株式市場が大きく上昇すると、いつの間にか金融資産に占める株式の割合が高くなっていることがあります。
例えば、当初は株式70%、安全資産30%で運用を始めても、株価が大きく上昇すれば株式80%、安全資産20%になっているかもしれません。
このようなときに行うのがリバランスです。
一般的には、増えすぎた株式を売却し、その資金で債券などを購入して元の資産配分に戻します。
しかし、NISAで長期投資をしている場合には、保有商品をできるだけ売却せず、新しく投資するお金の配分を変えることで資産全体を調整する方法があります。
これが売らないリバランスです。
通常のリバランスとの違い
通常のリバランスでは、値上がりして比率が高くなった資産を売り、比率が低くなった資産を買います。
例えば1000万円の金融資産を、株式70%、安全資産30%で保有していたとします。
株式700万円、安全資産300万円です。
その後、株式だけが大きく値上がりして900万円になったとすると、金融資産は合計1200万円になります。
株式比率は75%です。
これを再び70%に戻すのであれば、株式の一部を売却し、安全資産へ移す方法が一般的です。
これに対して売らないリバランスでは、株式を売却しません。
これから入ってくる給与や賞与などの新規資金を、安全資産へ重点的に振り向けます。
時間はかかりますが、新しい資金を使って徐々に目標とする資産配分へ近づけていくわけです。
新規資金によって資産配分を調整する
例えば、株式900万円、安全資産300万円を保有しているとします。
合計1200万円なので、株式75%、安全資産25%です。
目標を株式70%、安全資産30%としているのであれば、株式比率が5ポイント高くなっています。
ここで60万円の新規資金ができたとします。
これまでなら株式と安全資産の両方へ投資していたとしても、この60万円をすべて安全資産へ回します。
すると、
株式900万円
安全資産360万円
合計1260万円
となり、株式比率は約71%まで低下します。
株式を一株も売却していなくても、資産配分を目標へ近づけることができます。
これが売らないリバランスの基本的な考え方です。
積立額を変更する方法もある
毎月積み立てを行っている人なら、積立額そのものを調整する方法もあります。
例えば毎月10万円を投資しており、
株式8万円
安全資産2万円
としていたとします。
株価上昇によって株式比率が高くなったのであれば、一定期間、
株式3万円
安全資産7万円
などに変更します。
あるいは株式への新規投資を一時的に止め、10万円すべてを安全資産へ振り向ける方法もあります。
資産配分が目標に近づいたところで、再び通常の積立割合に戻します。
金融庁も、長期、積立、分散投資を組み合わせることによって、価格変動の影響を抑えながら安定的な資産形成を目指す考え方を示しています。
売らないリバランスは、この積立という仕組みを資産配分の調整にも利用する方法と考えることができます。
NISAの商品を売らないメリット
NISAでは、株式や投資信託から得られる売却益や配当、分配金が非課税になります。
2024年からのNISAでは非課税保有期間も無期限となっています。
そのため長期投資を前提としているのであれば、NISA口座の資産をそのまま長期間保有するという考え方があります。
もちろん、NISAの商品は必要に応じて売却できます。
現在のNISAでは商品を売却すると、その商品の取得価額に相当する非課税保有限度額が翌年以降に再利用できます。
ただし、その年の年間投資枠が売却によって復活するわけではありません。
例えば、その年に年間投資枠をすべて使っていれば、保有商品を売却したからといって、その売却額を使って同じ年に年間投資枠を超えてNISAで買い直すことはできません。
資産配分を調整するためだけに頻繁に売買する必要はないということです。
売らないことで相場判断を減らせる
売らないリバランスには、もう一つメリットがあります。
相場のタイミングを判断する必要が少なくなることです。
株価が上昇すると、
もう高値だから売った方がよいのではないか
さらに上がるかもしれないから売らない方がよいのではないか
という迷いが生じます。
しかし、リバランスの目的は株価の天井を当てることではありません。
