海外投資家が日本の不動産を購入する理由として、よく挙げられるのが「日本の不動産は海外と比べて割安」という説明です。
東京のマンション価格は日本人から見ればすでに非常に高い水準にあります。
それでもニューヨークやロンドンなど世界の主要都市で不動産投資をしてきた海外ファンドには、東京が割安に見えることがあります。
一見すると矛盾しているようですが、これは「何と比較して高いのか」が違うからです。
住宅価格そのものを比較するのか。
家賃に対して比較するのか。
住民の所得に対して比較するのか。
さらに海外投資家なら為替まで考える必要があります。
日本のマンションが本当に割安なのかを考えるには、一つの価格だけではなく複数の尺度から見る必要があります。
東京の住宅価格はすでに高い
まず、日本人の感覚から考えてみます。
東京23区のマンション価格はここ数年、大幅に上昇しています。
中古マンションでも70平方メートル換算の希望売り出し価格が1億円を大きく超える水準となっています。
一般的な会社員世帯にとって簡単に購入できる価格ではありません。
住宅価格を日本人の所得と比較すれば、東京のマンションを「安い」と感じる人は少ないでしょう。
つまり国内の実需層から見れば、東京はすでに高額な住宅市場です。
海外投資家は東京だけを見ていない
一方、世界規模の不動産ファンドは比較対象が違います。
東京の不動産を、
ニューヨーク
ロンドン
パリ
シンガポール
香港
など世界の主要都市と比較します。
各都市について、
取得価格
家賃
空室率
金利
税制
人口動向
将来の賃料上昇
売却のしやすさ
などを比較し、どこへ資金を配分するか決めます。
そのため日本国内では非常に高く見える東京のマンションでも、世界の大都市と比較すると投資対象になり得ます。
同じ一億円でも為替で価格は変わる
海外投資家にとって特に重要なのが為替です。
例えば1億円のマンションを考えます。
1ドル100円なら100万ドルです。
1ドル125円なら80万ドルです。
1ドル160円なら62万5000ドルです。
円建て価格は同じ1億円です。
しかしドル投資家から見ると、為替だけで購入価格が大きく変わります。
日本のマンション価格が円建てで上昇していても、それ以上に円安が進めば、ドル建てではそれほど値上がりしていない場合があります。
海外投資家が日本の不動産に割安感を感じる理由の一つです。
住宅価格だけで割安とは判断できない
ただし、単純にマンション価格をドル換算して比較するだけでは不十分です。
投資家が購入するのは、建物そのものではなく、そこから得られる将来の収益でもあるからです。
例えば100億円のマンションから年間4億円のNOIを得られるなら、単純化したキャップレートは4%です。
同程度のリスクを持つ海外不動産のキャップレートが3%なら、日本の4%は相対的に高い収益率です。
反対に海外で5%の利回りを得られるなら、日本の4%が特別魅力的とは限りません。
不動産の割安割高を考える場合には、価格だけでなく収益との関係を見る必要があります。
家賃との比較が重要になる
住宅価格と家賃の関係を見る方法の一つが、価格に対してどの程度の賃料収入を得られるかという考え方です。
同じ1億円のマンションでも、
年間家賃収入が500万円
の場合と、
年間家賃収入が300万円
の場合では投資価値が違います。
もちろん実際には空室や管理費などを差し引いてNOIを見る必要があります。
海外ファンドが都市を比較するときには、物件価格だけではなく、その価格からどれだけ安定した収益を得られるかを確認します。
ニューヨークやロンドンが高くても理由がある
世界の主要都市で住宅価格が高いのには理由があります。
例えばニューヨークやロンドンは世界中から、
企業
富裕層
金融機関
投資家
人材
が集まります。
住宅だけでなくオフィスや商業施設への需要も強く、土地には限りがあります。
そのため不動産価格が高くなりやすくなります。
東京も世界最大級の都市圏ですが、海外投資家から見た不動産価格や収益性が他都市と異なる場合があります。
単純な一平方メートルあたりの価格だけでは比較できません。
東京には市場規模という強みがある
海外ファンドが東京を見るとき、単に価格が安いことだけを評価しているわけではありません。
東京には非常に大きな賃貸住宅市場があります。
人口が多く、
鉄道網が発達している
単身世帯が多い
賃貸住宅の需要が厚い
不動産取引市場が大きい
といった特徴があります。
大型ファンドにとっては、安いだけの市場よりも、巨額の資金を投じられ、将来売却できる市場のほうが重要です。
東京はその条件を満たしやすい都市の一つです。
家賃の上昇余地も評価される
海外投資家が見るのは現在の家賃だけではありません。
将来の家賃上昇余地も重要です。
