人口減少や少子高齢化、人手不足、地域産業の衰退など、地方が抱える課題は複雑になっています。
こうした課題を行政だけで解決することは難しくなっています。そこで広がっているのが、自治体と地域企業が連携してSDGsを地域政策に取り込む動きです。
自治体がSDGsに取り組む企業や団体を登録、認証し、地域課題を一緒に解決するパートナーとして位置付ける制度も全国に広がっています。
日本経済新聞によると、2025年10月時点で地方創生SDGsの宣言、登録、認証制度を設けている自治体は全国105自治体、登録する企業や団体は約5万7400に達しています。
SDGsは単なる環境活動ではありません。地域産業、雇用、福祉、教育、人口減少などをまとめて考える地域政策としても重要になっています。
SDGsとは何か
SDGsは持続可能な開発目標のことで、2015年の国連サミットで採択されました。
2030年を目標年として、17の目標が設定されています。
例えば、貧困をなくすこと、健康や福祉を充実させること、質の高い教育を実現すること、働きがいと経済成長を両立すること、住み続けられるまちづくりを進めることなどです。
環境問題だけを対象としているわけではありません。
経済、社会、環境という幅広い問題を相互に関連するものとして捉えているところにSDGsの特徴があります。
地方自治体にとっては、人口減少や産業振興、地域福祉といった従来から存在する政策課題と非常に親和性があります。
地方創生SDGsとは何か
日本政府は2016年、SDGsを地方創生の原動力として活用する方針を示しました。
地方創生SDGsでは、国際的なSDGsの考え方を地域政策に落とし込みます。
例えば、地域企業の雇用を増やすことは経済成長だけでなく人口流出の防止につながります。
廃棄物を再利用すれば環境負荷を減らすだけでなく、新しい地域産業を生み出す可能性があります。
障害者の就労機会を増やせば福祉政策であると同時に、人手不足への対応や地域経済への参加促進にもなります。
一つの政策によって複数の地域課題を同時に解決しようとするところが地方創生SDGsの重要な考え方です。
自治体の登録認証制度とは何か
地方創生SDGsを地域全体に広げるために利用されているのが、自治体による企業や団体の登録、認証制度です。
企業がSDGsに関する取り組みや目標を自治体に示し、一定の要件を満たせば登録や認証を受けます。
重要なのは、単に企業へお墨付きを与えることではありません。
地域の中で、どの企業がどのような課題に取り組んでいるのかを見えるようにする役割があります。
環境問題に取り組む企業、福祉に強い団体、地域資源を持つ企業などが分かれば、企業同士の連携もしやすくなります。
登録企業の一覧そのものが地域課題を解決するための企業データベースになるわけです。
福井県はなぜ全国トップなのか
人口10万人当たりの登録企業、団体数を見ると、福井県は194で全国トップとなっています。
全国平均の47を大きく上回ります。
福井県は少子高齢化や人手不足への対応を地域全体で進めるため、2020年に福井県SDGsパートナーシップ会議を設けました。
特徴的なのは、登録制度を企業の宣言だけで終わらせず、企業同士の連携につなげようとしていることです。
2026年2月には企業間マッチングを目的とした新しいポータルサイトも開設しました。
自治体がすべての事業を実施するのではなく、企業同士が地域課題を見つけ、解決策を生み出す環境を整えようとしているのです。
繊維廃材を新しい資源に変える
福井県の代表的な事例が繊維産業です。
福井県は国内有数の繊維産地ですが、製造工程で発生する廃材の処理という問題があります。
一般社団法人ぐるぐるふくいは、繊維資材企業のSHINDOなどと連携し、廃材から新しい糸をつくるリサイクルに取り組んでいます。
ここで重要なのは、一社だけでは解決しにくい問題を複数の企業や団体が協力して解決していることです。
ある企業にとっては廃棄物だったものが、別の企業にとっては原材料になる可能性があります。
地域内で資源を循環させる仕組みができれば、廃棄物を減らしながら新しい産業や商品を生み出すこともできます。
SDGsが地域企業を結び付ける共通言語として機能している事例といえます。
地域産業と福祉を結び付ける
SDGsは環境問題だけではありません。
栃木県小山市では、かつて結城紬を支えた桑を利用した農福連携が行われています。
社会福祉法人パステルでは桑の葉や実を、お茶、パン、ドレッシング、ジャムなどの商品に利用しています。
障害者が生産や販売、レストラン運営などに関わることで、地域産業の再生と障害者の就労支援を組み合わせています。
