地方自治体が公共施設や道路などを整備するために地方債を発行すると、将来その元本と利息を返済しなければなりません。
地方債の返済方法は一つではありません。
代表的な方法として、満期まで元本を残して最後にまとめて返済する満期一括償還と、一定の時期ごとに元本を少しずつ返済していく定時償還があります。
金利が極めて低い時代には、元本を長期間残していても利払い負担はそれほど大きくありませんでした。
しかし金利が上昇すると事情が変わります。
元本を早い段階から減らしていけば、その後に利息を支払う対象となる元本も小さくなります。
川崎市は2026年7月、バブル崩壊後では10年債として初めて定時償還債を発行しました。
地方債金利が上昇するなか、自治体が利払い負担を抑える方法の一つとして定時償還債が改めて注目されています。
定時償還債とは元本を途中から返していく地方債
定時償還債とは、地方債の元本を満期日にまとめて返済するのではなく、あらかじめ定められた時期に一定額ずつ返済していく債券です。
例えば100億円を10年間借りるとします。
満期一括償還であれば、基本的には満期まで100億円の元本が残り、10年後に100億円をまとめて返済します。
一方、定時償還では途中から一定額ずつ元本を返していきます。
100億円だった元本が90億円、80億円、70億円というように徐々に減っていくイメージです。
最終的には満期までにすべての元本を返済します。
住宅ローンなどで元本を少しずつ返済していく仕組みを考えると分かりやすいでしょう。
地方債でも、元本をどの時点で返済するかによって利払い負担が変わります。
満期一括償還では元本が最後まで残る
満期一括償還では、債券の満期まで元本を基本的に返済しません。
例えば100億円の10年債を発行した場合、満期まで100億円を借りている状態が続きます。
そのため利息も100億円を基準として支払うことになります。
仮に単純化して金利が3%であれば、100億円に対する年間の利息は3億円です。
元本が減らなければ、その金額を基準とした利払いが続きます。
満期になると100億円をまとめて返済します。
ただし自治体では、満期時の巨額の負担に備えて減債基金への積み立てを行うなど、償還財源を平準化する仕組みも利用されています。
したがって満期一括償還だからといって、満期まで返済準備を何もしないという意味ではありません。
定時償還では利息を計算する元本が減っていく
定時償還の大きな特徴は、実際の地方債残高が途中から減っていくことです。
例えば100億円を借り、一定期間後から毎年10億円ずつ元本を返済するとします。
最初は100億円に対して利息を支払います。
10億円を返済すれば残りは90億円です。
次の期間では90億円に対する利息を支払います。
さらに10億円を返済すれば80億円となり、その後の利息も80億円を基準として計算されます。
このように元本が徐々に減っていくため、利息を支払う対象となる金額も小さくなります。
金利が高くなるほど、この効果は大きくなります。
なぜ総利払い額を抑えられるのか
利息は基本的に借りている元本と金利によって決まります。
元本が大きく、借入期間が長く、金利が高いほど利払い額は増えます。
定時償還では、このうち元本を早い段階から減らすことができます。
例えば100億円を金利3%で借り続ければ、単純計算では年間3億円の利息になります。
しかし元本を80億円まで減らせば、同じ3%でも年間利息は2億4000万円です。
元本が50億円まで減れば1億5000万円になります。
実際の地方債では償還時期や利払い条件などによって計算は異なりますが、基本的な考え方は同じです。
借金を早く減らせば、その後に支払う利息も減るのです。
金利が低いと元本を早く返す効果は小さい
定時償還による利払い削減効果は、金利水準によって大きく変わります。
例えば金利が0.1%であれば、100億円に対する年間利息は単純計算で1000万円です。
元本を10億円減らして90億円にしても、年間利息は900万円となり、差は100万円です。
ところが金利が3%なら、100億円の年間利息は3億円、90億円なら2億7000万円です。
差は3000万円になります。
元本を同じ10億円減らしても、金利が高いほど削減できる利息は大きくなります。
このため超低金利時代と金利上昇時代では、償還方法を工夫する意味も変わってきます。
川崎市が定時償還債を発行した理由
川崎市ではJR南武線の立体交差や等々力緑地整備など、大型公共事業が相次いでいます。
市債発行額も増加し、2029年度には1233億円まで膨らむ見通しです。
一方、市債金利も上昇しています。
2026年8月に発行した10年債の表面利率は3.017%となり、3%台に乗ったのは1996年以来となりました。
借入額が増える時期に金利も上昇すれば、将来の利払い負担は大きくなります。
そこで川崎市は2026年7月、バブル崩壊後では10年債として初めて定時償還債を発行しました。
元本を少しずつ減らすことで、満期一括償還と比べて総利払い額を抑える狙いがあります。
金利上昇に対応する資金調達上の工夫といえます。
定時償還なら必ず有利とは限らない
もっとも、定時償還債にすればすべての問題が解決するわけではありません。
元本を早く返済するということは、それだけ早い時期から返済財源を用意しなければならないということでもあります。
満期一括償還なら元本の実際の償還は満期時ですが、定時償還では途中から現金による返済が始まります。
自治体の毎年度の資金繰りには、その分の負担が発生します。
さらに地方債を購入する投資家にとっても、元本が途中で返ってくれば、その資金を別の金融商品に再投資しなければなりません。
そのため発行条件については、自治体側の都合だけでなく投資家需要も考える必要があります。
利払い総額だけでなく、毎年度の財政負担や市場で地方債を安定的に販売できるかまで含めて判断する必要があります。
満期一括償還にもメリットがある
満期一括償還にも合理性があります。
元本を満期まで利用できるため、自治体は調達した資金を長期間確保できます。
また毎年元本を直接返済する必要がないため、資金管理を行いやすい面があります。
さらに満期一括償還方式でも、減債基金に計画的に資金を積み立てることで、将来の償還に備えることができます。
したがって定時償還と満期一括償還のどちらが絶対的に優れているというものではありません。
金利水準、資金需要、財政状況、投資家需要などを考慮して使い分けることが重要です。
金利上昇時代には返し方も重要になる
超低金利時代の自治体財政では、どれだけ低い金利で地方債を発行できるかという問題そのものが目立ちにくい状況でした。
金利がほぼゼロに近ければ、償還方法による利払い額の違いも限定的だからです。
しかし地方債金利が2%、3%と上昇すれば状況は変わります。
同じ100億円を借りる場合でも、元本をいつ返すのかによって最終的な利払い総額が変わります。
自治体の資金調達では、いくら借りるのか、何年借りるのか、何%で借りるのかに加えて、どのように返すのかも重要になります。
定時償還債への注目は、自治体財政が超低金利を前提とした時代から金利コストを管理する時代へ移りつつあることを示しています。
結論
定時償還債とは、地方債の元本を満期日にまとめて返済するのではなく、一定期間ごとに少しずつ返済していく債券です。
元本が徐々に減るため、その後に利息を支払う対象となる金額も小さくなり、満期一括償還と比べて総利払い額を抑えられる可能性があります。
特に金利が高くなるほど、元本を早く減らす効果は大きくなります。
一方で、自治体は早い段階から元本返済のための財源を確保しなければならず、毎年度の資金繰りとのバランスも必要です。
超低金利時代には地方債の返し方による利払い差はそれほど目立ちませんでした。
しかし金利が3%前後になる世界では、借金の金額だけではなく返済方法まで財政運営を左右します。
地方債についても、どう借りるかと同じくらい、どう返すかが重要な時代になっているのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日 川崎市、大型投資続き市債発行増 30年ぶり高金利 逆風