賃貸マンションへの投資を考えるとき、最も分かりやすい数字は家賃です。
例えば月10万円の部屋が100戸あれば、満室なら年間家賃は1億2000万円になります。
しかし、この1億2000万円がそのままマンションの利益になるわけではありません。
空室があれば家賃は入ってきません。建物を維持するためには管理費や修繕費がかかり、固定資産税や保険料なども必要になります。
そこで不動産ファンドが物件の本当の収益力を見るために重視する数字が「NOI」です。
海外ファンドが数百億円、1000億円という規模で日本のマンションを購入するときにも、単純な家賃収入ではなく、物件から実際にどれだけの収益を生み出せるのかが重要になります。
NOIとは何か
NOIはNet Operating Incomeの略で、日本語では営業純利益などと呼ばれます。
基本的な考え方は、
不動産から得られる収入から不動産を運営するために必要な費用を差し引く
というものです。
例えば年間の実質的な収入が1億2000万円あり、年間の運営費用が2000万円なら、NOIは1億円です。
不動産投資では、このNOIが物件の収益力を判断する重要な指標になります。
前に取り上げたキャップレートや収益還元価格を考えるときにもNOIが使われます。
家賃収入だけでは実力が分からない
例えば二つのマンションがあり、どちらも年間家賃収入が1億円だったとします。
一見すると同じ収益力に見えます。
しかし一方のマンションでは年間の運営費用が2000万円、もう一方では4000万円かかるとします。
前者のNOIは8000万円です。
後者のNOIは6000万円です。
年間家賃収入は同じ1億円でも、実際に物件から残る収益には2000万円の差があります。
そのため投資家は「家賃がいくら入ってくるか」だけではなく、「費用を差し引いた後にいくら残るか」を見ます。
賃料収入以外の収入もある
マンションの収入は住戸の家賃だけとは限りません。
例えば、
駐車場収入
駐輪場収入
店舗賃料
自動販売機収入
その他の付帯収入
などがあります。
これらを含めて物件全体の収入を把握します。
ただし募集資料などに記載されている満室想定賃料が、そのまま実際の収入になるわけではありません。
空室や家賃滞納なども考える必要があります。
そのため投資家は、実際にどの程度の収入を継続的に得られるのかを確認します。
空室があればNOIは減る
例えば100戸のマンションがあり、1戸あたりの家賃が月10万円だったとします。
満室なら年間家賃は1億2000万円です。
しかし10戸が年間を通じて空室なら、その10戸から家賃は入りません。
単純化すると年間家賃収入は1億800万円になります。
さらにそこから運営費用を差し引きます。
つまり同じ建物、同じ家賃設定でも、稼働率によってNOIは変わります。
不動産ファンドが稼働率を重視するのはこのためです。
管理費はNOIを左右する
マンションを維持するためには管理費が必要です。
例えば、
共用部分の清掃
エレベーターの保守
設備点検
管理員
建物管理会社への委託費
などです。
管理サービスを削減すれば短期的には費用を減らせるかもしれません。
しかし管理状態が悪化して入居者が減れば、長期的にはNOIが低下する可能性があります。
そのため単純なコスト削減ではなく、物件の競争力を維持しながら運営費を最適化することが重要です。
修繕費も無視できない
建物は時間とともに劣化します。
給排水設備や空調設備、エレベーターなどには修繕が必要です。
入居者が退去すれば、次の入居者を迎えるために室内の修繕や清掃が必要になる場合もあります。
こうした支出も不動産投資の収益性に影響します。
特に築年数が古いマンションでは、将来的に大きな修繕費が発生する可能性があります。
そのため同じ家賃収入でも、新しいマンションと古いマンションでは投資家の評価が違うことがあります。
固定資産税なども運営費になる
不動産を所有すれば税金も発生します。
代表的なのが固定資産税や都市計画税です。
さらに損害保険などの費用もあります。
こうした費用は入居者がいるかどうかにかかわらず発生するものがあります。
家賃収入が減っても一定の費用は残るため、空室が増えるとNOIが急速に悪化することがあります。
収入だけでなく固定的な支出を見ることが重要なのです。
借入金の利息は通常NOIとは分けて考える
NOIを理解するときに注意したいのが借入金です。
不動産ファンドは金融機関から借り入れて物件を購入することがあります。
しかし一般的なNOIの計算では、借入金の利息や元本返済は物件そのものの運営費用とは分けて考えます。