自分が決めた資産配分へ戻すことです。
新規資金の投資先を変更するだけなら、現在保有している株式を売るかどうかについて判断する必要がありません。
長期投資を継続しながら、徐々にリスクを調整できます。
NISAと課税口座を一体で考える
売らないリバランスを考えるうえで重要なのが、NISA口座だけを見ないことです。
例えば、
NISAに全世界株式1000万円
銀行預金300万円
個人向け国債200万円
を保有しているとします。
NISAだけを見ると株式100%です。
しかし金融資産全体では1500万円のうち株式が1000万円なので、株式比率は約67%です。
残り約33%は預金や個人向け国債などの安全資産です。
このように資産配分は口座単位ではなく、金融資産全体で考える必要があります。
NISAだから株式、課税口座だから債券という制度上の区分だけを見るのではなく、最終的に自分がどの程度のリスクを取っているのかを見ることが重要です。
NISAで株式を持ち課税口座で安全資産を増やす方法
実際の資産形成では、NISAでは長期的な成長が期待できる株式投資信託を保有し、新しい資金の一部を課税口座の安全資産へ振り向ける方法も考えられます。
例えばNISAで全世界株式の積み立てを続けながら、株式比率が高くなってきたら、新規資金で個人向け国債を購入します。
するとNISAの商品を売却することなく、金融資産全体の株式比率を徐々に下げられます。
預貯金を増やすことでも同じ効果があります。
特に老後が近づき、今後数年間で使う予定のお金を確保したい場合には、新規資金を安全資産へ移していく方法が考えられます。
積立期から取り崩し期へ移行する過程で、売らないリバランスを利用することもできます。
売らないリバランスにも限界がある
ただし、売らないリバランスが常に適しているわけではありません。
金融資産が大きくなるほど、新規資金だけでは資産配分を修正しにくくなります。
例えば金融資産5000万円のうち株式が4000万円まで増えてしまった場合、毎月数万円の積み立て先を変更しても株式比率はなかなか下がりません。
また、株価の急上昇によって資産配分が大幅に崩れ、自分のリスク許容度を明らかに超えている場合には、株式の一部を売却して短期間で調整することも必要になります。
重要なのは売らないことそのものではありません。
自分が決めた資産配分を維持することです。
売却によるリバランスと新規資金によるリバランスを状況に応じて使い分けることになります。
リバランスは利益確定とは違う
株価が上昇したときに株式比率を下げると、結果的に一部の利益を確定することがあります。
しかし、リバランスと利益確定は目的が違います。
利益確定は、値上がりした資産の利益を確定することが目的です。
リバランスは、ポートフォリオのリスクを一定に保つことが目的です。
株価が今後上がるか下がるかを予想して行うものではありません。
あらかじめ株式70%、安全資産30%などの目標を決め、その比率から大きく外れた場合に調整します。
この考え方を持っていれば、株価が大きく動いたときにも感情だけで売買することを避けやすくなります。
結論
売らないリバランスとは、値上がりして比率が高くなった資産をすぐに売却するのではなく、新規資金や毎月の積立額を調整することで、資産配分を目標へ近づけていく方法です。
特にNISAで長期投資をしている場合には、NISAの商品を保有し続けながら、預貯金や個人向け国債などを増やして金融資産全体のリスクを調整できます。
大切なのは、NISA口座だけを見ないことです。
NISA、課税口座、預貯金、国債などを一つのポートフォリオとして考えます。
株価が上がったから売る。
株価が下がったから買う。
こうした相場予想ではなく、自分が決めた資産配分からどの程度ずれているのかを基準に行動する。
売らないリバランスは、長期投資を続けながらリスクを管理するための有力な方法の一つといえるでしょう。
参考
金融庁 NISA特設ウェブサイト 資産形成の基本
金融庁 NISA特設ウェブサイト NISAを知る
金融庁 NISA特設ウェブサイト よくある質問
日本経済新聞 2026年8月15日 朝刊 荒れ相場、運用資産を見直す 個人向け国債で「安定」確保