それ以外の時期に仕事がなくなる可能性があります。
そこで加工や販売を組み合わせることが有効です。
収穫した農産物を加工食品にする。
包装する。
インターネットで販売する。
レストランで提供する。
複数の農産物を扱う。
こうした仕事を組み合わせれば、年間を通じて働く機会をつくりやすくなります。
所得を安定させるためにも重要な視点です。
地域経済全体への効果
農福連携が発展すると、農業者と障害者だけでなく地域経済にも効果が広がる可能性があります。
加工を地域企業へ委託する。
包装資材を地元企業から購入する。
地域の店舗で商品を販売する。
観光客向けの商品として展開する。
地域金融機関が事業拡大を支援する。
こうした連携が生まれれば、一つの農福連携事業から地域内の企業取引を増やすことができます。
福祉政策と農業政策を組み合わせ、さらに地域産業政策へ発展させることができます。
結論
農福連携とは、農業と福祉を結び付け、農業の人手不足と障害者の就労機会という二つの課題を同時に改善しようとする取り組みです。
重要なのは、障害者を単なる人手不足の補充として考えないことです。
農作業を細かく分け、それぞれの人が能力を発揮できる仕事をつくる必要があります。
さらに、働く機会を提供するだけでなく、十分な所得につなげることが重要です。
そのためには農産物を生産するだけではなく、加工、販売、飲食などを組み合わせて付加価値を高める必要があります。
小山市の桑を利用した取り組みは、地域で使われなくなりつつあった資源を再び商品化し、障害者の仕事と所得を生み出す事例です。
農業、福祉、地域資源、商品開発を一つにつなげる。
農福連携をこうした地域経済の仕組みへ発展させることができれば、人口減少時代の地方を支える新しい産業モデルの一つになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 自治体SDGs、企業が相棒
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 SDGsパートナー 甲府の登山用品店、天然素材の衣類提案