なぜなら同じマンションでも、
全額自己資金で買う投資家
半分を借入金で買う投資家
大部分を借入金で買う投資家
では金融費用が違うからです。
NOIではまず、資金調達方法とは切り離して不動産そのものがどれだけ稼ぐ力を持っているかを見ます。
その後に借入金利などを考慮して、投資家自身の最終的な収益を判断します。
表面利回りとは何が違うのか
不動産広告などでは「利回り5%」といった数字を見ることがあります。
ここで使われることが多いのが表面利回りです。
非常に単純化すると、
年間家賃収入を物件価格で割る
ことで求めます。
例えば1億円のマンションから年間500万円の家賃を得られるなら、表面利回りは5%です。
しかし実際には管理費や修繕費、税金などがかかります。
仮に年間100万円の運営費がかかれば、NOIは400万円です。
物件価格1億円に対する実質的な収益力は4%になります。
表面利回り5%だけを見て投資判断すると、実際の収益を過大評価する可能性があります。
NOIが増えると不動産価値も上がる
NOIが重要なのは、毎年の利益を見るためだけではありません。
不動産の資産価値にも直結します。
例えば年間NOIが1億円、キャップレートが4%なら、単純化した評価額は25億円です。
運営改善によってNOIを1億1000万円まで増やせたとします。
キャップレートが4%のままなら評価額は27億5000万円になります。
NOIを年間1000万円増やしたことで、理論上の不動産価値は2億5000万円増えます。
このため不動産ファンドはNOIの改善に力を入れます。
ファンドはNOIをどう増やすのか
NOIを増やす方法は大きく二つあります。
収入を増やすことと、運営費用を抑えることです。
収入面では、
賃料引上げ
空室削減
駐車場など付帯収入の増加
などがあります。
費用面では、
管理契約の見直し
設備運営の効率化
一括発注
省エネルギー化
などが考えられます。
数十棟、数千戸を保有する大型ファンドなら、わずかな改善でも全体では大きなNOI増加につながります。
NOIだけを増やせばよいわけではない
もっとも、短期的にNOIを増やすことだけを考えると問題が生じることがあります。
例えば必要な修繕を先送りすれば、一時的には支出を減らしてNOIを高く見せることができます。
しかし建物の劣化が進めば、将来さらに大きな修繕費が必要になる可能性があります。
管理サービスを過度に削減すれば、入居者満足度が下がり、退去が増えることもあります。
そのためプロの投資家は、現在のNOIだけでなく将来にわたって持続可能なNOIなのかを確認します。
海外ファンドが築浅物件を好む理由も見える
今回、海外ファンドが取得したマンション群は平均築年数が4年未満とされています。
築浅物件には、
設備が比較的新しい
大規模修繕まで時間がある
入居者を集めやすい
高い家賃を設定しやすい
といった特徴があります。
これらはNOIの安定性につながります。
単に新しい建物だから人気があるというだけではなく、将来の運営費と賃料収入を考えた場合にも投資しやすいのです。
結論
NOIとは、不動産から得られる収入から、その不動産を運営するために必要な費用を差し引いた営業純利益です。
不動産ファンドがマンションの収益力を見るとき、単純な家賃収入より重要な数字になります。
年間家賃が同じマンションでも、空室率や管理費、修繕費などが違えばNOIは大きく変わります。
また一般的なNOIでは借入金利などを分けて考えるため、資金調達方法に左右されず、物件そのものが持つ稼ぐ力を比較できます。
さらにNOIはキャップレートを通じて不動産価格にもつながります。
NOIが増えれば、キャップレートが同じでもマンションの評価額は上昇します。
だからこそ大型ファンドは、マンションを購入した後に家賃を引き上げ、空室を減らし、運営コストを効率化しようとします。
不動産投資を見るときに重要なのは、「家賃はいくらか」だけではありません。
その家賃から実際にいくら残るのか。
NOIを見ることで、マンションが本当に持っている収益力と、投資ファンドが何を見て数百億円、1000億円という価格を付けているのかが分かってくるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「マンション、海外マネー増勢 カナダファンドが1000億円 資金流入で高値続く」
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「投資ファンド 不動産や企業買収活発に」