例えば海外主要都市では住宅価格も家賃もすでに非常に高い一方、日本では長期間にわたって家賃の上昇が限定的だった地域があります。
そこからインフレ経済へ移行し、
賃金が上昇する
物価が上昇する
都市人口が増える
住宅供給が限られる
という状況になれば、家賃にも上昇余地があると判断する投資家が出てきます。
現在の利回りだけでなく、将来NOIが増える可能性まで含めて評価するわけです。
所得との比較では東京は違って見える
一方、住民の所得と住宅価格を比較すると、まったく違う姿になります。
東京のマンション価格が日本人の平均所得より速いペースで上昇すれば、住宅取得能力は低下します。
つまり、
世界の不動産投資家から見ると割安
日本の居住者から見ると割高
という状態が同時に成立する可能性があります。
これは矛盾ではありません。
投資家と居住者では、価格を評価する基準が違うからです。
所得から離れすぎれば家賃にも限界が出る
もっとも、投資家の評価と住民の所得が永久に切り離されるわけではありません。
賃貸マンションでは最終的に入居者が家賃を支払います。
家賃が所得に対して高くなりすぎれば、
郊外へ移る
より狭い住宅へ移る
家賃の安い物件を選ぶ
といった動きが起こります。
すると家賃上昇が止まり、NOIの成長も鈍化します。
海外投資家が期待した収益増加が実現しなければ、不動産価格にも影響します。
投資資産としての価値も最終的には実際の住宅需要から完全に独立することはできません。
円安による割安感にも逆回転がある
為替による割安感も永久には続きません。
例えば円安局面で日本の不動産を購入した海外投資家にとって、その後さらに円安が進めば外貨換算した資産価値は減少する可能性があります。
逆に円高になれば既存投資家には為替差益が生じることがありますが、新しく購入する投資家には日本の不動産が高く見えるようになります。
つまり円安は海外資金を呼び込む一因になっても、将来の為替変動は出口戦略のリスクにもなります。
東京の価格が上昇すれば割安感は薄れる
海外マネーが東京の不動産を割安と判断して購入すれば、当然価格は上昇します。
価格が上昇してもNOIが変わらなければキャップレートは低下します。
例えばNOI4億円のマンションが100億円ならキャップレートは4%です。
価格が120億円まで上昇すれば約3.3%になります。
その段階で海外の別都市の不動産や債券のほうが魅力的になれば、資金流入は鈍ります。
割安だから資金が入る。
資金が入るから価格が上がる。
価格が上がるから割安感がなくなる。
市場にはこのような自己調整の仕組みがあります。
日本全体が割安なわけではない
もう一つ注意したいのは、「日本の不動産」という一括りでは考えられないことです。
海外ファンドが積極的に投資するのは、
東京
大阪
名古屋
福岡
など大都市圏が中心です。
さらに同じ都市でも、
駅に近い
築年数が浅い
高い稼働率
賃料上昇余地がある
売却しやすい
といった条件の物件に資金が集中します。
海外投資家から見た割安感とは、日本全国の住宅が安いという意味ではなく、世界的な投資対象として条件の良い一部の不動産に魅力があるという意味で考える必要があります。
結論
日本のマンションが海外より割安かどうかには、一つの答えはありません。
日本人の所得と住宅価格を比較すれば、東京のマンションはすでに非常に高い水準にあります。
一方、海外ファンドは東京をニューヨークやロンドンなど世界の主要都市と比較し、価格だけでなく家賃、NOI、キャップレート、金利、将来の賃料上昇などから投資価値を判断します。
さらに円安になれば、円建て価格が上昇していてもドル建てでは相対的に安く見えることがあります。
そのため「日本人には高いのに海外投資家には割安」という状況が成立します。
ただし、その割安感も永久ではありません。
海外資金が流入してマンション価格が上昇すればキャップレートは低下します。
円高になれば為替面の割安感も薄れます。
そして家賃の最終的な支払能力は、日本で暮らす人々の所得に左右されます。
日本のマンションが本当に割安なのかを考えるときに重要なのは、単純な価格比較ではありません。
誰から見た価格なのか。
どの通貨で見るのか。
どれだけの家賃を生むのか。
どの程度の利回りが得られるのか。
世界の主要都市と比べてどのような位置にあるのか。
複数の尺度を重ねて初めて、海外ファンドが日本のマンションに巨額の資金を投じる理由が見えてくるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「マンション、海外マネー増勢 カナダファンドが1000億円 資金流入で高値続く」
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「投資ファンド 不動産や企業買収活発に」