記事によると、障害者が受け取る月額工賃は5万8000円で、全国平均の2倍を超える水準です。
地域資源の活用、福祉、雇用、地域経済という複数の課題を一つの事業で結び付けているところが特徴です。
多文化共生もSDGsになる
川崎市では、多文化共生をSDGsにつなげる取り組みもあります。
レイモンド川崎保育園では、園児約50人のうち4割が海外にルーツを持っています。
園内には複数言語の挨拶を掲示し、母国語の絵本を用意するなど、文化や言語の違いを自然に受け入れられる環境を整えています。
誰もが暮らしやすい地域をつくることも持続可能なまちづくりの一部です。
SDGsというと脱炭素やリサイクルを想像しがちですが、多様性、教育、福祉なども重要なテーマなのです。
天然素材を使うことも地域企業のSDGsになる
山梨県甲府市の登山用品店エルクでは、天然素材を使った衣類を提案しています。
背景にあるのが、化学繊維から発生するマイクロプラスチックへの問題意識です。
そこでブータンの家畜であるヤクの毛を使った製品を開発しました。
さらに、販売して終わるのではなく、ほつれや虫食い穴などについて可能な限り補修にも対応しています。
大量生産、大量消費、大量廃棄ではなく、良いものを長く使うという考え方です。
地域の中小企業でも、自社の商品やサービスの延長線上でSDGsに取り組めることを示しています。
企業にとって登録するメリットは何か
企業にとって自治体のSDGs制度への参加には、いくつかの意味があります。
第一に、自社の取り組みを地域社会に知ってもらいやすくなります。
第二に、同じ問題意識を持つ企業や団体との接点が生まれます。
第三に、採用面で企業の姿勢を示す材料になります。
特に地方企業では若年層の採用と定着が大きな課題です。
兵庫県では登録企業へ学生を派遣してSDGsの取り組みを紹介する動画を作成するなど、SDGsと若者の県内就職を結び付けています。
つまりSDGsは社会貢献活動だけではなく、採用、人材確保、企業間連携、商品開発など経営戦略にも関係してきます。
登録企業数が多ければ成功なのか
一方で注意しなければならない問題があります。
登録企業数を増やすこと自体が目的になってしまうことです。
企業がSDGsへの取り組みを宣言して登録されたとしても、その後に具体的な行動がなければ地域課題の解決にはつながりません。
いわゆるSDGsウォッシュの問題です。
そのため今後は、何社登録したかだけでなく、登録後に何が変わったのかを見る必要があります。
廃棄物がどれだけ減ったのか。
地域雇用がどれだけ増えたのか。
障害者の所得がどれだけ改善したのか。
若者の地域定着率がどう変化したのか。
こうした成果まで検証する仕組みが重要になります。
2030年以降も地域課題は続く
SDGsの国際的な目標年は2030年です。
しかし、人口減少、少子高齢化、人手不足、地域産業の衰退といった日本の地方が抱える問題が2030年に終わるわけではありません。
むしろ重要なのは、SDGsという看板そのものではなく、その過程で自治体と企業、住民、金融機関、学校、福祉団体などが協力する仕組みを地域に残せるかどうかです。
行政が地域課題を発見し、補助金を出して解決するという従来型のモデルだけでは限界があります。
自治体が企業を政策の対象として見るのではなく、地域を一緒につくるパートナーとして位置付ける。
地方創生SDGsの本当の意味は、この関係の変化にあるのかもしれません。
結論
自治体SDGsとは、自治体がSDGsに取り組むだけの制度ではありません。
地域企業や団体を登録、認証し、それぞれが持つ技術、人材、資源、アイデアを結び付けながら地域課題を解決する仕組みです。
福井県の繊維廃材リサイクル、小山市の桑を利用した農福連携、川崎市の多文化共生、甲府市の天然素材を使った商品開発を見ると、SDGsは地域の具体的な問題と結び付いて初めて意味を持つことが分かります。
これから問われるのは登録企業の数ではなく、登録をきっかけとして企業同士がどれだけつながり、どれだけ具体的な地域課題を解決できたかでしょう。
人口減少時代の地方創生では、行政だけで地域を支えることは難しくなります。
自治体が企業を支援するという一方向の関係から、自治体と企業が互いの強みを持ち寄って地域を経営する関係へ変わっていくことが、持続可能な地域づくりの重要な鍵になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 自治体SDGs、企業が相棒
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 SDGsパートナー 甲府の登山用品店、天然素材の衣類提案