株式市場の値動きが大きくなると、投資家は「いったん売った方がよいのではないか」と考えがちです。
特に株価が大きく上昇した後では、せっかく積み上がった含み益を失いたくないという心理が働きます。
しかし、長期の資産形成では、相場の上げ下げを予想して売買することよりも、自分がどの程度の値下がりまで耐えられるのかを考え、それに合わせて資産配分を整えることの方が重要です。
株式相場が高値圏にあり、値動きも大きくなっている今、改めて注目したいのがリバランスです。
そして、株式の比率を下げる受け皿の一つとして、金利上昇によって存在感を増しているのが個人向け国債です。
長期投資では相場を当てる必要はない
NISAの普及によって、全世界株式や米国株式などに連動するインデックス型投資信託を積み立てる人が増えました。
積み立て投資の大きな利点は、相場のタイミングを判断しなくても投資を継続できることです。
価格が高いときには少ない口数を買い、価格が安いときには多くの口数を買います。
購入時期を分散することで、一度に高値で買ってしまうリスクを抑えることができます。
長期投資では、さらに運用益を再投資することによる複利効果も期待できます。
したがって、株価が上がったから売る、下がったから買うという短期的な判断を繰り返すことが必ずしも資産形成につながるわけではありません。
むしろ重要なのは、長期間市場に居続けられる資産配分をつくることです。
株式は長期では有力でも短期では大きく下がる
世界株式への長期投資には高い成長性が期待できます。
一方で忘れてはいけないのが、株式には大幅な値下がりがあるということです。
過去には金融危機などによって世界の株式市場が短期間で大幅に下落したことがあります。
問題になるのは、その下落がいつ起きるのか分からないことです。
30歳の投資家であれば、大幅な下落が起きても、その後20年、30年と運用を続けられる可能性があります。
ところが、60歳前後で老後資金を取り崩す時期が近づいている場合は事情が違います。
株式市場が大幅に下落した直後に生活資金が必要になれば、価格が回復するまで待てない可能性があります。
年齢が上がるにつれて重要になるのは、期待リターンだけではなく、資産を使う時期との関係です。
リバランスとは資産の比率を元に戻すこと
例えば、当初の資産配分を株式70%、安全資産30%と決めたとします。
その後、株式市場が大きく上昇すると、株式80%、安全資産20%になっているかもしれません。
資産総額は増えていますが、同時にポートフォリオ全体のリスクも高くなっています。
そこで株式の一部を減らし、安全資産を増やして、当初決めた資産配分に戻します。
これがリバランスです。
リバランスの目的は利益を最大化することではありません。
自分が許容できる範囲にリスクを戻すことです。
株価が上昇しているときほど、知らないうちに株式比率が高まっていることがあります。
荒れ相場は、自分の資産配分を確認する良い機会ともいえます。
個人向け国債の存在感が高まっている
株式比率を引き下げる場合、問題になるのが資金の移し先です。
そこで選択肢になるのが個人向け国債です。
個人向け国債には、固定3年、固定5年、変動10年があります。
国が発行する債券であり、1万円から購入できます。
大きな特徴は、発行から1年を経過すれば原則として中途換金できることです。
中途換金では直前2回分の利子相当額が差し引かれますが、一定の換金性を確保しながら元本を維持する仕組みになっています。
通常の債券は市場金利が上昇すると債券価格が下落します。
そのため満期前に市場で売却すると、購入価格を下回ることがあります。
個人向け国債はこの点で通常の債券とは性格が異なり、個人が安全資産として保有しやすい設計になっています。
金利上昇で安全資産にも利回りが戻ってきた
長期間続いた超低金利の時代には、安全資産を保有することには大きな機会費用がありました。
預金や国債ではほとんど利息が得られなかったからです。
そのため、資産を増やそうとすると株式などのリスク資産への投資比率を高めざるを得ない面がありました。
ところが金利のある世界が戻ってくると状況は変わります。
記事によれば、個人向け国債の固定5年の2026年9月発行分の利率は年2.06%となっています。
安全性の高い資産でも一定の利回りを得られるようになれば、株式だけで資産を増やそうとする必要性は以前より低くなります。
これは個人の資産運用にとって大きな環境変化です。
株式八割と国債二割でも値下がりは変わる
例えば1000万円をすべて世界株式で運用しているとします。
世界株式が30%下落すれば、資産は単純計算で700万円になります。
一方、世界株式800万円、個人向け国債200万円で保有していたとします。
仮に株式部分が30%下落し、国債部分の元本が維持されたとすると、
株式は800万円から560万円になります。
国債200万円と合わせれば760万円です。
資産全体の下落率は24%になります。
株式を20%減らしただけですが、100%株式の場合より下落額を60万円抑えられます。
もちろん、その後株価が大きく上昇すれば株式100%の方が利益は大きくなります。
つまり資産配分とは、どちらが得かという問題ではありません。
どこまでの値下がりを受け入れる代わりに、どこまでの収益を狙うのかという選択です。
中高年ほど取り崩し時期を考える必要がある
若い世代と中高年では、同じ株式投資でも意味が違います。
重要なのは年齢そのものではなく、資産を使うまでの期間です。
老後資金を20年以上使わないのであれば、60歳でも長期投資は可能です。
一方、数年後に住宅購入や退職後の生活費として使う資金まで株式で運用していれば、大幅下落時に困る可能性があります。
したがって資産を、
近いうちに使うお金
数年後に使うお金
長期間使わないお金
というように時間軸で考えることが重要です。
長期間使わない資金については株式で成長を狙い、近い将来必要になる資金については預金や個人向け国債などで安定性を確保するという考え方ができます。
NISAを売らないリバランスという方法もある
リバランスというと、値上がりした株式を売却して国債を購入するイメージがあります。
しかし、必ずしも株式を売る必要はありません。
例えばNISAで全世界株式を積み立てていて、株式比率が高くなりすぎたとします。
その後の新規資金を株式ではなく個人向け国債に振り向ければ、時間をかけて株式比率を下げられます。
いわば売らないリバランスです。
NISAで保有する投資信託を売却せず、新たに投資する資金を課税口座の個人向け国債へ回す方法も考えられます。
資産運用ではNISA口座だけを見るのではなく、預貯金や国債を含めた金融資産全体を見る必要があります。
NISAを使い切ること自体が目的ではない
NISAには大きな税制上のメリットがあります。
しかし、非課税だからといって金融資産の大半を株式にすることが自分にとって最適とは限りません。
NISAは資産形成のための制度であり、NISAの非課税枠を使い切ることそのものが資産形成の目的ではないからです。
株式
投資信託
預貯金
個人向け国債
その他の金融資産
これらを合わせた資産全体で、どの程度のリスクを取っているのかを見る必要があります。
特に株価が大きく上昇した後は、本人が意識しないまま株式比率が高くなっていることがあります。
相場が荒れてから慌てて売るのではなく、平時から自分に適した資産配分を決めておくことが重要です。
結論
荒れ相場になると、「株価はこれから上がるのか、下がるのか」という予想に目が向きます。
しかし長期の資産形成で本当に重要なのは、相場を当てることではありません。
株価が大幅に下落しても投資を続けられる資産配分をつくることです。
特に資産の取り崩し時期が近づく中高年では、株式だけではなく、安全資産を組み合わせる意味が大きくなります。
金利上昇によって、個人向け国債でも一定の利回りを確保できる環境になりました。
株式で成長を取り込みながら、個人向け国債などで安定性を確保する。
そして必要に応じてリバランスする。
株価が高いか安いかを考え続けるよりも、自分がどこまでの値下がりなら耐えられるのかを考えることが、長期の資産形成では重要なのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日 朝刊 荒れ相場、運用資産を見直す 個人向け国債で「安定」確保